第十四話:久しぶりの再会
教会の重い木の扉に手をかけ、ゆっくりと押し開ける。
ギー、という少し軋んだ音と共に、朝の柔らかな光が中へと差し込んだ。
埃っぽくならないように、丁寧に磨かれた床が光を反射している。
「おはようございます、シスター」
教会の奥。朝日が差し込む場所で、シスターが丁寧にほうきをかけている。舞い上がる小さなホコリが、光を受けてキラキラと輝いている。僕は、その光景の中にいる彼女に、声をかけた。
「あら、おはよう!」
ほうきを置いて、シスターはにこっと笑いながらこちらを見た。
彼女の顔には、いつも優しい笑顔が浮かんでいる。
「今日は神父様に用があって来たんです」
そう言うと、シスターは僕の隣にいる、布で顔を隠した小さな人影に気がついたようだ。
興味深そうに、そしてちょっと面白がるようにその子を見ている。
「あらあら、一緒にいるその子は一体誰だい? 布で顔を隠しているけれど、美人さんだってわかるわ!」
シスターは身を乗り出して、まるで好奇心旺盛な子どものように、すごく興味津々だ。
「ああ、この子は…… ちょっと道に迷っていたところを助けたんです。異国の出で、言葉が通じなくて」
そう説明すると、シスターは目を丸くした。
「まあ!外国の子なの?こんな遠くまで、一体どうしたのかしら。まさか、悪いことでもして連れてきたんじゃないでしょうね?」
いつもの冗談だ。シスターのこうしたからかいは、周りの人々をいつも笑わせている。
僕は苦笑いで答えた。エルは、シスターが急に明るくなったからか、少し体を横に引いたみたいだ。布の影で、不安そうに瞳が揺れている。
「それで、神父様はいらっしゃいますか?」
そう尋ねるとすぐに、シスターはいつもの明るい笑顔に戻った。
「ああ、神父様なら奥の書斎にいるよ。さあ、案内してあげるから、こちらへおいで」
シスターに促され、エルと一緒に教会の奥へと進んだ。
飾り気はないけれど、どこもかしこもきれいに磨き上げられている。人々の祈りが、この場所を特別なものにしているんだろう。書斎のドアの前で、シスターは軽くトントンとドアをノックした。
「神父様、木こりの坊やがあなたに用があって来たみたいですよ」
奥から、優しく年老いた穏やかな声が聞こえた。
「おお、そうか。さあ、お入りなさい」
シスターはにっこりと僕に目配せをし、ドアを開けてくれた。そして、鼻歌でも歌いながら軽やかな足取りで、先ほど掃除をしていた教会の奥へと戻っていった。
部屋の中には、白髪で背の高い、優しい眼差しを持ったおじいさんがいた。分厚い本を前に静かに座っている。神父様だ。
神父様は、ぼくの顔を見ると、深いしわの浮かんだ、優しい笑顔を見せてくれた。
「ご無沙汰しております、神父様。今日は少しお話があって参りました」
そう答えると、神父様の視線は、僕の陰に隠れているエルにゆっくりと向けられた。
「久しぶりじゃのう、じいさんの葬式以来かの。して、用というのは隣にいる子かの?」
神父様は、僕が何か言うより先に、目を細めて、少し懐かしむような眼差しでエルの方を見た。
「……ふむ。お前さんは、この国の人じゃないな? 何か訳があって、わざわざこんな所まで来たんじゃろう?」
神父様の優しい声が静かな書斎に響く。
エルは、顔を隠した大きな布の奥から、俺と神父様のやり取りをじっと見つめている。
顔を隠している布はイスラム教徒の女性がつけているスカーフ(ヒジャーブ)をイメージしています。しかし一人暮らしをしている青年の家にスカーフがあることが表現しづらく、長い布を巻いてるというだけにしています。そこはあまり気にしないでください