第三十三話:洞窟の語らい
洞窟の中は、まるで時が止まったかのように静まり返っていた。
赤髪の冒険者は、大きな剣を手入れしながら、ちらりと隣に座るアランとエルの様子を見た。エルは、アランの袖を握りしめていた手をゆっくりと解放し、柔らかな表情で少しずつ落ち着いていくのが見て取れた。あれだけ緊張していたエルが、ようやく安心できたのだろう。アランは、その間もエルフ語の辞書を広げ、無言で勉強を続けていた。外の騒々しい世界とは打って変わって、この場所では時間がゆっくりと流れていく。
しばらくして、アランがぽつりと口を開いた。
「そういえば、あの道、通行禁止って言ってましたよね」
赤髪の冒険者は、剣の手入れを一時停止し答える。
「うん、言ったわね」
アランは疑問の表情を浮かべながら続けた。
「それじゃあ、どうしてあなたはあの道にいたんですか?」
赤髪の冒険者は、しばらく黙ってから、にやりと笑いながら言った。
「ふっ、聞いて驚け!私は三等級の冒険者なのよ!」
アランは少し驚き、首をかしげる。
「三等級?」
赤髪の冒険者は目を丸くして、少しショックを受けた様子で言った。
「えっ、三等級の冒険者が分からないの?」
アランは困惑しながら答える。
「それは、どういう意味ですか?」
赤髪の冒険者はしばらくアランを見つめ、肩を落としてため息をついた。
「旅をしてるくせに、冒険者の等級も知らないなんて…。まあ、仕方ないわね」
アランは申し訳なさそうに頭をかきながら答える。
「すみません、あまり…詳しくなくて」
赤髪の冒険者は大きなため息をつきながら、改めて説明を始めた。
「いいわ、教えてあげるわよ。三等級っていうのは、冒険者ギルドから正式に認められた、上から三番目にすごい冒険者のこと。つまり、かなりの実力者ってことよ。名誉なことなんだから、覚えておきなさい。」
アランはまだピンと来ていない様子で、首をかしげた。
「でも、それがどうして通行証がなくても通れるんですか?」
赤髪の冒険者は得意げに胸を張った。
「三等級になると、例えばワイバーンが集まるような時期に、通行禁止の道でも、冒険者としての実力を認められているから、特別に許可なしで通れるのよ!」
アランはようやく少し理解したようで、思わず口を開いた。
「じゃあ、あなたはギルドに登録しているってことですよね?」
赤髪の冒険者は当然よ、と自信満々に頷いた。
「もちろん。」
アランは少し考え込んだ後、口を開いた。
「実は、俺たち、隣の街のギルドに登録しようと思っていたんです」
その言葉に、赤髪の冒険者は驚きの表情を浮かべた。
「え?その知識でギルドに登録しようって…。まあ、もういいわ。後は冒険者ギルドで学びなさい。」
彼女は再び剣の手入れを始めたが、心なしか少し呆れた様子だった。
その時、赤髪の冒険者はふと顔を上げ、アランをじっと見つめた。
「そういえば、あなた、通行証を持っていたわよね。誰から発行されたの?」
アランは答えた。
「この通行証は、僕の街の神父様から貰いました」
赤髪の冒険者は疑問に思いながら言った。
「え?あなたの街の神父様から?でも、それはおかしいわ」
アランは不安そうに答える。
「でも、実際にいただきましたけど…」
赤髪の冒険者は心の中で何かに気づいたような表情を浮かべた。
(あの街で、そんなことができるのは、パパくらいしか知らないわ…)
アランはさらに思い出したように言った。
「あなたは僕たちが進んだ道と逆方向から来たってことは、僕が住んでいた街に行くんですか?」
赤髪の冒険者は、微笑みながら答えた。
「そうよ、今は里帰り中なの。ただ、あなたの街が故郷というわけではなくて、私はパパに会いに行くのよ」
アランは驚いた。
「パパ?」
赤髪の冒険者は嬉しそうに目を輝かせた。
「そうよ!パパはすごいの!かつては、世界に数人しかいないと言われた一等級の冒険者だったの!実力も英雄級よ。でも今は引退して商人をやってるの。久しぶりに会うから、楽しみにしてるの!」
アランはその話に驚き、少し感心したように言った。
「へぇ、そんなすごい人があの街にいたんですね。」
赤髪の冒険者は楽しそうに微笑みながら、再び剣の手入れに集中した。アランはその姿を見つめながら、彼女の父親がどれほどの人物なのかを想像し、改めて彼女の背景に興味を抱くのだった。
はい、エルが最近、あまり目立っていませんね。申し訳ありません。色々と書きたいことが多く、この世界の設定を先に説明したかったため、エルをあまり登場させられませんでした。エルは潜在能力が非常に高いので、ギルドに到着したらその能力が明らかになる…といった展開や、実はエルフには……といった要素を今後増やしていく予定です。多分。
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