優しいお兄ちゃん
「今日から俺らは兄弟だ。いつでも気軽に話しかけていい。俺は鈴夏と仲良くなりたいと思っている。」
挨拶に行ったときとは態度が違う。私と仲良くなりたいなんてきっと何かの冗談だよね。私は人に好かれない。別に好かれなくてもいいけど私にかかわろうとする人はだいたい何かを企んでいる。友達になりたいと言って近づいてきた人はだいたい嫌がらせをするために来る。友達も教師も親もみんな凛音が持っている。凛音だけが愛される。私は愛されないダメな子だから。私は愛されるためにたくさん努力してきた。勉強もスポーツもパパが言ってた通りにちゃんと完璧にこなしてた。なのに私よりもできない凛音のことをみんなは愛す。おかしいよね…理不尽だよそんなの。
「無理に仲良くしなくてもいいです。さっきはあんなにそっけない態度だったのに急に態度を変えて何のつもり?」
つい、本音を言ってしまった。
「やっぱり面白いなお前。無理に仲良くなろうとは思っていない。俺は女が嫌いだがお前はなぜか嫌とは思わなかった。ただそれだけだ。」
「何を企んでるの?私と仲良くしてなにかあなたにメリットでもあるの?」
一度本性をバラしてしまったんだから取り繕う必要もない。もし管崎さんにこの人がバラしたら出ていけばいいだけ。
「何も企んでない。俺は単純にお前と仲良くなりたいだけだ。お前も過去にいろいろあったんだろ?すぐに俺を信用しろとは言わない。だが俺も親父も少なくともこの屋敷の人間はお前が思っているような人間じゃない」
確かにこの人の言っていることは本当かもしれない。メイドさんや執事さんたちはいい人ばかりだったしこの人からは何にも感じない。長年嫌がらせを受けていたら自分に悪意のある人間が接触してきたら違和感を感じるようになった。ただ違和感があるかないかだけで判断してしまったらダメ。憶測で物を考えてはいけない。ちゃんと自分の目で確かめてからじゃないと…。
「わかった。少しだけ信用する…。」
この家の人たちが優しくて助かった。私はもうあの家に帰らない。私がいなくなってもあの人たちは探さないだろうし…。あとは学校だけ…今まで通り通えば凛音に会ってしまう。凛音は私をこき使いたいだろうから連れ戻そうとするはずだし、ママたちからしたら私はただの召使でいてもいなくても変わらないだろうけど、凛音からしたら提出物をしてくれる私がいなくなったら苦労するだろう。
「鈴夏、学校はどうするんだ?今通っている学校にはお前の妹もいるだろ。もし転校したいなら俺の通ってる所にくればいい。編入試験はあるが何とかなるだろう。」
転校…?もしできるなら願ったり叶ったりだけど本当にいいの?編入試験なんて適当にすればいいし。
「あなたはどこに通ってるの?」
「星夜照学園高等部だ。この辺では結構有名だと思う。俺も編入試験を説いたことはあるけど結構難しかった。テスト対策ならしてやるからわからないことがあったらいつでも頼って。」
頼ってと言われても特にわからないこととかないし…。なんなら今すぐにでもテストを受けたいくらい。
「それと、俺は伊吹だ。あなたはやめろ。」
「はーい。じゃあ、イブ兄で。早速だけど今から編入試験受けれないの?」
少しでも早く編入したい。あんな地獄みたいな学校で過ごしたく無い。ママに暴力を振るわれるのが嫌で学校でも凛音の言いなり。逆らうことはできなかった。私は自由になりたい。「できるけど、もういいの?」
「うん。できるだけ早く編入したいから。」
イブ兄はすぐに試験の用意をしてくれた。不正ができないようにイブ兄の監視の中全科目試験を受けた。ご科目全て終わらせるには約五時間かかるけど私はほぼ三時間で終わった。イブ兄はむずかしかったと言ってたけど、私はむずかしいとは思わなかった…。とか言っていっぱい間違ってたら恥ずかしいけど(笑)実は管崎さんは星学(星夜照学園)の学園長だった。編入試験問題は全部管崎さんが作成しているから、私が受けた試験の採点をしてくれた。採点中に実技のテストも受けた。結果はなんと…満点だった。筆記も満点だったから文句なしで編入試験合格した。管崎さんにお願いして急遽編入手続きをしてもらえた。制服の手配もしてくれて三日後には制服が届くと言ってくれた。その日は新しい学校に行くのに必要なものや、衣類など生活に必要なものを買いに行った。自分のための買い物を自分で行くことは久しぶりで少し緊張した。