第十話:見知らぬ朝
気が付くと、朝になっていた。
温かな感覚に包まれて、ゆっくりと意識が浮かび上がってくる。最後に覚えているのは、リンゴのような赤い果物をたくさん食べて、心地よい眠気に身を任せたところだった。
まぶたをそっと開けると、まず目に映ったのは、見慣れない木の天井。
「……ここは?」
ゆっくりと視線を巡らせる。昨日までいた古い森ではない。木の香りに包まれた、静かで居心地のいい空間。柔らかなシーツが、ここが寝台の上であることを教えてくれる。
だが、同時に胸の奥からじわりと不安が湧き上がってきた。
(……一体、何があった?)
眠っている間に、誰かが自分を運んだのか?何かされてはいないか?
慌てて自分の体を確認する。特に傷も痛みもない。
けれど、知らない場所で目を覚ましたというだけで、心は落ち着かない。
そっと身を起こし、再びあたりを見渡す。
寝台の脇には、木でできた椅子が置かれていた。
そして、そこに……昨日出会った木こりが、丸まって眠っている。
「……!」
思わず小さく息を呑む。あの時と同じ、木の香りがする。なぜ彼がここに?
そして、なぜ自分は寝台に……?
不満そうに顔をしかめながら、木製の床が小さく音を立てた。
木こりはゆっくりと顔を上げた。目が合うと、彼は明らかに焦った様子で、両手を波打つように動かしながら慌てて何かを言い始めた。早口で、理解できない言葉だった。
「……え?」
困惑しつつも、彼の動きに注目する。
自分の寝ていた場所を指し示しながら、何かを伝えようとしているようだ。
彼の言葉を注意深く聞いていると、何を言っているかわからないが、自分の寝台を指さすような仕草をした。
(……もしかして、寝台を譲ってくれたのかな?)
小さく首を傾げながら、そう思った。
どうやら、この居心地の良い寝台を、私に譲ってくれたらしい。
再び自分の体を確認する。やはり、何の異変もない。
不安だった気持ちが、彼の必死な仕草と、穏やかな表情によって少しずつ和らいでいく。
「……大丈夫、みたい……」
冷たい不安は、彼の友好的な気持ちと、安全な状況への理解によって、ゆっくりと溶けていく。
言葉は通じないけれど、彼の行動は、私に安心感を与えてくれているようだ。
「……ありがとう……?」
小さく感謝の気持ちを込めて呟いてみる。なぜ、彼は私を助けてくれたのだろう? 見知らぬ私を、警戒するどころか、居心地の良い寝台で眠らせてくれるなんて。
わずかな警戒心は残るけれど、それでも、今は彼の親切に、素直に感謝したいと思った。
「……うん……」
まずは、ここがどこなのかを知らなくては。
言葉は通じなくても、少しずつ理解し合えるかもしれない。
小さく息を整えながら、私は彼に向き直った。