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第四十一話:静寂の扉の向こうで

重厚な扉の前で足を止めたギルドマスターは、ゆっくりと扉を開いた。


その奥に広がるのは、無機質な石造りの密室だった。外界の音は一切届かず、静寂が支配している。壁一面に刻まれた魔法の紋様が、この部屋がただの空間ではないことを物語っていた。防音と防御、両方を兼ね備えた、まさに秘密の場だ。


ギルドマスターはためらうことなく部屋に入り、中央にある丈夫そうな木のテーブルへと歩いて行った。そして、ゆっくりと椅子に座り、静かに背もたれに寄りかかった。その動きには、ギルドマスターとしての威厳と、何かを決意したような雰囲気が漂っていた。


続いてアランとエルが入室する。アランは背筋を伸ばし、緊張した面持ちで席につく。エルは静かにその隣へ腰を下ろしたが、ヴェールで隠された静かな表情とは裏腹に、彼女の手はわずかに震えていた。


最後に受付嬢が扉を閉め、音もなくギルドマスターの後ろに立った。さっきまでエルに見惚れていた顔はもうなく、今は仕事に集中する真剣な表情をしていた。


しばしの沈黙ののち、ギルドマスターが腕を組み、深いため息をついて口を開く。


「さて……まずはお前たちが何者で、なぜお前はエルフと共にギルドを訪れたのか。説明してもらおうか。まあ、あの推薦状を見た時点で、おおよその察しはついているがな」


その声には、相手を試すような響きと、わずかな興味が混じっていた。


アランは一度深く息を吸い、隣のエルに目を向ける。彼女は小さく頷き、視線を伏せた。それを確認し、彼は静かに前を向いて語り始めた。


森でエルと出会い、彼女を助けたこと。教会にたどり着き、神父様に保護されたこと。旅の理由、そして彼から託された推薦状と、ここまでの通行証。


アランの言葉は決して流暢ではなかったが、一つひとつを噛みしめるように話すその姿から、誠実さと真心が伝わってくる。


その間、エルは黙ったままアランの横顔を見つめていた。彼女の瞳には、何か熱い感情が揺れていた。


そして――語り終えたその瞬間。


「うおおおおおぉぉおおん!!」


突然、ギルドマスターが椅子から身を起こし、片手で顔を覆いながら号泣し始めた。


「なんでだよぉぉ! なんで俺にはそんな運命的な出会いがなかったんだああ! 羨ましすぎるだろおおお! それに……感動的すぎるだろぉぉぉ!」


予想外の展開に、アランとエルはぽかんと口を開けたままだった。


受付嬢も、口元を押さえながら涙を浮かべている。


「エルちゃん……そんなに、そんなに苦労してたのね……」


ハンカチを取り出し、静かに目元を押さえる彼女の様子に、アランは戸惑いながらも、肩の力が少し抜けていくのを感じた。


やがてギルドマスターは鼻をすすりながら、アランに真剣な眼差しを向けた。


「お前たちの事情、よく分かった。教皇の耳に入れば厄介だが……先生は見事な判断を下した。さすがだよ」


(……やっぱり、先生ってあの神父様のことかな?……)


アランの胸の奥に、小さな疑問を浮かべていた。


ギルドマスターは背筋を伸ばし、力強く両腕を組んだ。


「お前たちには感動した! 特にアラン、お前がその子を守り抜いていること……心から敬意を表する! このギルドとしても、お前たちには全面的に協力しよう!」


その言葉には、偽りのない情熱がこもっていた。


圧倒されるような迫力に、アランとエルは思わず身を引く。


そのとき、受付嬢が勢いよく手を挙げた。


「わ、私も! 私も協力します!」


その瞳には、何かを守ろうとする強い意志が宿っていた。


(……魔防音の部屋って言ってたけど、この大声……外に聞こえてないよな?)


アランは心の中で静かに不安を募らせる。


そんな中、ギルドマスターがパンッと手を叩き、空気を切り替える。


「よし! それじゃまず、お前たちを正式な冒険者として登録しよう!ギルドの仕組みについて、しっかり教えてやらなきゃな。いいか、まず――」


「それなら、私が説明しますねー!」


満面の笑みを浮かべた受付嬢が、前にスッと出てくる。


「お、おい、俺の出番が――」


「ギルドの階級制度はですね、一等級から八等級まであって……」


その瞬間、アランとエルは顔を見合わせた。


(……やっていけるかな、これ)


その心の声は、二人の表情にしっかりと滲んでいた。

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