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卸問屋に買い出しへ






この日、ガダンは王都の街に繰り出していた。

先日ハインド伯爵家の料理長であるエドワードから、乳製品始め肉類が卸問屋へ仕入れが始まったと連絡が来た。鮮度の状態も問題なく良いとのことなので、今夜は全員が夕食時間を合わせられると聞いたガダンは、火の魔術を駆使して鉄板焼でもやろうかと買い出しに向かっていた。



活気のある街並みは店や露店が並び賑わっている。ガダンは街の外まで転移で移動し、街の通りをゆっくりと観察しながら卸問屋に向かう。


通りと通りの間に大きな噴水のある広場へ出た時、広場中央あたりで今日は仕事が休みのテオルドとユフィーラを見かけた。テオルドは王都騎士団の騎士らしき人物と何か話しており、ガダンはちょっと声をかけに寄ってみるとユフィーラがこちらに気づいて近寄ってきた。



「ガダンさん!今日はこちらへお買い物ですか?」

「そうそう。あれ街を巡回している騎士だよな?旦那どうかしたのか」

「あ、それが――――」



ユフィーラが説明しようと来た場所を見ると、騎士との話を終えたテオルドがこちらに向かってきた。



「旦那、何かありましたか?」

「ああ。ここ最近、隣国周辺で騒がせている盗賊らしき輩がこちらにも出没しているという話を聞いていた。先日この街周辺で怪しい人物が彷徨いているのを目撃されたらしい。もしかしたら下見に来ていたのかもな」

「へえ…奴らに何か特徴はあるんですか?」

「目撃されたのは全員男。カタコトのような言葉訛りがあって頭の人物が一人と、あとは子分のようなものだな」

「んーこの辺は隣国でも訛りないから奥の端っこの方ですかねぇ」

「隣国の辺境ならあるかもしれないが、詳しくは分からないな」



テオルドとユフィーラは、以前からアビーにお勧めされていたカフェからの帰りだそうだ。



「新しくできたところか。良い店だったか?」

「はい!美味しいホットサンドイッチを食べてきました。とろーりチーズとバジルとハムのトリプルサンドでした!」

「はは、そりゃ良かったな。もう帰るのか?」

「いえ、ここの広場でのんびりでもしようかとテオ様と話していたのです。それで騎士の皆さんからお話を聞く流れに。ガダンさんはこれからですよね?」

「ああ。以前話していた卸問屋が開いたんで肉と乳製品を仕入れにな。良い肉があったら今夜は鉄板焼にでもしようかと考えてるんだ」

「てっぱんやき…!」



屋敷での初めての試みの料理に、ユフィーラの瞳がきらきらと輝き始める。



「そ、そこは様々なお肉や乳製品が所狭しと陳列しているのでしょうか?」

「あーどうだろうなぁ。店って構えではないから、遠くから卸しに来た者が倉庫内に自家製品を大量に並べる感じなんじゃないか」



未知の場所の話にユフィーラはぱあっと表情を明るくする。



「美味しい乳製品、バター…ガダンさんが織り成す鉄板焼を彩るお肉の数々…!」



先ほどホットサンドを食べただろうに、ユフィーラの頭の中は既に鉄板焼で埋め尽くされているのだろうことが容易に想像できて微笑ましくなる。



「そこのお店は誰でも入れるのですか?」

「いや、紹介制だな。でも俺が行くことは知っているから、連れだってことを伝えれば――――」

「テオ様!」

「予測済みだ」



テオルドもユフィーラの煌めいた表情で大方予想していたのだろう。返事は流れるように早い。最愛の妻の卸問屋への興味津々の様子に苦笑しながら頭を撫でる。



「俺達が行っても問題ないのか?」

「大丈夫でしょう。それにアリアナ嬢の友人ということも言っておけば問題ないかと」

「持つべき者は顔の広い親友です!」

「良かったな、フィー」

「はい!」



そこからは三人で卸問屋に向かった。大通りから少し外れた通りの奥に大きな倉庫が並ぶ場所に出た。何人もの商人と、紹介のお眼鏡に叶った料理人が周辺を賑わせている。



「わあ…食べ物だけでなく生地や織物、陶芸品…沢山のバターやチーズに…濃厚なミルクまで…!」


最終的には美味しそうな食べ物に興味が戻ってしまったユフィーラにほっこりしながら、先ずは乳製品通りのような、全ての店が乳製品だらけの場所へ移動した。


ユフィーラはうずうずしながらもそれ以上興奮することはなく、あちこち見ては瞳をきらきらさせてる姿をテオルドが優しい表情で見ている。本当にユフィーラのおかげで旦那は人間らしくなったなぁとガダンも感慨深くなる。


いつも仕入れていたバターの牧場の商店を見つけ、店主と話しながらいつものバターと新製品を数品、そしてチーズを数種類購入する。


店主はあまりにきらきらした目で見ているユフィーラにあれこれと商品の話を聞かせ、ユフィーラは興味深そうに聞き入り、時折り質問を挟んでいる。それが店主側の製品知識を擽る絶妙な良い質問をするので、気分良く自分の商品を自慢できたのか、試食だと片っ端からチーズの切れ端をユフィーラに渡していた。当然ユフィーラのご機嫌も急上昇だ。


店から離れてから「儲けましたね!」と胸を張るユフィーラに噴き出しそうになる。


三人で試食のチーズを齧りながら様々な品々を歩き見て、いよいよメインの肉通りに辿り着く。


吊り下げられた大きな肉の塊や綺麗な霜降りに彩られた肉などが業務用のテーブルに並んだりと、ユフィーラは口の中にチーズはもう入っていないのに、口をもぐもぐし始める。恐らく肉を食べる予想でもしているのだろう。テオルドが自分の口元を押さえ笑いを堪えているのを見て、ガダンも堪える我が主を見てほっこりしてにやつく口元を押さえる連鎖に陥った。



「は!す、すみません、つい…。今夜の鉄板焼でこの綺麗な層の入ったお肉の中から、一体どれが口に入るのかを想像すると口が勝手に…」



それを聞いていた肉屋の問屋の店主が気を良くしてユフィーラに話しかける。

ユフィーラもブランドの肉の名前や、部位肉それぞれの良さなどを聞き、時折り口をもぐもぐしながら、熱心に話を聞いて学んでいる。



「お肉の部位にも色々あるのですねぇ…私個人としましてはミスジが良いです!」

「お?お嬢ちゃん珍しいね。確かに柔らかい赤身と強い旨味を感じる部位ではあるが、女性はテンダーロインかシャトーブリアンといった脂身が少なく柔らかい希少な部位を好むんだがねぇ」



店主が目を丸くしながら言うと、ユフィーラは首を傾げながら答える。



「勿論希少な部位もとても美味なのでしょうが、ミスジは少しばかり良心的なお値段の部位なのに、赤身柔らかで、旨味の強さが高い…しかも筋の部分をとっておいてシチューなどの煮込みにもできるではないですか!一箇所の部位で二度美味しいなんて…!」

「お嬢ちゃん良く分かっているじゃないか!捨てるんじゃなくて全部使い切ってこそだ。やるねぇ」

「ふふ、うちの料理人からの受け売りなのです。そしてこうやって話題に出したことで来週あたりきっと美味しいシチューが食卓に出るはず…!」

「はいはい、鉄板とシチューね」



ユフィーラはガダンの言葉に店主に向かってほら!とでも言いたげに拳を振り上げた。



「いやあ、あんたが良い料理の腕を持っているんだな。このお嬢ちゃんに美味い肉を食べさせてやってくれ。安くしとくよ」

「お、やった。じゃあ、他の部位もここで買っていくからそれも頼むよ」

「うはは!兄ちゃんも良い性格してるねぇ。良いよ、今後もご贔屓にな!」

「テオ様、儲けましたね!」

「それは店主側の言葉だな」

「わはは!楽しい気分にさせてくれたんだ、おまけもつけてやるか!」

「儲けました!」

「ユフィーラ、良くやった」



ガダンもこれにはご機嫌だ。

ユフィーラは両手の拳を握りしめながらテオルドに向かって勝利のポーズをしている。テオルドはそんなユフィーラが可愛くて仕方ないのか頭と頬を撫でていた。


そして思っていた以上に物が良い状態の肉の数々から、ミスジを始めテンダーロインとサーロイン、リブロースと、煮込み料理用にもバラやスジ肉も買い込んだ。おまけの細切れ肉ももらい、結構な量になったが、ユフィーラが半分持ちたいと問屋の店主から受け取り、嬉しそうに抱え込んでいる姿は何とも癒されるものだ。







不定期更新です。

誤字報告ありがとうございます。

とても助かってます。

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