第十六話:滅びの理由
神父様の言葉が、頭の中で何度も反響していた。
「エルフが絶滅した……?」
そんな馬鹿な。祖父から聞いていた話とはまるで違う。胸の奥がざわつき、いてもたってもいられなくなった俺は、神父に詰め寄った。
「神父様、エルフはなぜ滅んだんですか?もしそれが真実なら……どうして、その事実を後世に伝えなかったんですか!」
神父は目を細め、重々しい声でゆっくりと口を開いた。
「……どれほど特別な力を持っとったとしてもな、エルフは人間の数には敵わんかったんじゃ。特にの、王族や貴族の連中は、エルフの金色の髪や深い金色の瞳に目がくらんでな……あやつらにとっちゃ、エルフはただの"飾り物"。奴隷として扱い、好き勝手にしたんじゃ」
その声には、怒りに似た感情がにじんでいた。
「だがな……人間どもは度を越した。エルフをおもちゃのように扱い、働かせ、痛めつけ……結果、数は見る間に減っていったんじゃ。かつての教皇様は奴隷制度に反対しとったのにの……結局、王族と貴族どもは自らの所業を恥じて、自分らの手でエルフを絶滅させたという忌まわしい歴史を消し去ったのじゃよ」
神父は、そこでふっと目を伏せた。
「教皇様はの、そのことを深く悔やんでな。『もしエルフが生き残っておるなら、どうか助けてやってほしい』と、そう代々教会に語り継いできたのじゃ」
神父は、そこで言葉を切った。重い沈黙が、地下室に立ち込める。エルの金色の瞳は、神父の言葉を理解しようとしているのか、不安げに揺れていた。
しばらくして、神父は少し咳払いをして、口調をいつもの穏やかなものに戻した。
「ま、長話になってしもうたの。お主がその子を助けるためにここへ来たんじゃろ?」
俺は黙って、深く頷いた。
神父はエルの着ている服を見て少し首を傾げた。
「ほう、男物を着とるが……そりゃあ、身体に合わんじゃろう。教会にはちょうど良いシスターの服がある。貸してやるとしよう」
そう言うと、神父はローブの奥から小さな銀の鈴を取り出した。それを軽く振ると、涼やかな音が冷たい空気に響いた。
すると、不思議なことに、その鈴の音に応えるように、先ほど教会で会ったシスターの声が、鈴の中から聞こえてきたのだ。
「今行きまーす!」
僕は驚いて神父を見た。神父は、 少し 意地悪そうな笑みを浮かべた。
「驚いたか? これは『つながりの鈴』いうてな、同じ鈴を持っとる者同士、どれだけ離れていても声でやり取りができる魔法具なんじゃ。めったにお目にかかれん、貴重な代物じゃぞ。家が何軒も建つくらいの価値がある言われとる」
神父は肩をすくめながら、続けた。
「幸い、この教会には支給されとるが……貴重すぎての、滅多に使わんわい」
俺はただ、息をのむしかなかった。
歴史の裏に葬られた真実、そして今、目の前で起きている魔法の力。
自分の常識が、音を立てて崩れていくのを感じていた。