第十七話:戸惑いの地下室
ここは―どこだろう?
さっきまで木こりの青年と一緒にいたはずなのに……。気づけば、牧師が着ているような服を着たおじいさんに連れられて、薄暗い階段を下りてきていた。目の前では、そのおじいさんと青年が、何か心配そうに話をしている。何の話をしてるんだろう……まさか、私、どこかに売られてしまうの?
不安でいっぱいになっていると、おじいさんがローブの中から小さな銀色の鈴を取り出した。
そして、何かを呟くと、鈴からおばさんの声が聞こえた。さっき教会で会った、ちょっと気の強そうなおばさんの声だ。
「今行きまーす!」
やがて、階段をトントンと降りてきたおばさんが姿を見せた。少し眉をひそめ、怒ったような顔をしている。
「神父様、何かご用ですか?地下は大事な書物があるから入るなって、自分で言ってたじゃないですか!それに、その鈴!貴重なんだから、あまり使わないようにって―それもご自分で!」
おじいさん―黒い服を着ているし神父様かな?は、どこかバツが悪そうに頭を掻いて答えた。
「ああ、うむ……実はの、この子に、シスターの服を少し借りられんかと思ってな」
おばさんは、一瞬きょとんとした後、私の方を見て目を丸くした。
「……えっ、なにこの子!?うっそ、信じられない……綺麗すぎる!!この世界の生き物じゃないみたい!まるで―妖精みたいじゃない!」
私の金色の髪や白い肌を、まじまじと見ながら、おばさんは息を呑むように続けた。
「髪が……陽の光を束ねたみたいにキラキラしてて、肌は透き通っててまるでガラス細工!瞳の色も……深くて、金色で、吸い込まれそう……なにこの子、ほんとに存在するの!?」
興奮した様子で、ぐいぐいと近づいてくるおばさんに、私は戸惑いを隠せなかった。
「だからの、服を……」
神父様が口を挟もうとするが、おばさんはお構いなしに続けた。
「あらまあ、胸もすごく綺麗な形!スタイルも完璧じゃないの!こんなにバランス取れた体の人間、実在するなんて……!」
彼女は私の全身を見て、感心するたびに声を上げる。
その様子を見ていた青年は、いつの間にか顔を赤くしていた。
「それでの、シスターの服を……少し……」
神父様がもう一度言いかけたとき、ようやくおばさんが反応した。
「あら?よく見たら、さっき木こりの坊やと一緒にいた子じゃない!でもなんで男の子の服なんか着てるの?もったいないわ!もっと可愛い服、教会にあるから、それ貸してあげる!それでいいわよね、神父様?」
おばさんが勢いよく同意を求めると、神父様は腕を組み、どこか諦めたように言った。
「……うむ、任せた」
次の瞬間だった。おばさんは突然、私をひょいっと抱き上げた。
青年も神父様も、呆気に取られている。
けれどおばさんはお構いなし。私をしっかり抱えたまま、足早に地下室を出ていってしまった。
わけもわからず―
ただ、おばさんの勢いに、私は驚きっぱなしだった。