第三十二話:危険な時期
赤髪の冒険者の指示に従い、アランとエルは彼女の後を追って小道を進んだ。歩きながら、周囲の景色が変わっていくのを感じた。しばらく歩くと、前方に大きな崖が現れ、その端に小さな洞窟が口を開けているのが見えた。
「ここなら大丈夫でしょう」
赤髪の冒険者はそう言うと、躊躇なく洞窟に足を踏み入れた。アランとエルもその後を追い、暗くひんやりとした空間に足を踏み入れる。洞窟の中は静寂に包まれており、外の騒がしい風景とはまるで別世界のようだった。ここならしばらく安全だろうと、アランは安心しながら深く息を吐いた。
赤髪の冒険者は、背中の大きな剣を肩にかけ直し、ゆっくりとため息をついた。
「ワイバーンの群れが過ぎ去るまで、ここで待ちましょう。あなたたちも、無理に外に出ないほうがいいわ。」
アランは頷き、エルも黙って彼の後ろに控えていた。洞窟の奥の壁に寄りかかり、しばらく静かにしていると、赤髪の冒険者がふいに口を開いた。
しばらく静かにしていると、赤髪の冒険者がふいに口を開いた。
「そういえば、あなたたち、どうしてこんな時期にあの道を通ったの? ここら辺、通行禁止のはずだけど…」
アランは答える。
「ええ、通行証を持っているので、検問所は問題なく通れました」
赤髪の冒険者は眉をひそめ、驚きの表情を浮かべた。
「通行証? この時期に?」
彼女はさらに言葉を続ける。
「発行なんかできるわけないでしょ! 本物か、見せてみなさい」
アランは少し驚きながらも、腰のポーチから通行証を取り出し、それを差し出した。赤髪の冒険者はそれを受け取り、慎重に内容を確認した後、目を見開いて呟いた。
「…本物だわ…」
彼女は驚きながらも、通行証をしばらく眺めた後、ふっと息をついた。
アランはそのまま、赤髪の冒険者に尋ねた。
「それで、どうしてこの道が通行禁止なんですか?」
赤髪の冒険者はしばらく黙ってから、軽くため息をついた。
「この時期、この一帯はワイバーンの繁殖期なの。数十年に一度、群れが集まるから、かなり危険な状況になるわ。だから、通行が禁止されているのよ。」
赤髪の冒険者は驚きながら言った。
「まさか、それすらも知らずに通っていたの?」
アランは少し恥ずかしそうに顔を伏せて答えた。
「はい…知りませんでした」
赤髪の冒険者は肩をすくめながら言った。
「まぁ、いいわ。あの群れが過ぎ去るまで待ちましょう。繁殖期だからといって、ワイバーン自体はそんなに数は多くない。それに、隠れながらなら、たぶん通れるはずよ」
「わかりました」
アランは頷き、エルの方をちらりと見た。エルは相変わらず無言で、アランの袖をしっかりと握り締めていた。顔色は少し青ざめており、目はどこか遠くを見つめている。
その様子を見た赤髪の冒険者は、ふとエルに目を留めた。彼女があまりにも静かで、震えている様子が気になった。思わず声をかけた。
「あなたも、安心していいのよ」
赤髪の冒険者は、やさしく問いかけたが、エルは無言でアランの袖を握り続けるばかりだった。彼女のその態度に、赤髪の冒険者は少し首を傾げた。
(見た感じ、すごい魔力は感じるけど、一流の冒険者って雰囲気じゃないわね。もしかして、私の勘違い?こんな魔力、普通は鍛えないと出せないはずなのに…それに、顔はヴェールで隠れているけど普通の女の子よね…)
その考えを脇に置き、赤髪の冒険者は再びアランに目を向けた。
「まぁ、心配しなくても大丈夫よ。ワイバーンの数は少ないし、もう少し待てば群れは過ぎ去るわ。安心して」
「ありがとうございます」
アランはそう言って、赤髪の冒険者に礼を言った。
洞窟の中で、静かな時間が流れていた。赤髪の冒険者は何度もエルを見つめ、その無言の態度が気になっていた。彼女の持つ魔力が並大抵ではないことを感じつつ、その源が気になった。
(でも、あの子の魔力は尋常じゃない…)
そんなことを考えながらも、赤髪の冒険者はもう一度、にっこりと笑い、アランに向かって言った。
「大丈夫よ。ワイバーンが去ったら、また出発できるわ」
アランは静かに頷いた。エルも、少し安心したようにアランの袖を握ったままで、静かにその時が過ぎるのを待っていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
物語を楽しんでいただけたなら、ぜひ高評価やブックマークをお願いします。
それが次回作への励みになります。
また、告知はX(Twitter等)にて随時更新していますので、フォローしていただけると嬉しいです。