第三話:森の音と木こりの影
「……そもそも、この世界に、人がいるのかな?」
そんな疑問を胸に抱きながら、慎重に森を進んでいく。頼りない枝についた葉を体の前に持ちながらも、立ち止まっているわけにはいかない。何か手がかりを見つけるために、足を止めるわけにはいかなかった。
どれくらい歩いただろう。空はまだ高く、木漏れ日が地面にやさしく降り注いでいる。人の気配を探してみよう。周囲の様子を注意深く観察しながら、ゆっくりと森の中を歩いていた。
―その時だった。足元の地面がこれまでと少し違うことに気づいた。草の生えていない、踏み固められたような細い道が、枯れ葉の間から現れていた。
「……これは、人が通った跡?」
「やはり、この世界には人がいるんだ」
思わず小さく声が漏れる。その痕跡に少し安心感を覚えた。
踏みしめられた地面を辿っていくと、道らしきものが現れてきた。最初は細かった道も、徐々に幅を広げていく。
「この道の先に、誰かが……」
道の先から、規則的な音が聞こえてきた。
コン……コン……と、一定のリズムで繰り返される、何かを叩くような音。
「……何の音?」
注意深く耳を澄ますと、それは規則的な打撃音だった。まるで、何かを叩いているようだ。
音のする方へ、慎重に足を運ぶ。木々の間を縫うように進んでいくと、打撃音は次第に大きくなってきた。そして、木々の切れ間から、小さな一軒家が見えてきた。
「あんな場所に、家が……」
森の中にぽつんと建てられた一軒家。その佇まいは静かで、人の気配はあまり感じられない。慎重に家に近づき、物陰から様子を窺ってみることにした。家は静かで、人の気配は感じられない。しかし、規則的な打撃音は、家の裏手の方から聞こえてくるようだ。
家の周りを注意深く見回していると、木漏れ日の差す明るい場所で、一人の青年が動いているのが見えた。青年は、逞しい体つきをしており、短い茶色の髪で、簡素な作業着のようなものを身につけている。そして、その手には大きな斧が握られていた。
青年は、そばに置かれた太い丸太に向かって、懸命に斧を振り下ろしている。打撃音は、薪を割る音だった。
(薪を割っている……木こりさん、かな?)
まだ明るい森の中で、一人黙々と薪を割る青年の姿を、茂みの中から観察した。青年は、時折額の汗を拭いながらも、一心不乱に斧を振るっている。
「……どうしよう。声をかけるべきか、それとも……もう少し様子を見るべきか」
斧を振るう青年の姿を、静かに見守っていた。状況を慎重に見極めようとして。