第二十一話:装いと言葉、そして笑顔の輝き
青年は、神父様から借りた古い翻訳本を片手に、地下室でエルフ語の勉強に励んでいた。神父様の教えのおかげで、少しずつ理解が進んできたが、それでも難しいと感じることが多かった。
そんな時、静かな部屋の中でドアの向こうからシスターの元気な声が響いた。
「神父様ー、入りますよー!」
シスターがにっこりと笑いながら部屋に入ってきた。その後ろには、息をのむほど美しいエルが立っていた。さっきまで着ていた粗末な服とはまるで違う、淡い藤色のレースのドレスを身にまとっている。まるで春の妖精のようで、その姿はまばゆく、見る者を惹きつけた。青年は思わず目を奪われ、エルの姿を見つめていた。憂いを帯びた雰囲気はなく、まるで魔法にかけられたような、華やかで神秘的な印象を受けた。
神父様はその姿を見て、少し驚いたように言った。
「修道服を着せろと申したじゃろうが!なぜ違う服を着せておるんじゃ?」
神父様の声には少し怒りが混じっていたが、その目はどこか見惚れているようにも見えた。青年もまた、その美しいエルの姿にしばらく言葉を失っていた。エルの美しさは、まるで絵画から抜け出したかのようだった。
けれど、エルの表情は無表情で、どこか疲れた様子にも見えた。シスターは嬉しそうに言い続けた。
「だって、何を着ても似合うんですもん!だから、いろいろ着せてみたくなっちゃって!」
神父様は肩をすくめ、少し困ったような表情を浮かべながらエルを見つめていた。その後、神父様はゆっくり立ち上がり、言った。
「ちょうどよかった、もう時間じゃろう。勉強も一旦終わりにして、夕食にしよう」
シスターはその言葉にすぐに反応した。
「ちょっと待って!坊やの感想を聞いてないでしょ?」
神父様は少し呆れた様子で「そんなの後でいいじゃろ」と答えたが、シスターは譲らなかった。
「いや、絶対に聞いてもらわないと!だって、坊やもいるんだから!」
その姿に一瞬、心を奪われた青年だったが、シスターの屈託のない笑顔と言葉に、はっと我に返った。同時に、胸の奥で小さな火が灯るのを感じた。(そうだ)と彼は心の中で呟いた。(これは、覚えたばかりのエルフ語を試す絶好の機会だ)。緊張と期待が入り混じった鼓動を感じながら、青年は意を決して、エルフ語でエルに向かって言葉を紡ぎ始めた。
「エル…服…似合ってる…」
最初、無表情だったエルの顔に変化が現れ、次第に笑顔が戻ってきた。その瞬間、後ろでシスターと神父様はニヤニヤと微笑み合っていた。
青年は少し照れながらも、エルフ語を使うことができた自分に誇りを感じていた。
そして、何よりエルが笑顔を取り戻したことに、ほっとした気持ちがこみ上げてきた。