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第四話:言葉の壁、見惚れる瞳

静かな森に響くのは、斧の音だけ。私は息を潜め、その音のする方を見つめていた。どうするべきか――このまま茂みに隠れているべきか。それとも、思い切って声をかけるべきか。


(助けを求めるなら、今しかないかもしれない)


意を決し、ゆっくりと茂みから姿を現した。全身を覆う枝葉は、隠れきれてはいない。それでも、何もしないよりはましだった。


「あの……」


小さく声をかけてみた。斧の音で聞こえないかと思ったけれど、静かな森には意外とよく響いた。


青年は、勢いよく振り下ろした斧を丸太に突き立て、はっと顔を上げた。私の姿を捉えた瞬間、その動きはぴたりと止まった。


青年は目を丸くして私を見つめている。金色の髪、見慣れない服の代わりに(まと)った葉、そして何よりも、その不思議な雰囲気に圧倒されているようだ。言葉を失っている様子が伝わってくる。


「あ……あの……」


もう一度、少しだけ大きな声を出す。けれど、青年は依然として彫像のように固まったまま。その瞳は、私の全身を 少しずつ 、まるで珍しい動物を観察するように、注意深く見つめていた。私の尖った耳は、音を拾おうと 少し傾いだ。


言葉が通じないかもしれない――そんな不安が、じわりと湧き上がる。それでも、何か伝えなければ。私は、自分が困っていることを身振り手振りで示そうとした。まず自分の体を指差し、寒さを感じるように 少し震えてみせる。それから、助けを求めるように、すがるように手を合わせた。


青年の固まった表情が、ほんの僅かに緩んだ気がした。けれど、依然として言葉を発することはない。ただ、その瞳からは、警戒の色は薄れ、代わりに強い興味と、ほんの少しの戸惑いが感じられた。


木漏れ日が射し込み、私の金色の髪がキラキラと輝く。その美しさに、青年はすっかり見惚れていた。薪を割っていたことなど、もう頭の中から消え去ってしまったかのようだ。


「……あなたは、一体……?」


ようやく、青年が小さな声を発した。けれど、その言葉は、やはり私には理解できない。それでも、その声には敵意のようなものは感じられない。


言葉は通じない。それでも、青年は明らかに私に興味を持っている。この不思議な状況を、何とか打開できないだろうか。私はもう一度、青年をじっと見つめ、ゆっくりと、はっきりと話しかけた。

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