第四十二話:間違いだらけの薬草依頼
ギルドマスターが話を取られて落ち込んでいる中、受付嬢は気にせず説明を続けた。
「えーっとですね、ギルドの階級制度は、一等級から八等級までありまして、初心者の方はまず八等級からスタートなんですよ」
小さく呟くその姿は、まるで落ち込んだ子どものようだ。
だが、受付嬢は気にする様子もなく、さらに言葉を続ける。
「……オレのセリフだったのに……」小さく呟く。
受付嬢は続けた。
「もちろん、推薦状がある方は六等級から冒険者として登録できます。でも、あなた達は冒険の経験どころか、戦いの経験すら無いのですね?」
アランは「はい」と素直に頷く。
「でしたらまずは、実力を見極めるために依頼をこなしていただきます。冒険には危険がいっぱいですからね。推薦状があるからといって、いきなり死んでしまっては、私たちも困りますから」
その声には、柔らかさの中にも厳しさがあった。
「依頼を通じて、状況判断力や基礎的な実力を見させてもらいます。それをもとに、階級を正式に決定いたしますね」
その言葉を聞きながら、アランは道中で出会った赤髪の冒険者のことを思い出していた。彼女は自分のことを「三等級」だと名乗っていたはずだ。あの等級は、どれほどの実力なのか。
「……一つ聞いていいですか?」
「はい、なんでしょうか?」
「三等級の実力って、どれくらいなんですか?」
受付嬢が答えようとした瞬間――
「三等級は名前通り、上から三番目だな!」
ギルドマスターが勢いよく顔を上げ、割り込んだ。
「三等級ともなれば、複数の町を一人で守れる実力だ! ドラゴンを単独で倒せるほどで、ギルドの誇りと呼ばれる存在だぞ!」
「もー、私が説明してたのに……」
受付嬢は頬をぷくっと膨らませたが、ギルドマスターの熱は止まらない。
「二等級になると、もはや軍隊レベルだ! 国が傾くほどの力を持ってる! でっかい国は、二等級の冒険者がいるってだけで他国に威張れる!」
アランが目を見張る。
「一等級は……もう別格だ! 世界に数人しかいない。まさに“天災級”。その存在が動けば世界が揺れる! 現役を退いた者でさえも、世界中から監視されてるレベルだ!」
アランは心の中で思った。
(……あの、道で出会った赤髪の冒険者、もしかして……けっこうすごかったんだな)
そんな中、ギルドマスターが勢いよく机を叩いた。
「よし! まずは依頼だな! この依頼をこなしてこい!」
一枚の依頼書をアランに渡す。
「森で薬草を採ってくるだけの依頼だ。簡単に見えるが、油断するなよ? 採取したらギルドに戻って鑑定、それで完了だ」
「分かりました」とアランは受け取る。
エルも静かに頭を下げた。
「それと――」ギルドマスターはごそごそと何かを取り出した。
「嬢ちゃんにはこれをやろう」
渡されたのは小さなメイスだった。
「いざとなったらこれで身を守れ! 使い方は簡単、殴るだけだ!」
エルは小さく笑みを浮かべ、
「ありがとう」
とエルフ語で呟いた。
「えっ、な、何て言ったの……?」
ギルドマスターと受付嬢はぽかんとする。
アランが苦笑しながら言う。
「エルはエルフ語しか話せないんです」
懐からエルフ語の辞書を取り出し、ギルドマスターの話を伝える。
ギルドマスターは感動して頷いた。
「なるほど……エルフ語か。やっぱり伝説の存在だな……!」
ギルドマスターは勢いよく立ち上がり、声を張った。
「よし! 行ってこい! 戻ってきたときには、もう立派な冒険者だ!」
「分かりました。では、行ってきます」
と答え、エルにも目配せする。
「行こう」
力強く頷くアラン。エルも目を合わせ、小さく頷いた。
受付嬢がにっこりと笑い、ふたりをギルドの入口まで案内する。
「では、どうかお気をつけて」
アランとエルは軽く手を振り、森へと歩を進めた。
二人の背中が見えなくなった頃、ギルドマスターは静かに呟いた。
「今日は……とんでもない一日だったな」
「そうですね……」
受付嬢も穏やかに笑いながら、手に持った依頼書をふと見直した。
その瞬間、彼女の顔色が一変する。
「ギ、ギルドマスター! この依頼……薬草採取って書いてありますけど、これ、上位依頼です!」
「なにっ!?」
ギルドマスターは慌てて依頼書を奪い取り、目を走らせる。みるみる青ざめていく顔。
「し、しまった……薬草採取って書いてあったから初心者用だと……! よりにもよって、危険地域の採取依頼を渡しちまった……!」
彼はその場を飛び出そうとするが――
すでに、アランとエルの姿はどこにもなかった。
呆然と立ち尽くす二人。
「……どうしよう……」
森では、ふたりに予想もしない試練が迫っていた――。
そういえば、いままで戦闘シーンをまったく書いていませんでしたね。実は、赤髪の冒険者の場面で入れようと思っていたのですが、うまく話に馴染まなかったので見送りました。次回こそは、しっかり戦闘パートも盛り込んでいきたいと思っています!
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