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ガダンと寛ぎの食事風景






その日の晩、食堂はちょっとした鉄板焼の店と化した。



ガダンは食堂のテーブルに鉄板を用意して、魔術で周りと向かいに座る住人に熱が廻らないように調整し、皆の前でお肉を焼いて提供するという、いつもと趣向の異なる食事処となった。



本日購入した、バター、チーズ、肉、そして家にあるものからの六品となる。


先ずは前菜にフルーツトマトとモッツァレラチーズにバジルを並べたシンプルなサラダ。


スープは具沢山のミネストローネの小さなマカロニ入り。少しガーリックを効かせることで、トマトの酸味を抑え、スープを少し吸ったマカロニも味が染みて美味いと評判だ。


次に芳醇なバターの香りが漂う新鮮な帆立のシンプルなバターソテーだ。帆立は生食でもできるものを軽く鉄板で表面だけ焼き色を付け、貝殻の上に戻してバターとエドワードから自家製リキュールと交換してもらった、大豆から作られた発行液体調味料を少量かけて蒸し焼きにしたものだ。



そして肉はテンダーロインとサーロイン、リブロースにミスジとそれぞれ選んでもらう予定だったが、皆揃って食べ比べしてみたいとのことで、順に提供していくことになった。


肉は薄く塩胡椒のみで、それぞれ好きに味付けしてもらう体にした。

肉汁から作るワインの効いたグレービーソースと、玉ねぎが主役のシャリアピンソース。

肉に合う岩塩数種類とペッパー数種類、パセリのみじん切りにレモン汁と塩胡椒を練り込んだパセリバターを用意した。


バケットは買い直して、薄めにカットしガーリックとバターを塗りパセリを振ったガーリックトーストに、溶かしバターとシュガーを塗ったシュガーラスク。


とても濃くて美味しそうなミルクから作ったミルクシャーベットはデザートに。




「おおおいふぃ!」

「落ち着け。肉はまだあるから」

「肉の部位によって味付け変えられるのかなり嬉しいんだけど!」

「もうこの肉なら当たり年の赤葡萄酒出すしかないじゃないよー」

「おや、なら私は白葡萄酒の当たり年を出しましょうか」

「おい、私の帆立と交換しただろう!」

「良いじゃん、殻はそっちの方が大きいし」

「ガダン、肉は一通り食べた後にもっと欲しい場合はまだあるのか?」

「沢山仕入れてあるよー」



今日に限ってはガダンが鉄板から離れられないので、鉄板で焼くもの以外はそれぞれ好きに皿に取り分ける形式にさせてもらった。それを聞いたユフィーラは「何だか食べ放題みたいで楽しいですねぇ!」と大喜びだ。今度色々な物を沢山作ってそれだけでやってみても面白いかもしれない。



「どうすれば…ミスジだけでなく他も少しずつ食べたとしてもサラダも帆立もスープだって…ラスクとか最高ですか…最後のシャーベットの分はしっかりとお腹の場所を残しておいたとして…」

「好きなように食べれば良い」

「微笑んでないで取り皿に乗っているサラダとバケットの量を見てください量を。これに更にお肉数種類が入るんですよ」

「あ、帆立にこの調味料とバターの組み合わせはやばい。とっておきの白葡萄酒出すしかないよこれ」

「やれやれ。では私も隠しておいた赤葡萄酒を出すしかなさそうですね」

「食べた後の殻を乗せるな!」

「良い歳してそんなに怒鳴るの大人気ない」

「ガダン、リブロースの脂の乗りが美味すぎる。次もそれが良い」

「はいはい。サーロイン焼けたらね」



テンダーロイン始め王道のサーロインなどは言わずもがな、ミスジのさっぱりした赤身も思いの外好評だった。ミスジの取り除いた筋部分は明日以降のどこかでシチューにするとユフィーラとは約束しているが、また種類で揉めると面倒なので内緒にした。



「ガダンさんのお肉の焼き加減は流石ですねぇ!火加減がお見事なのです!」

「ああ。火の魔術に関しては俺でも勝てないな」

「私も火得意だから今度模擬戦やりましょう!そしてサラダのドレッシングも本当に美味しい!」

「あーガダンのちょいキレたギラついた目が見たかったなーミスジ美味いね。これもう少し欲しい」

「サーロインのきめ細かい層が旨味を凝縮させていますね。穏やかに料理人なんてしてますが、根っからの攻撃気質ですからね。私でも敵対したくない一人ですよ」

「料理の質が繊細だから間違いなく魔術の操作も巧みのはずだ。…って最後に残しておいたテンダーロインを…!」

「要らないのかと思ったの。ガダン無詠唱魔術の早さはテオルドさんと良い勝負の時もあるよね。スープお代わりしてくる」

「傭兵よりも動きが素早いって聞いたことあるからなぁ。それで魔術もできるんだから対岸にいたら嫌だろうなぁ。ガーリックトーストと肉の組み合わせも良いな!」



ガダンは苦笑しながら、ある程度焼き終わって、自分の定位置であるカウンターに向かう。いつもちょこちょこ摘んでいるが、今日は目の前で調理した為、皿にざっと食べ物を適当に乗せてカウンターに置いて摘みながら、賑やかで寛ぎながら食事している住人達を見る。


皆それぞれ好きな物を好きなように、そしてガダンの作る食事を美味しそうに食べながら談笑している。


それらを肘を付きながら見ているガダンはふと思う。




皆その立場に立ったなら一緒だろうに。




テオルドは容赦なく無詠唱の魔術を連打するだろう。


ユフィーラは「まあ」なんて言いながら、薬を毒薬に変えてしまう術を生み出してしまうかもしれない。


アビーは相手のことなど微塵も考えずに問答無用で魔術をぶっ放すだろう。


パミラは相手が苦戦しそうな回りくどい魔術をじわじわと展開していくだろう。


ランドルンはねちねちと追い込むように嫌味ったらしい魔術を駆使するだろう。


ジェスは主の動きやすいように立ち回りながら、何気に鋭い一発を放つだろう。


ブラインは緻密な魔術を編み出して相手が気づく前に終わらせているだろう。


ダンは正面から騎士のように、突撃して大きな打撃を与えるだろう。



ここの住人を。

ここの場所を。

個々に大事にしている屋敷のものを。

脅かされれば。

誰でも。



相手にも何某の理由があったとしても、それはこちらにも言えること。


ガダンはいつの間にか大事で大切な場所を周りが作ってくれて、それを自ら育てていっていたらしい。それを失うことを恐れ、敬遠していた過去もあった。




それでも。

もう見つけてしまったのだ。




今日も明日もその先も。



この時間が自分にとって、この屋敷の皆にとってなんてことのない、でもかけがえのない日常。

そして何より大事な時間であることを、ガダンはしみじみと味わいながら今日も満喫している。







完結となります。

最後までお読みいただき

ありがとうございました。

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