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第二十四話:眠りの底の記憶

食事を終え、食器を片付ける時間が訪れた。私は静かに立ち上がり、自分の食器を手に取ると、軽く息をついた。元々は男だったことを思い出しながら、エルフの体に少しずつ慣れてはいるものの、動作はまだぎこちない。それでも、食器くらいは自分で片付けたかった。


シスターが微笑みながら言った。


「エルちゃん、座ってていいのよ。私がやるから。」


その言葉が、私には理解できない。困った顔をしながらも、私は動き出す。助けてもらいっぱなしではどうしても気が済まない。自分のことは自分でしなければ、という強い気持ちがあった。


シスターは優しく手を振って言った。


「本当にいいのよ、ゆっくりしてて。」


それでも、エルはどうしても自分の食器だけでも片付けたかった。黙々と洗い始めると、シスターは少し驚いた様子で私を見つめ、すぐに青年の方を見て言った。


「ほら、坊や、あんたも手伝いなさい。」


青年は少し戸惑いながらも、素直に従って食器を片付け始めた。私はその様子を見ながら、どこかほっとした気持ちが広がっていった。


しばらくして、神父様がエルフ語で話しかけてきた。


「エルちゃん、今日はここに泊まるといい。」


エルは神父様を見上げ、驚いた表情を浮かべながら答えた。


「え、ここに…泊まっていいんですか?」


神父様はにっこりと笑って言った。

その言葉に私は疑問を感じた。しかし、すぐに気づく。神父様がエルフ語で話していることを。


「そういえば、さっきの話ではどうして森に?それに…神父様、私の言葉が分かるんですか?」


神父様は穏やかに答えた。


「ああ、少しな。エルフ語を勉強しておるから。」


私はその言葉を聞いて、これまでの経緯を話すことに決めた。


「私は…目が覚めた時、気づいたらこの世界にいて。体も変わっていて、どうしてここにいるのかも分からない…」


神父様は黙って聞いていたが、どうやらその話を完全には理解できていない様子だった。私は少し落ち込み、話すのをやめた。自分の言葉が完全には伝わっていないことが、胸に重くのしかかる。


「でも、彼には…どうしても伝えたかった。」


私は心の中で呟きながら、食事を終えた後、シスターに案内されて寝室へと向かった。


シスターは私を部屋へと案内し、「もう夜だし、この部屋で寝ていいわよ」と言ってくれているようだった。言葉は分からなくても、その優しさは十分に感じ取った。私は無言で頷き、部屋に入った。青年は短い言葉で「おやすみ」と言っていたのか、その声はとても優しく響いていた。


部屋の中にはシンプルなベッドと、窓から差し込む月明かりがあった。私は疲れた体を横たえ、シスターに渡された寝巻きに着替えて布団に入った。静かな夜が包み込み、私はすぐに深い眠りに落ちた。今日は、シスターに服を着せられ、何もかもが新しく、あまりにも多くのことが起きすぎて、心も体も疲れ果てていた。


そして、眠りにつくと、夢の中に見覚えのある光景が広がった。それは、私が知っているはずのない記憶だった。


「……私の可愛い……あなたはこの転移魔法で逃げなさい。あなたは私たちの最後の希望。きっと誰かが助けてくれる…」


戦火の中、女性の声が響く。その女性が、私に似た姿をしていると感じた。そして、女性は魔法陣に自分を突き飛ばす。私は「お母様!」と叫び、涙をこぼしながらその女性を呼んだ。


その瞬間、私は目を覚ました。窓から差し込む朝日が部屋を照らしている。夢の内容を思い返しながら、私はそれがただの夢ではないことを感じ取った。まるで実際に起こった出来事のように、胸の奥で何かが呼び覚まされる感覚があった。


「……夢?でも違う…あれは夢なんかじゃない…実際に起こった出来事のような…じゃあ元の世界の記憶は…もしかしたら前世とか…?」


その疑問が頭をよぎった時、部屋のドアから軽くトントンとノックの音が聞こえた。

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