変な女 by伊吹
「初めまして、華宮 鈴夏です。今日からお世話になることになりました。管崎さんからあなたが女性を苦手としていることを聞きましたので極力かかわらないようにするのでどうかこの家に居させていただきたいです。」
この女のことは昨日の夜、親父から聞いてた。この女は足を怪我した親父を助けたらしく、お礼に飯をごちそうしたら食べながら泣き出したようで話を聞くと残酷なものだったそうだ。親父はその女をこの家に受け入れたいと言ってきた。親父はもの凄くお人好しで困っている人がいたら何としても助けようとするが俺は女のことなんて信用できない。親父は世界的有名な会社の社長で顔が広い、親父を利用するために嘘をついて近づいてきているのかもしれない。受け入れるかどうかはこの女のことをしっかり知ってからだ。俺は女が嫌い、正直この女を受け入れるなんて死ぬほど嫌だ。でも親父の話がほんとなら助けてやりたいと思った。俺の専属執事、大塚に女のことを調べさせた。大塚は情報収集のスペシャリストで信憑性が高い。昨日の夜から調べさせ今日の朝その報告が来た。女は親父の言う通りひどい家庭環境で生活していた。俺の創造をはるかに超えてきてさすがの俺でもこの女をもとの家に帰すわけにはいかないと思った。
「そうか、好きにしろ。」
この家に住むことは許してやる。でも俺にかかわることは許さない。この女は家庭内だけじゃなく、学校での扱いもひどかった。双子の妹は家で姉にいじめられていると嘘を吐き、それを信じたあほどもがみんなであの女、華宮 鈴夏をいじめ始めた。そのいじめは小4から現在までずっと続いていたらしく、中学二年生の頃とある教師が華宮兄弟の関係性について違和感を感じ、噂では華宮鈴夏が妹の凛音をいじめているということになっているが、その教師は逆だと気付いた。ある日の放課後、華宮兄弟を呼び出し、本当のことを問いただした。そしてその次の日教師はクビになった。華宮家は当時多額の寄付をしていたことより学園長も華宮家に逆らうことができなかった。その出来事がきっかけでさらにいじめがエスカレートしたようだ。
「大塚、華宮 鈴夏の行動を監視しておけ。もしこの家でもいじめられたら助けてやれ。」
「伊吹様…。承知しました。お任せください」
この女嫌いの俺が俺の専属執事にこんな命令を出すなんて…自分でも吐き気がするがこの女はここに来るまでものすごく苦労してきた。苦労してきた分娯楽を与えるべきだと思った。親父はきっと華宮 鈴夏を引き取ることを家族に報告しに行くだろう。断られることはないだろうが華宮 鈴夏を妬んだ妹がすきを狙って嫌がらせをしてくるかもしれない。認めたくはないがコイツは今日から俺の妹となる。妹になったからには兄として最低限は守ってやろうと思う。
親父の会社を継ぐために経済学や社長になるための勉強をしていると大塚が戻ってきた。大塚が戻ってくるということは俺になにか報告があるということ。
「どうした。」
「あの、鈴夏様に関してなんですが…。執事の仕事を手伝ったり、メイドの仕事を手伝っているようです。もちろん執事もメイドも断りましたが鈴夏様はどうしても手伝いをしたいらしくなかなかあきらめなかったようでしぶしぶお願いしたそうです」
執事やメイドの仕事を手伝う?確かメイドは清掃や食事作りなど俺たちの身の回りのお世話、執事は決算などの事務仕事。どちらも素人ができるような仕事ではない。
「その、仕事も完璧にこなすそうで決算などの計算が異次元のスピードでしかも正確に終わらせるそうです。」
この女、面白いな(笑)普通はメイドや執事の仕事を手伝おうとしない。出て行った母親に関しては何にもしない上にダメ出しばかり言うという最悪な女だった。俺が女のことが嫌いになった原因の一つが母親だった。もちろん母親だけではないが母親の態度や振る舞いが吐き気がするほど気持ちが悪かった。女というものは最悪で最低な奴なんだと思った。でもこいつは違う。普通はする必要がないことをやるし、態度や振る舞いがいい。少なくても俺の嫌いな女の種類ではないかもしれない。親父は顔が整っている。俺も親父に似て顔が整っているらしく物心ついたころから周りに女が群がっていた。顔だけじゃない、管崎 伊吹の彼女というポジションが欲しかっただけで本当に俺を見る気はなかった。俺に群がる女からは下心しか感じない。俺はそれが嫌だったから誰も近づいてこないように噂を流したり、そっけない態度をとったりした。メイドの中にも俺に近づこうとするやつがいたから執事だけにしたし大塚以外を部屋に入れないようにした。俺に近づこうとするメイドは掃除のふりをして俺の部屋に忍び込んだり、何にも用事がないのに何かと用事があると言い訳して近づいてきた。だからきっと花宮鈴夏もそうすると思った。でも愛とはここに来る気配がなかった。俺に興味がないんだろう。こんな女は初めてだ。俺はこの女が欲しい。
気づいたら自分から鈴夏に会いに行っていた。
「鈴夏、ちょっといいか?」
「あ、はい。」
「今日から俺らは兄弟だ。いつでも気軽に話しかけていい。俺は鈴夏と仲良くなりたいと思っている。」
きょとんとしている鈴夏はどんな有名人よりもかわいいと思った。