第十九話:言葉の壁と繋がる希望
シスターがエルを抱き上げ、冷たい地下室から出て行った。
俺は、突然の出来事に、ただ立ち尽くしていた。頭の中は、理解が追い付いていなかった。
しばらくして、神父様が口を開いた。
「エルフのことはシスターに任せておけばええ。心配せんでよい。シスターはこの教会で信頼されとるからな。たまに世話が焼きすぎて暴走することもあるが、安心せい。」
その言葉に少しだけ気が楽になった。確かに、シスターならエルを見守ってくれるだろう。しかし、心の中にはまだ不安が残っていた。すると、神父様が静かに問いかけてきた。
「それでおぬし、これからどうするつもりじゃ?まさか、このまま帰るわけではないじゃろう?」
青年は、少し考え込みながら答えた。
「なにか俺にできることはないでしょうか?」
神父様はじっと青年を見つめ、ゆっくりと答えた。
「エルフの言葉がわからんじゃろう? それで、どうやって接するつもりなんじゃ?」
その通りだった。エルフとの言葉のやり取りがわからなければ、どうやって意思を伝え合えばいいのか、まるで見当がつかなかった。言葉の壁を越えなければ、エルの気持ちも理解できないだろうし、こちらの思いも伝えられない。それが、無力感を感じさせていた。
「図星だったか?」
神父様が少し笑みを浮かべながら言った。
「でも、どうすれば…」
俺が言いかけた時、神父様は部屋の奥へと歩き、古びた本を取り出して俺に渡した。
「これでエルフの言葉が少しはわかるようになる記録が載っとる。」
神父様は穏やかな声で続けた。
俺はその本を手に取り、驚きの気持ちが込み上げてきた。
「これでエルフと話せるんですか?」
神父様は少し頷いて答えた。
「全部は無理じゃろうが、少しなら理解できるじゃろう。」
その言葉に、俺は希望を感じた。それだけでも、大きな一歩を踏み出せる気がした。
「俺はエルの名前を知りたい。彼女の本当の名前はエルなのか、それとも別の名前があるのか…」
青年はエルについてまだ知らないことが多すぎて、まず名前だけでも知りたかった。名前がわかれば、もっと身近に感じられるような気がした。
神父様は少し考え込み、やがて口を開いた。
「名前はわからんが、話せるようになれば教えてくれるじゃろう。」
その言葉に、少し安心した。
「それに、お主がエルフと話せるようになったら、自分の名前も伝えられるかもしれんぞ。」
その言葉を聞いて、青年の胸が温かくなった。もしエルと話せるようになれば、名前だけでなく、もっと深い会話ができるかもしれない。そんな希望が湧いてきた。
神父様は肩をすくめて言った。
「うむ、だが結局はお主次第じゃな。お主がどうするかにかかっとる。」