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転機

イアースの地にて

バハラム・レザリオ視点のリメイク1話です。

 エスティール大陸の西部ディマンド地方の大半を占めるユラヴニア平原が戦火に包まれる中、最南部を横断するツミカ山脈の東最端の高原で過ごすトワン村の人々は魔物の襲撃を受けていた。


「皆さんはこちらから逃げてください!!」


 学堂の講師が生徒を避難させ、自身は魔物の時間稼ぎをする。


 人間に分が悪いのは過去が立証済み。


 村の離れ、唯一庭を持つバハラム邸の庭でもまた、命の光が失われようとしていた。


「あのねぇー…つまらないことを言わないでくれる?」


 血反吐を何度か吹き出した少年は見下ろしてくる半裸の魔人を睨む。


 翼が少年の希望を閉ざし、額の皮膚を貫いて浮き出た形跡の残る1本角は赤い輝きを保つ。なびく髪は蒼く、呆れたような目を宿していた。


 村の上空を支配する妖しい紫雲は高原である故に近く、空が落ちてきたと形容するに値する絶望。


 家屋から燃え盛る火炎が空に吸い込まれつつ、人々の繁栄を無に帰そうと弧を描き踊り続ける。


「お…まえは、だっ…れだ」


 鼻腔と口腔、頭部に集中して全身を焼かれる感覚に襲われながら、少年は問う。


「はじめまして、ミラードラ・ルーク・アドラ。この村を襲った首謀者さ」


 半裸人は紳士的なお辞儀をし丁寧に名乗り出た。

 違和感を抱くなら、姿勢のため軸になった右足。不自然なほど血が滴る右脛。

 そこを狙うかのように光の粒子が2、3発地を穿ち出現する。


 後退したルークの前に女性と少女が立つ。


「貴方は彼を!」


 女性は学堂の講師だった。人一倍機転が利くようで、学徒である少年を見つけ出した。


 しかしルークは彼女に御しきれなかった。


 一進一退の状況。紫雲を借り落雷、大地を隆起など短詠唱の魔術でルークを遠ざけていたが、地に円陣を描く陣で決めにかかろうとほんの一瞬背を向けた。


 ルークは地につけたその脚を鳥類の形状に変化させ、地を強く蹴る。


 正面で指を向ければ光が彼を射抜く。その刹那。


 彼の角が指を、掌を、動脈を貫く。


 田舎村というのもあり武装は無く生身、地に伏した女性は脛骨まで貫かれる。


 頭を振り上げたルークは角から垂れる血で死の軌跡を描く。


 学徒と同じくらいの容姿、年齢に見えたのもあって油断したか、更には懐と頭部を激しく殴打され、最後には脳を踏み潰される。


 ルークは意識が消えた彼女のうなじに無理やり指先を突っ込む。


「せん…せい……?」


 少年をかつぎ上げた少女は数秒前まで友人を救おうと懸命に動いていた彼女がもう動かないことを悟り精神異常を来す。


 ルークは女性の背からズルズルと脊髄を引きずり出した。


 蛇のようにうねる背骨にまとわりつく血が、鞭のように強く叩きつける度に飛び散る。


 3度目の衝撃で仙骨と尾骨部分が欠損し、少女は失禁し膝から崩れ落ちてしまう。


 その後も大地が揺れんばかりに叩きつけられ、ある程度の血が振り落とされたタイミングで後方へ投げ捨てられた。


「リーサ…」


 少年の呼びかけに少女は、縋る思いを抱えるも目の前の惨状による恐怖心から、中々言うことを聞かない首と舌に言ってきかせる。


「わた…し、しっ、どっどっ、どうしたら」

「剣に、投げてくれ…」

「え…?」


 体は脳からの信号を遮断していた。疑問は闇に、希望は彼に、両手で掴み雑に投げ飛ばした。


 ルークは静観していた。面白いものを見るような様子で。双眸に怒気を宿したまま。


 だが、演者は彼の意思で息ができている。真意を辿る手段潰え、少女は糸を切られたように舞台から下ろされる。


 観覧するものは居らず、腹を裂かれ目を開いた臓物が天を拝み、歪曲した両の肘骨が肉を掻き分け土の冷たさを味わう。


 五体満足心神耗弱となった少年は、幼き肉体で大剣を構える。


 真打登場。其の一振は追憶、記録、文化、生命、異種関係無く全てを塵と化す。


 灰燼と成り完全。滅され召されよ。想いは不要、手段は限りなく残酷。


 非情にも悲痛な現実。


 少年は敵を討ち、再開した母と共にその地を後にする。


 ーーはずだった。


 蒼い髪の化け物は不死に近い再生力を持っていた。


 滑空するルークが、母と再開した少年の首を討たんと翼爪を携える。


 いち早く存在を察知した母親が少年に魔法をかける。


「いつまでも見守っているわ」


 少年はつい先程の惨状、想い、人との繋がり、そのすべてを忘れる。


 忘却した肉体は近隣の大雨林、その小さな洞穴で目覚める。

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