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夜更けのカウンターにて 1






夜も更けた食堂は、薄暗い灯りしか灯っていない。


だが、日によって誰が決めた訳でもなく、酒を楽しむ時間として集まることがこの屋敷の食堂と厨房の間にあるカウンターでは有る。


一人でのんびり楽しむ時もあれば二人でちょっとした語りを肴にし、お互い持ってきた酒を飲み比べたり、更に増えればそれぞれが酒や肴を持ち寄って宴会のようになることもある。


そんな時にちょっとした手作りの肴があると何よりも酒が進むものだ。




「それ何?」

「これか?この時期限定の麦酒だな。そこまで炭酸が強くなくて飲みやすい」

「へぇ。炭酸入っていると途中で腹が膨れるからあまり飲まないんだが、強くないならちょっと飲んでみようかねぇ」

「ダン、俺も飲む」

「ああ。沢山買ってあるから好きに飲めよ」

「ブラインの酒は?」

「一昨年の当たり年の葡萄酒。甘口辛口両方」

「良いねぇ、じゃあ軽いつまみでも作ってくるか」

「よし!それが目的もあるからな。頼んだ」

「塩ナッツも。そのままで良いから」

「ははっ適当に始めててくれ」



ガダンは厨房に入って、酒に合う数種類の肴を考える。



(麦酒と葡萄酒…俺のは…蒸留酒だとするとどれにするか…)



そんなことを考えながら手を動かして肴を作っていく。



半刻ほどして酒に合いそうな数品をことんとカウンターに置く。



「お、やった。揚げ物食べたかったんだよな!」

「夜中なのに」

「余裕だな!」

「まぁ、好きなものだけ摘んでねぇ。俺のグラスは?」



肴として提供したのは、海産物の唐揚げと、冷蔵庫に常備してある酢漬け野菜、塩ナッツと、クラッカーに少し火の魔術で溶かしたチーズに刻んだサラミとハーブを乗せたカナッペだ。



ガダンは始めの一杯にダンが持ってきた麦酒を選ぶ。

しゅわりと琥珀色の泡が立ち喉越しに良い刺激を与えてくれる。限定ものだからか麦酒にしては濃厚な味わいだ。



「うん、良いねぇ。濃い」

「久々に飲むと美味いね」

「だろ?俺は昨日も飲んだけど」



ダンは気持ち良いくらいぱくぱくと唐揚げを平らげていく。ブラインは相変わらず好物のナッツをぽりぽり齧りながら酒を進ませていく。それを観つつガダンは酢漬け野菜を摘みながら麦酒を飲む。



「そういや今週はフィナンに乗ってないな。たまには広い草原でたっぷり走らせてやりたいなぁ」



フィナンはガダン専用の愛馬だ。



「俺は昨日ハーヴィと街まで苗を買いに行ったけど、走り足りなそうだった」



ブラインの愛馬も運動不足を否めないらしい。



「まあ最近は皆それぞれ忙しい時期があったからなぁ。俺はどこに行くにもジョニーを連れて行くが、二人は屋敷内での仕事が多いだろう?もしどうしても遠出が無理そうで、二頭ともストレスが溜まりそうなら、俺で良ければピッタ爺のところで走らせてきてもいいぞ」



ピッタ爺とはフィナン始め、ここの屋敷の愛馬達の故郷でもある馬専門の牧場経営者件飼育責任者だ。


軍馬をメインに育てていて、様々な毛並みの素晴らしく優秀な馬達がいるが、ピッタは人間との付き合い云々よりも馬達を何よりも優先する男だ。どんな高貴な人物でも馬自身が相手を気に食わないなら譲らないという頑固さは、馬達にとっては何より頼れる存在である。



「うん。今週中に時間作ってピッタ爺の所にでも行く。明日庭の雑草毟るから、促進魔術かけてダンの所に持っていく」

「お、俺のフィナンにも分けてやってよ」

「いいよ。全員分あると思う」

「助かる。あの雑草混ぜるとあいつら良く食べるからな」



酢漬け野菜をかりこり食べながら、ガダンはブラインの持ってきた辛口の葡萄酒を注ぐ。



「ああ、これも旨いねぇ。味が濃くてじわりと舌に染み込む感じがまた良い。流石当たり年だねぇ」

「でしょ。買い溜めしといて正解」

「本当か!今度飲む時に是非声かけてくれ」

「うん」



ダンから愛馬の様子や、ブラインからはガダンがそろそろ収穫したいハーブの話を聞く。



(そろそろフィナンもちょっとがっつり走らせてやらないとなぁ)



それにガダンも最近運動不足なので、フィナンと共に運動がてらピッタ爺の所にでも行くかなと日程の調整を始める。



「ああ、そういえば。主とユフィーラも明後日かな…もう日が変わったから明日か。レノンとルードを連れてピッタ爺のところに顔出しに行くって行ってたよ。何でも勝負するらしい」

「「勝負?」」



ガダンとブラインの声が重なる。ダンは大きな口を開けてカナッペを一口で食べ、「お、とろっとしてサラミの塩気とハーブの香りで美味い!」と太陽のような笑顔でまた手を伸ばす。



「そうそう。今朝起きた時だったかな。お互いの馬自慢の話が白熱したみたいでさ。どちらが早く駆けて勝つか勝負するんだって」

「ユフィーラが負けるでしょ」

「流石になぁ。ルードがいくら優秀でも旦那が乗ったレノンには勝てそうにないねぇ」



それを聞いたダンが思い出し笑いをしてガダン達を見る。



「いや、それがもう本当に面白くてさ。勝負わからないかもよ?ユフィーラはルードを勝たせる為に自分が振り落とされないよう手には手綱、足には鐙に紐をぐるぐるに巻き付けてでも挑むんだって準備しているし、毎日馬房に来てルードに暗示のように話しかけているんだよ。小さい声でぶつぶつと、もうあれ呪文だって。本当に癒される…!」

「ぶっ」

「ははは!ユフィーラの行動はいつも斜め上に行くからなぁ」



ガダンは勿論、滅多に笑うことのないブラインですら思わず噴き出している。



「それ面白そう。俺も都合合わせて絶対見に行く」

「お、ブライン奇遇だねぇ。俺も頭の中で既に予定を組み合わせてる」

「あはは。俺もなんだな!そんな楽しそうなイベント観に行かない訳にはいかないからな」



その後、お互いの愛馬自慢に花が咲き、酒が進んで夜が更けていった。






翌日、何故かピッタの牧場にはテオルドとユフィーラ始め使用人全員が集結していた。使用人皆思うことは一緒だったらしい。


更に二人の勝負でなく九人全員での勝負と発展した。



勝負を制したのは、テオルドのレノンが一着。

そしてなんとユフィーラが半分意識を飛ばしながらのルードが僅差の二着。

更に僅差でガダンのフィナンとダンのジョニーが三着だった。


アビーとパミラに関しては「男達は勝負事には熱いから」と言いながら、それぞれの愛馬と軽快なステップで後方から見守っていたらしい。女性が一人混じっていたことを忘れてはいけない。


ランドルンとその愛馬も「私達は我道を行きますので」と途中でコースを外れるというマイペースっぷりで、ブラインは「あそこの雑草美味いよ絶対」とハーヴィと脱線し、ジェスとその愛馬は「主に勝とうだなんて烏滸がましいことは…!」と言いながらもそこそこ本気だったような気がしないではない。



そしてテオルドは歴戦の魔術師としての戦いでレノンと共に戦地を駆け抜ける猛者が一人の女性に対して何をしているんだ、とピッタからこっぴどく叱られていた。


半分放心状態のユフィーラにここぞとばかりに甘えていたルードがテオルドを見て失笑ならぬ失鼻を鳴らしたのをガダンは確かに間違いなく目撃した。







不定期更新です。

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