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第十三話:はじめての街

馬車の緩やかな揺れに身を任せていると、次第に遠くから人々の気配が感じられるようになった。

それは、森の静寂とは対照的に、多くの生き物が活動している賑やかな雰囲気だった。


「あれは、一体何だろう?」


小さく呟き、少し緊張しながら顔を上げた視線の先に、まるで物語に出てくるような建物が、小さく見えてきた。


「人の街……?」


しばらくして、馬車は静かな森を抜け、開けた場所に出た。


その瞬間、目に飛び込んできたのは、たくさんの人々と、肩を寄せ合うように並んだ木造の建物だった。

街はまるで生きているかのように賑やかで、あちこちから人々の話し声や笑い声、物音が聞こえてきて、独特の活気に満ちていた。


忙しそうに歩く人々の姿が目を引いた。甘いパンの香りや、不思議な香辛料の匂い、花々の優しい香りが街を彩り、賑やかな空気が広がっている。その中に立っていると、胸が高鳴ると同時に、ほんの少し落ち着かない気持ちにもなる。


「……なんて賑やかな場所なんだろう」


思わず小さく呟いた。森の静けさとは別世界。人々の活気と物の動きが混ざり合い、温かい空気のようだった。


馬の手綱を操っていた、穏やかな笑顔のおじさんは、この街に用事がある商人のようだった。彼は、木こりの青年に何か話しかけ、にこやかに別れを告げた。


「じゃあ、またな!」


そんな言葉が耳に届いた気がした。木こりの青年も、少し笑いながら手を振っている。

私たちは、揺れる馬車からゆっくりと地面に降りた。足元には、たくさんの人々の足音と、活気にあふれた街の騒がしさが広がっている。あちこちから様々な売り声が聞こえ、商売の熱気が感じられた。


足元は硬く、森の柔らかい土とはまったく違う感触だった。


「これが、この世界の人たちの街の地面なんだ……」


周りの人の多さに、少し目が回りそうだ。彼らが着ている見たことのない服や、何を話しているかわからない言葉が、私の頭の中を少しだけ混乱させる。ここは、私が知っている世界とは全然違う場所なんだな、と改めて思った。


木こりの青年は、私の頭に被せた布を、もう一度、そっと深く引き下げるように促した。その指先には、隠しきれないほどの気遣いが滲んでいる。


「顔を隠すんだ!」


彼の瞳の奥には、微かな不安の色が揺らめいている。


(私のことが、そんなに気がかりなのだろうか……)


この見慣れない金色の髪。そして、この世界の人々とは違うらしい耳の形。それを隠そうとしてくれているのだと感じる。彼の優しさは、じんわりと胸に染み渡る。


「そういえば、私たちは一体、どこへ向かっているのだろうか……」


賑やかな人波に身を任せながら、ふと、そんな疑問が頭をもたげた。


彼は、そっと私の手を取った。ごつごつとした彼の大きな手が、私の小さな手を包み込む。その温もりが、騒がしい人混みの中で、かすかな安堵をくれた。


「……少し、安心する」


小さく呟いた私の声は、街の騒音にかき消されただろう。

それでも、彼の温かい手のひらは、確かに私を繋ぎ止めてくれている。けれど、すれ違う人々が時折向けてくる、好奇の色を帯びた視線が、どうしても気になった。まるで、珍しい生き物を見るような、そんな視線。私は、彼らにとって異質な存在なのだろうか。


私たちの目的地は、あの白い、高くそびえる建物らしい。

変わった飾りが壁についていて、街で見た他の建物とはずいぶん違う。でも、全体の感じは、私が元の世界で知っている教会によく似ている。


木こりの青年は、その建物の入り口をじっと見ていて、少しホッとしたような顔に見えた。

重い木の扉を押し開けた。ギーッと音がして、少し光が中に差し込む。


(彼が言っていることは分からないけれど、どうやらここに入るみたいだ)


私は小さくうなずいた。ごつごつした彼の温かい手を、少しだけ強く握り返す。そして、彼の後ろについて、あの教会に似た建物の中に、一歩足を踏み出した。


(この先に、何があるんだろう……)


ほんの少しの不安が、胸の中で小さく渦巻いた。

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