腐女子転生〜負けられない戦いがそこにある〜
第一章ここが楽園_エデン_か
ごきげんよう、皆様。私アレクシア・ハーヴァー。十六歳。ハーヴァー家の一人娘ですわ。
ハーヴァー家は公爵の爵位を持っておりまして、この王国の中でも王家の次に権力のある、素晴らしいお家なんですの。お父様は騎士団長、お母様はハーヴァー家の令嬢で、淑女の全てを詰め込んだような、素敵なお母様で、社交会のトップを張られております。そんな二人の元で育った、この私アレクシアはそれはそれはもう可愛がられ、淑女としてのマナーを学び、王太子を婚約者にもつ立派なレディなのですわ。
……………。
とまぁ、“ゲーム内設定の中”のアレクシアはその通り。今のわたしは全然違う。
わたしは、鈴野萌奈。もともとは二十二歳だった大学生でただの腐女子してるオタクだった。そんなわたしはある日、いつも通りに某アニメグッズ店に行ってグッズを買い漁っていたの。その帰り道、信号無視のトラックに轢かれてわたしの命はおじゃんになったわけだ。
そして、この世界。[聖女の誓い]と呼ばれるゲームの中に転生してしまったらしい。
[聖女の誓い]は聖女になる女勇者が黒龍を倒すためにいろんな仲間と協力しながら、絆を深めていき、最大まで絆を深めると恋人になれる、RPGと乙女ゲーを混ぜたかのような剣と魔法の作品だ。そしてアレクシアはその作品のなかの悪役令嬢だ。黒龍に魅入ってしまい、手先になってしまったアレクシアは、あの手この手でヒロインたちの妨害をする。中盤辺りまで進めていき、ある強制イベント地点で攻略対象のうちの一人が一定以上の絆が貯まっていると、その相手を奪うイベントも発生したりする。
悪役令嬢に転生なんて、どんなネット小説だよ、なんて思ったけど、わたしは感謝しかない。本当に神様ありがとうという気持ちかしかない。
なぜならそれは、この世界の仲間の一人、騎士団第一部隊長であるレーン・ウォードと隠しキャラの第一部隊の副隊長、ルナ・バトラーはわたしの推しCPだからだ!!!
レンルナ最高!!レンルナ最高!!レンルナ最高!!お前もレンルナ最高と言いなさい!
っと、少々乱れてしまった。申し訳ない。
ちなみにルナなんて可愛い名前しているが、きちんと男だ。なんならルナはレーンより身長が高い。体格はレーンの方がムキムキなんだけどね。
というわけで推しCPが生で見られるこの機会を与えてくれたことに感謝しかないし、そうじゃなくても、公式が出してない公式(?)の二人が見れるということは貴重でしかない。
なのでわたしはこの生を存分に満喫することにした!!!!というかしてる!!
実はわたし、この世界に来たばかりではない。来たのは一ヶ月くらい前。
その当時は何もかも怖くて、この世界が[聖女の誓い]であることに気がついたのは、そこから一週間後のわたしの婚約者、いやアレクシアの婚約者である、王太子のアルフレッドが来たからだった。どうやらアレクシアがわがままを言って会う約束をつけたらしく、機嫌は悪そうだった。アレクシアはわがままで、自分の思う通りにならなければ癇癪をするような、割と救えないタイプの女性だったりするので、その気持ちはわかる。
最初はわたしもネット小説みたいに、自分の行動を見直したなんて言って、それでもアレクシアとして正しく生きよう、と思ってみたりもしたけど、ここが[聖女の誓い]であるならば推しCPが“いる“ことに一瞬で気がついた。
そこからはもうお察しの通り、推しCPを摂取するのに余念がなかったわけだ。お父様に会うという面目で、第一部隊をガン見しているのは日課で、さすがにバレないわけなかったが、その時は「みんなかっこいいですから、つい」なんて言って誤魔化したりもしたなぁ。
まぁ、そんなことばっかりしてたので、アルフレッドにはすぐに「誰が乗り移っている?」なんてものすごく怪訝な顔をされたわけだけれど。
というか今もなお、後ろで怪訝な顔をされている気がするけど。
「……アレクシア」
「なんでしょう、アルフレッド様」
「今日もまた飽きずに覗きか?…本当に飽きないな」
「生きがいですので」
こうした覗きをしていてもアルフレッドは止めることはして来ないし、最近わたしのこともきちんと受け入れてくれて、隠してくれているからいい男だ。
アルフレッドには疑われたその瞬間に、すべてのことをぶちまけた。事情を知る仲間が欲しかったから、ちょうどよく疑ってきたアルフレッドにその矛先がいったのだ。反省はしている、後悔はしていない。
とまぁ、全力でわたしがアレクシアじゃないことと、危害は加えないということを懸命に説明したら、納得してくれた。曰く「アレクシアが本心でこんなことをするとは思えない」という理由らしい。
いや、しかし、それでもよく信じてそばにおいてくれたものだ。
「アルフレッド様もなかなか肝が据わっておりますよね」
「今の方がマシってだけだ。怪文書製造機」
怪文書製造機。それはわたしがこっそり今でも書いているレンルナのCP小説を読まれたことがきっかけのあだ名だ。
そりゃああんな目の前で、レンルナぶつけられたら描くしかないし、書くしかない。
ただ、絵は手が覚えている、なんてこともあるので絵を描いたことのないアレクシアではなかなか思い通りに描けなくてむしゃくしゃしてしまうので、おとなしく文字で書くことにしたのだ。そして、最近、わたしは考えていたレンルナ小説を新しく書き始めたところだ。
「またわたしの小説読みましたね!!??」
第二章 ライバル登場!?
アルフレッドとそんな愉快なコントをしながら数週間が経った。その間私は変わることなく、いつも覗きという名の見守りをしていた。わたしはひとつ確定させておきたかったこともあるのだ。それは、隠しキャラで副隊長の方のルナ・バトラーは物語の中で裏切りキャラなのだ。黒龍の手下である大臣の秘密裏な部下であるため、第一部隊を壊滅させて黒龍の邪魔になる存在を排除しようと動いていたキャラだ。そのため最初は頼りになる物腰の柔らかい参謀的な立ち位置で、プレイヤー含め全員が味方だと思っていた為に裏切りは作中でもとんでもないインパクトを残している。
そんなルナは第一部隊壊滅のための計画中、隊長であるレーンと主人公である女勇者のマリアによってその計画がバレ、大臣もろとも処刑、ということになる。
しかし、しかしだ。ルナは処刑されなかった。ルナの過去について調べていたレーンが大臣こそがただ一人処刑を受けるべきだと主張したためだ。なんでこうなったかって?文字数えぐいことになるけど大丈夫そ?わたしがレンルナに狂い始めたきっかけの話でもあるから本当に長くなるぞ?では、早速話してあげよう。
………ちょっと待って。緊急事態だ。
今二人を見守っている私の視界に、茶髪の女の子が映ったぞ。印象的な赤いバンダナを頭につけている。その冒険者っぽい服装をしている少女は、少し頬を赤らめながらレンルナの二人を見つめているではないか。ただモブが見ているだけなのならわたしもここまで反応しない。二人は攻略対象だけあってとんでもなく顔が良いからな。しかし、[聖女の誓い]にて茶髪で、赤いバンダナをつけた、冒険者っぽい恰好をしている女の子は、まさに!主人公の特徴に当てはまる!というか間違いない!!あれ女勇者だ!!
なんで!?なんでここに女勇者が!?しかも顔を赤らめているぞ!!これはレーンルートに入っている女勇者なのか!?これは由々しき事態だ。私のここ一ヶ月の努力が水泡に帰すぞ。いやまじで。ちなみに唐突にさっきの話に戻ると、わたしはルナが裏切る前なのか、裏切った後なのかを確定させたかったから覗きにより一層力をかけていた。結果として、ルナはもうすでに裏切った後だったため、女勇者と関わりがあっても不思議じゃないし。というかわんちゃんねこちゃんルナルートなんてのもあり得る。
やばい、やばいぞ。せっかく二人の距離を縮めるために、わざと二人っきりにして話し合いをさせたり、わたしがわがままを言ったということにして、二人を護衛役として街まで一緒についてきてもらって、疑似的なデートをさせていたというのに。
それで裏切り後ってこともあってか、ルナがレーンに心を許し始めているというのに!
だめだ、ここで女勇者は立ち入り禁止にしないと……。
わたしは即座に行動に移した。最初は動きにくかったドレスも、今ではもう慣れたもので、ヒールの音を高くあげながら、レンルナにはばれないように女勇者に近寄った。
彼女がいた木々の間の茂みはわたしが以前に、二人を観るために使っていた場所と奇しくも同じだったから、ヘビのようにするすると近寄ることが出来た。
「ちょっと、そこのあなた」
「!?へ、えぇぇ!?」
女勇者ことマリアは酷く驚いた様子で面白いぐらいに肩が跳ね上がった。それは、どこか既視感を覚える驚き方で。まるでオタクが自分のド好み全開の同人誌を読んでいる時に声をかけられたかのような反応だった。
なんだこの妙に親近感が湧く反応は……なんて少し面食らっていたが、すぐに持ち直して、持っている扇を口元に当て、凛とした態度でマリアに尋ねた。
「あなた、どうしてこんなところにいるのかしら。ここが騎士団の敷地内と知っていて?」
そう声をかけると、マリアはなんとも歯切れの悪い反応を見せ始め、「あー」だの「えっとー」と、学校帰りにゲーセンにいることが先生にバレた学生並みになにか言い訳を考えているようだった。
「その……二人、のことが、気になって…?」
なぜ、疑問視がつくのか。
どっちかに向けてる好意がバレたくないのだろうか。というか、ルナが裏切り後なのだからマリアはこうしてこそこそと影から見るんじゃなく、そのまま話しかけていけばいいのに。なんで隠れてたんだ?
「そ、それこそ、なんで、アレクシア様はここに……」
「わたくしはお父様に会いに来たの。そうしてふと外を見たら、なにやら怪しい人がいたものだから。声をかけたのよ」
「あぁ、なるほ……怪しいと思われたのであれば、騎士に通報すればよかったのでは…何も危ない怪しい人に一人で近づくのは危ないんじゃあ」
………………確かに。
言われてみれば全く持ってその通りだ。いやまぁでも、せっかくレンルナが二人っきりでいるのに変に騒ぎを起こして二人の邪魔はしたくなかった。それを優先したがために、私は怪しまれているんだが。どうしよう。この場面。
ッは!!そうだ!ルナの裏切り後というなら、今は中盤辺りの筈!そうすればアレクシアとマリアは何度か面識があってもおかしくない!だから!なにも!問題ない!!
「何やらどこかで見たことのあるような、怪しい人でしたので。わたくし自ら事情を聴こうと思ったのですよ。」
よし!!決まった!何も不自然はない!!
「……えっと、こういうのもあれですけど、アレクシア様は私のこと嫌いですよね…?むしろ不審者がいる、と私を突き出すいい機会だったのでは?」
おぎゃーーーーー!!まさかそんな反論飛んでくると思っていなかったよ!!え、嘘でしょ!マリアってわりと純粋で、真っ直ぐに色々と受け止めるから、そんな細かい所まで突っ込まれるとは思わなかったよ!?
どどどどどどど、どうしよう。彼女の言う事には確かにそうだ。と納得してしまうのが問題だ。いいいいいやここは、どうにかしてアレクシアの気まぐれ感を出して、乗り切らなければ……。
ちなみにここまで一切顔にはだしていないのだから、わたし女優になれるかもしれん。
「ふぅ、人がせっかく優しくしてあげているのに。そう、そんなに呼ばれたいのであれば、呼びましょうか」
そういうと流石にマリアの顔は少し、強張った。流石にびびったのだろう。よしよし、このまま平和に追い返せれば……。
「アレクシア様って呼んだのに。ハ―ヴァ―公爵令嬢と呼びなさいって、言わなんですね。そこまで仲良くないって、いつも言ってたのに。」
もう、とんでもない大きさの雷がわたしの上に落ちてきたかの衝撃だった。
アレクシアとマリアがもうすでに出会って、アレクシアはマリアの事を良く思っていないのは分かっていたじゃないか。だっていま中盤だぜ?己の頭の悪さには感動しちまうな。
仕方ない。ここはこの怪しさを回避するために、自分も疑問に思ったことをぶつけてやろう。
「あなたも。あの二人とは仲良しなのでしょう?ですのになぜ、会いに行かないのです?」
「う、あ、あの」
「それに、何故わたくしが嫌がると分かっておりながら名前で呼んだのかしら?それになんだか、あなた、前のあなたと随分印象が違うけれど」
そういうと、マリアは完全に黙り込んでしまった。痛いところを突かれた、という表情で。
思ったけど、この子も転生者、なのでは。
だって、ここまでマリアらしくないと言われて、すぐに否定することもなく黙り込んで、二人に話しかけにいかない理由は何故と訊けば、どうにもばつが悪そうな、それでいて、時々微妙な笑みを浮かべているところ。
先ほどまでは好意を向けている、と感じていたがどうにも親近感の感じるこの反応と笑み。
典型的なもう知れ渡っている方法だが。試してみるか。
「攻めの反対は?」
「へ?受け」
「pixi〇は?」
「読んでる」
こんなにも、上手くいってしまうのか。そうか。
マリアは自分の言ったことに対して、ハッとしたような顔をすると、すぐに私に向かって、信じられない、という顔を向けてきた。
訳の分からない君に軽く説明をしよう。攻めの反対は通常、守りだ。受けというのは確実にCP関係のオタク、そして腐女子である確率がひっじょうに高い。まぁ別に将棋の世界とかでも攻めの反対は割と受けだったりもするんだけど、いいんだそんなことは。そしてpixi〇を見るのではなく、読むと言った。これは確実にpixi〇を漁っているタイプのオタクである。
これはあくまで偏見にすぎないので軽率に判断してしまうのはよろしくないが、この話題が伝わったと言うだけで、確実に向こうも転生者であり、しかもけっこうな腐女子のオタクということが分かる。
「まさか、とは思ったけど。まさかあなたもだなんて」
「え?え?ま~~~じで???」
目の前のマリア兼推定同じ日本からきた腐女子は酷く混乱したまま、何度も「マジで?」と繰り返しわたしを見つめていた。奇遇だな、わたしも同じ気持ちだ。
まさか主人公の女勇者であるマリアが同じ転生者で、同じ腐女子。そして同じ二人を見つめていた、ということはあの二人のCPが好き(仮)、という運命的な確率を引いてしまったわけだが。
安心はできない。
まっっっったくもって、安心が出来ない。
なぜならわたしは、リバが大の苦手で、逆CPが地雷で、相手左右固定CP厨なのだ。何言ってるか分からないって?つまりは攻めと受けが逆転するのが苦手だし、レーンやルナの別のCPが見れないってことだよ。ここでだ。相手固定の方はきっと大丈夫に思う。だってここで影になって二人の事にこにこ見てんだもん。だが!もし!レンルナではなく。ルナレンとか言い出した場合!!それはもう。
戦争だ。
間違いなく戦争が起きる。どっちが攻めでどっちが受けか。これは実に重要な問題なのだ。
だからこそ、訊かなくてはならない。
原作とは違い、“同士”なのか。原作と同じ“敵”なのか。
「……攻めは?」
わたしは酷く小さく、問いかけた。それはマリアにしか伝わらないような、犬も猫も聞き取れぬようなそんな小さな声で。
長い、時間が長く感じる。相手の口から紡がれる名前が、私の生死を分ける。だからなのか、わたしは今この時自然の全てを捨て去った。相手の、言葉、一つ一つに全集中をかけっ
「ルナ」
「おわった」
あぁ、こんなにもあっさり人は死ぬんだ。同じ作品が好き、同じキャラが好き。でも、左右が違うだけでこんなにも簡単に人は死ぬんだ。いいか、この世のCP文化がそこまで分からない人物達よ。いいや、オタク文化がいまいちよくわからんって人よ。同じキャラが好きっていっても、解釈が違えばこうして絶望を味わうんだ。
元の作品が乙女要素強いから、なんなら乙女ゲーとしても売ってるから、あんまりみないマイナーCPの仲間だとおもったら、このありさまになるんだ。
マリアも、わたしの「おわった」という一言で全てを察したみたいだった。
そしてマリアも、相手左右固定CP厨なんだというのが、その深い悲しみの顔から感じ取れた。
我々の友情は無かったのだ。悪役令嬢と主人公が仲良くするなんて、やっぱりネット小説だけなんだ。
それ以上は、わたしもマリアも何も言わなかった。わたしたちのこの場での出会いは無かった。言葉を交わさずとも、そう決めようとお互いの目で語り合ったのだ。
しかし、そんな思いを破ってきたのは、マリアだった。
「ちょっと待ってくれ。名もしらぬ戦士よ」
正直なんだそのノリ。とはおもったが、ここはノらねば不作法というもの。わたしは足を止め、マリアに向き直った。
「なんだね。われらはすでに袂を別れた身。これ以上なにを語ろうというのだね」
「我々は、逆とは言え付き合わせたい二名は同じ。攻めるも受けるも、本人たちに任せ、二人を付き合わせるまで行く為、協力するというのは」
その言葉に、わたしはハッとした。
確かにそれであれば我々は手を組むことが出来る。そしてなにより、あの二人をくっつけるのに協力者はいたほうがいいに決まっていた。王子のアルフレッドは理解者であるが決して協力者にはならんので除外。
わたしは少し、複雑な思いを抱えたが。一番幸せは、推しの幸せ。
自分の解釈を押し付けて喜ぶのは、人として、そしてオタクとして。褒められた行動ではないだろう。
今、推しは生きている。
なら、わたしは。
「あいわかった。では、我々は一時的同士、ということだ」
「そんな一時的狂気みたいないい方しなくても……」
マリアは言い方に少し引っかかるみたいだが、そんなこと割とどうでもいいだろう。
え?くっつけようとしている時点で、自分の解釈押し付けて楽しもうとしているだけだって???
勘のいいガキは嫌いだよ
第三章 いけぇ!そこだ!いけぇ!!
「なぁ、ルナ」
「なんでしょう。隊長」
「なんで四人で出かけようと言って、あの二人はどこかへ行ってしまうんだと思う」
「僕に聞かれても。」
青い空の下。晴れ晴れとした太陽が、気分の沈んだ人さえ笑顔にしてしまうかのような輝きで街を照らしていた。人々は活気に賑わい、黒龍の恐れに負けないように、皆笑顔を浮かべて暮らしている。
そんな中、心底不思議そうな顔を浮かべた男性二人は、お互いの顔を見合った後、消えたお嬢様二人を探すため、足を動かし始めた。
輝く金髪を持ち、無表情ながらもどこかやわらかい雰囲気を纏っている男性と、銀髪で赤いメッシュの入ったクールさを感じさせる男性。二人とも整った顔をしているためか、先程から道行くお嬢さんたちの目を奪い、惚けさせていた。
ルナと呼ばれた銀髪の男性は、身長を生かし辺りを見渡してみるも、一緒に来ていた、アレクシアとマリアの姿はなく。とくにアレクシアなんて、レーンにも負けない程美しい、金糸のような長い金髪を持っているというのにびっくりするぐらい見当たらない。
何処にどう行ったらそこまで器用に隠れられるのか知りたいくらいだ。
「はぁ、今日はマリアもいてアレクシア様もおとなしくなさるかと思ったんですが」
「あの方の奔放さは今に始まったことではないだろう」
「そうですけど、最近ではその奔放も方向性が変わってきている気がしますが」
「……そうかもな。不器用な方なのだろう」
「あなたのそういう。なんでもよく捉えようとするの、僕好きじゃありません」
「はは、そうか。最近は本音を言ってくれるようになったな」
「……もう」
ルナは少しむすっとした表情を浮かべながらも、不快感は感じていないのか、黙っていても穏やかで、優しい空気が二人を包んでいた。
「さて、最高かな?」
「無論。」
「なぜ増えたんだ……?」
レンルナの様子を遠くから見ていたわたしたちは、二人の様子を想像しながら、にやにやとしな…にこにこと微笑ましく見守っていた。
あぁ、推しCPはなんて、心を癒してくれるのだろう。そう感じながら、何故かいるアルフレッドの方に顔を向け、心底不思議です。という感情や表情を一切隠さず、のんきに茶をすすっているこの国の王太子に向かって質問をしてみた。
「ところであなた様はどうしてこちらに~?????」
「俺が休憩していては駄目なのか?息抜きもするなと?なんてひどい婚約者なんだ」
「休憩も息抜きもなさって下さって結構ですが、なんで、いま、ここに。いるんです?」
「此処にいた方が愉快なものが見れるからだが」
「この王子さらっと人をエンタメ扱いしてきたぞ」
さすがのマリアも引いた様子でアルフレッドを見つめた。余所行きの時は完璧な王太子を演じているが、演じなくて良し、と判断した相手にはこうしてしっかり腹黒さを見せていくスタイルだ。
まぁ変に笑顔を向けられても、鳥肌通り越して鳥になってしまうからありがたいんだが。
「凄いな、お前は鳥になれるのか」
「人の独白に突っ込まないでください」
と、こんな王子に構っている暇はないのだ。レンルナが今どうしているのかが重要だ。
二人の様子を改めて、喫茶店のテラス席から見ている我々は、二人共いつもは見せない穏やかな微笑みを2人きりの時に浮かべていたという事実を真正面から受け止めきれないでいた。
「二次創作が目の前で起こってる」
「夢……いや、これは神様からのご褒美なんだ」
「愉快だ」
我々の言葉に茶が美味い王子のことなんでもうどうでもいい。気にしていられる余裕がない。無理、死んじゃう。
ところでなんで我々がバレてないのか不思議に思う人もいるだろう。忘れているかもしれないが。この世界は剣と魔法の世界。ファンタジーだ。そしてわたしは公爵令嬢だ。高度な変装魔術くらいできるものなのだよ。
魔法というものに最初は戸惑っていたけれど、推し(自分の欲)の為なら、と頑張って必死こいて頑張ったのだ。すごいだろう。
いいか、こうして悪あがきしていないとオタクは正しく目の前のことを認識してしまって爆発四散するんだ。儚い小さきいのちなんだ。優しくしろ。
マリアもわたしもぶるぶると震えながら、二人の様子をまるで仏に拝んでいるようにして感謝していると、純粋な疑問がアルフレッドからぶつけられた。
「なんでお前たちはそうして狂ったんだ?」
「……あの二人の事を眺めながらでいいなら、お答えしましょう」
「俺に対しての非礼などとっくに気にしていない。面白いからな」
アルフレッドのその言葉に文句を言いたい気持ちもあったが、わたしはゆっくりと二人にどうして狂ったのかをゆっくり話し始めた。
「ルナは黒龍を信仰する大臣の秘密裏の部下でした。そして一番優秀である第一部隊を壊滅させるために、スパイとして送り込んだ。ここまではご存知ですね?」
「あぁ、俺の耳にも入ってきた」
「そして大臣の策をルナは実行犯として行いました。しかし、それがレーンとマリアの手によって暴かれることになります。ルナと大臣は当然、処刑になります。国家転覆を狙ったと同義ですからね。
ルナもその運命を受け入れていました。しかし、それを覆したのがレーンだったのです。」
「確かに、レーンからルナの処刑はやめてくれと、直々に頭を下げたな。あんな姿は初めてだった。」
「レーンは、裏切られる前、ルナの事を本気で信じていたんです。表面ではなく、その心を。本当は優しい人物だと。だから、大臣に本気で加担しているとは思っていなかった。そして徹底的に調べ上げ、ルナは大臣に家族の命を握られていることを知ったんです。大事な家族を守るために、大臣に協力していたと。」
そうして語っていると、マリアもそっと話し始めた。
「わざわざ大臣が原因だって突き止めるほど、ルナにかける想いは強いわけなんですよ。花に優しく微笑みかけるところも、子供達に囲まれて少し困ったように、でも嬉しそうに笑っているところも、それは嘘ではない、と感じていたんです。」
その言葉にわたしも自然に続いた
「裏切る前の幸せで充実した日々が、レーンにとってもルナにとっても、何よりも代え難い日々になっていた。ルナが今もなお、第一部隊にいるのはこの理由もあるんです」
そして私はレンルナに転がり落ちるきっかけになった一番大切な瞬間を語りだす。
ここは私のような第三者の語りではなく、ぜひにその場面をみなさんにも見てもらいたい。
◆
暗く、固く、狭く、寒い。そんな独房の中、自分の命が尽きるのを、終わる瞬間をただ待っていた。次、日が昇れは、この鼓動はその動きを止めることだろう。
もう、十分頑張った。
もう、いいんだ。守れたんだ。
大事な家族を…。それだけで、十分なんだ。
1人の罪人は心の大きな後悔と、悲しみを見て見ぬふりをしながら、笑った。
「……随分と笑うのが下手くそになったな」
「!」
予想外の声に驚いて、顔を上げる。
そこには相変わらず無表情のまま、静かに罪人を見つめている1人の騎士がいた。
しかし、その表情はなんだかひどく傷ついているようにも見える。
「……笑いにこられたのですか?それとも恨み言でも?」
「そのどちらも違う。」
「でしょうね。あなたですもの」
「…あぁ、俺のことをよくわかっている」
「残念ですけれど、そんな僕でも今なぜここにあなたがいるのかは、理解できてませんよ」
そう言って憎まれるように罪人は笑う。
騎士は、ただ黙って罪人を見つめた。美しかった彼の髪はボサボサで、全身のそこら中に傷ができている。綺麗だった彼の指も、見る影も無いほど荒れている。
「……ルナ」
「はい、隊長」
「もう一度、俺の部隊の副隊長として、俺の隣に来る気はないか」
「……………は?」
その言葉は罪人にとって予想もしていなかった言葉だった。
人に対して甘いところがあることは重々知っていたが、こんなに甘いだなんて思わなかった。呆気に取られすぎて、久々に脳が仕事を辞めた。
「此度のことは全て大臣が計画を立て、実行したこと。お前にその意思はないと判断した。」
「っなにバカなことを言っているんですか!?僕はあなたたちを裏切ったんですよ!?そんな相手をっ…また、副隊長だなんて、正気じゃない!」
「家族を人質に取られていたんだろう?」
「!」
「お前に全く罪がない、ということにはできん。しかし、情状酌量の余地はある。そこで、俺の監視の元、もう一度この国に忠誠を誓うのであれば、そこから出してやれる。」
「っでも!それじゃあっ…」
「俺の立場が悪くなる、か?」
騎士の言葉に罪人は言葉を詰まらせた。まさに心配していたのはそこだったからだ。
若くして大きな功績を上げ続け、その忠誠は国王や騎士団長からも信頼されるほどの人。そんな人が裏切った罪人を赦すだなんて。
非難を浴びるのは想像に難くない。
「本当に、優しいな。お前は……」
騎士は、そう言って優しく微笑んだ。
「お前が本当に悪人であれば、この好条件を逃すはずがない。俺を利用して、外に出て、また悪事を働くだろう。でも、どうだ。
お前は俺の心配をしている。」
「っ作戦のうちかもしれないじゃないですか…」
「はは、お前が本当にまた悪事を働くなら、一緒に罪を背負うさ」
カシャンと、騎士は牢の鍵を開け、そっと扉を開ける。
そして彼に近づくと、そっと引き寄せて抱きしめた。
「こい、ルナ。お前のいるべき場所は、ここじゃない」
「っ罪人、相手に…なに、ばかな…ことを…」
ボロボロと涙を流して、嗚咽まじりにまだ強情な言葉をいう騎士に、迎えにきた騎士はまた優しく微笑んだ。
もう、大丈夫だ。
そう伝わるように温かく、力強く、抱きしめたのだ。
◆
急にこの場面だけ出されても、知らないアニメの感動シーンで背景を知らないが故に感動できないみたいな感じになってると思うが、この場面が最後のきっかけになって沼に落ちたことだけわかってほしい。最高なんだ。
「いや、公式抱きしめてないんだよなこれが。手を差し伸べただけだ。それ二次創作だぞ」
「いっけね」
マリアにそう突っ込まれてつい自分のいい解釈で話してしまった。
「まぁ、でも。気持ちはわかる。抱きしめてても違和感ない」
「あ、やっぱり?」
そこまで語って、マリアと私はお互いに目を合わせ、にっこりと笑った。
「「解釈は合うのかよ……」」
わたしたちの絶望は見事に被った。なぜここまで解釈一致しているのに、大事な部分が逆なのか、オタクって本当に不思議。
そうしてわたしたちがうなだれていると、全部は納得がいってないものの、何となく理解ができたのか、アルフレッドはゆっくり話し始めた。
「つまりは、裏切られた仲であるというのに、相手の善性を信じ、また、温かい日々を忘れることができず、傍にいるのがいい、と」
「そうなんですよ!相手にくそでか感情持ってなければ、特別な思いがなければ!そんな行動はしないわけなんですよ!!」
興奮がマックスになり、相手を壁に追い詰めるようにして、体をアルフレッドに寄せるとそっと肩を掴まれ、席に座らされた。
「落ち着け、珍獣」
「珍獣!?」
そしてその日は、新たなあだ名をつけられたことに異議申し立てをしていると、ルナにしっかりと見つかり、ルナに小言を言われながらその日は解散になった。
第四章 諸行無常
また数週間時が経った。
あれからレンルナは距離がわたしたちの努力もあってか、距離が縮まり、たまに騎士団の施設にある中庭のベンチで一緒に寝ているところも目撃した。
その時の歓喜たるや、またアルフレッドにあだ名をつけられそうになったほどであったが、わたしは今日もニッコリ笑顔で過ごしている。
書いていたレンルナ小説もいつの間にか二桁を突破しており、自分の才能が恐ろしい。
やはりインプットがあればアウトプットもできるのだ。素晴らしい世界!
と、ここまでレンルナのお昼寝タイムをマリアと一緒にニコニコと見守っているのだが、わたしはふと気になった疑問をぶつけてみた。
「そういえば今ゲームの本編ってどうなってるん?」
「あぁ。やり込み要素ができるように、虚無期間を過ごす事あったでしょ。特定の場所に行けばイベントが起きるやつ。まぁ、時間経過で強制イベントになるんだけど」
「あぁ。あったわ。あの中盤くらいにあったやつ。」
確か、黒龍が突然に表れて、王国をめちゃくちゃにしていくやつ。たしかそこで、一定以上の好感度があったら、アレクシアに攫われるやつ。そんなものもあったなぁ、なんて思っていると、突然空からとんでもない音の暴力が襲って来た。
それは化け物の咆哮のようで、例えるならモン〇ンの大型モンスターに見つかったかのようなあの感じ。
ぞわり、と背筋が凍った。
ふざけている場合ではないかもしれない。これは、ほんとうに、死ぬやつだ。
一度死んだから、わかるんだ。
恐る恐る、空を見上げた。
そこには、見るだけで鳥肌が立ち、頭の危険信号が全力で警告を鳴らす。真っ黒なドラゴンがいた。
あれが、黒龍なのだと、すぐに分かった。
逃げなくちゃ。
そう思う前に、マリアは何かに操られたように、その場から駆け出し、悲鳴が上がる街の方へ走っていった。
その姿を見て、自分もみんなを守らなければと心が叫ぶ。
本来ならアレクシアはここで、マリアの邪魔をする。でも、いまのアレクシアは、わたしだ。
そう思い、地面を抉る勢いで足に力を込めて、走りだそうとする。
それと同時に、城の一部が、黒龍のしっぽに破壊され、そのがれきが容赦なく地面へと落ちてくる。
わたしはアレクシアの得意な氷魔法で咄嗟に防いだ。私の手からでている氷は、その大きさを増やし、空を覆いつくそうとするように、盾のように広がる。
しかし、幾度も降ってくるがれきに、氷は砕かれ、地面へと降り注ぐ。
絶対に、許さん。
わたしの心は怒りに燃えていた。
推しCPのお昼寝を邪魔する奴は、絶対に許さん!!
わたしにかっこいいのは務まらない!!いいんだこれで!!なんかさっきかっこつけた気がするけど!!
わたしは、負けられない!!推しCPのためにすべてを使うんだ!!
全身の血管という血管が沸騰している。魔力を全身に回し、いまここで、終わってもいい覚悟で!!
「ぅぅううううああああ!!!!!」
喉が切れてしまうんじゃないか、そう思う程の声が自分から出ている。
どこか冷静な自分は、そんな声が自分から出ていることに驚いていた。
ブツン
何かが切れた。
きっと意識だろう。確か無茶して魔力を使うと気絶するとか、そんな設定、あったきがする。
・
・
・
ピッピッピッピ
と規則正しい機械音に目が覚める。
目を開けてみれば、そこには真っ白な天井が視界に入り、目だけを横に動かすと、心電計が見える。
あ~ドラマとかでよく見るなぁ。なんてのんびりした頭は、考えていた。
しかしそんなどこか夢気分も、隣のガタン!という大きな音で意識がはっきりする。
「嘘!帰ってくることなんてある!?」
そしてその言葉でさらに覚醒する。そういえばわたし。
アレクシアになってたよな。
そう思って自分を確認しようと、辺りを見渡すと、そこはどう見ても現代日本の病院だった。
「え」
知らぬうちに出ていた声に隣の人が反応したのか、シャッと少し荒々しく、仕切りのカーテンを開けてきた。そこには黒髪ショートの、おそらく二十代だろうか。心底慌てた様な、また信じられない、と言いたげな顔を浮かべていた。
「い、一時的同士……」
なぜ彼女がその言葉を知っているのか、と聞く気にはなれなかった。なぜなら、なんとなく、私もそんな気がしたのだ。
わたしたちは現実の世界に帰ってきている。
おそらく、向こうで気を失ったから。
いや、確証は何もないんだけど。まぁでも、現実に戻ってこれたことに、安堵している自分もいる。
でも、でも一言だけ言わせてほしい。
「あんな、いいところで……最後まで見せろよ……」
その気持ちは彼女もそうだったようで。
ナースコールを押すのも忘れて、我々はふて寝したのであった。
数日後。
お互いの家族に泣かれながら、怒られながら、それでも生きてて良かったと、笑い合う日々がすぎて、わたしは一時的同士の正体を知ることになった。
SNSで絵や小説を投稿していて、まさかの絵柄や解釈が同じなのに逆CPで泣く泣くミュートにしてた神絵師だったことがわかった。
それは向こうも同じだったらしく、神絵師と言われなんとも恥ずかしいような気分になったりもしたが、改めてなんとも奇妙な縁だったな、と実感する。
「まさか、あなたがあのもっさんさんだなんて……」
「わたしもネルさんだなんて思わなかったよ……なんでルナレンなのよ…」
「それは言わないお約束ぞ。誰かの萌えは誰かの萎え。誰かの萎えは誰かの萌え。地雷も好きも、人それぞれだ」
「わかってるさ。……でもやっぱり嘆きはするよ…理解はできても心が追いつかない」
「それな〜」
わたし達がそうして雑談していると、看護師さんが部屋の中に入ってくる。
「鈴野さんと竹内さん本当に仲良しなんですねぇ。」
そうニコニコして話す看護師さんにわたし達は苦笑いで返すしかない。
ちなみにまだどっちがどっちかわかってない人のために説明すると、アレクシアが鈴野でもっさんだ。マリアが竹内でネルだ。同じ人物なのに名前が三つもあると混乱するわな。
「本当に、お二人ともお元気で何よりです。私は完璧にNL厨なので、B Lの良さはあまりよくわかりませんが、やっぱり熱中できるものはいいですねぇ」
「あはは、そうですn…看護師さん????」
「では、またお昼ご飯の時にきますねぇ」
「えちょ、ま、看護師サァン!?」
天使のような笑顔でとんでもない発言しながら消えていく看護師さんにわたし達はもう完璧に困惑することしかできなかった。
そのうち脳は考えることをやめ、深呼吸おいて窓の外を見た。
なんて清々しまでの晴天。小鳥も楽しそうに飛んでるぜ。
「今日も平和だ。」
エピローグ 彼女達にピンクのガーベラの花束を。
その後彼女達は無事に退院。後遺症もなく、どんどんといつもの日常へと戻っていった。
そんな彼女達は時折、あの世界のことを思い出す。
今あの世界はどうなっているだろうか。
たった数ヶ月でも生きたあの世界。気にならないと言ったらだいぶ嘘になる。
だってほぼ付き合った状態で、その先も見て見たかったのに見ることが叶わなかったもだから。
まぁ、でも今現実で生きているのだから、また妄想を絵や文章にぶつけ続けるのだ。
そんなある日。
夢を見た。
「今回、突如として黒龍が現れ、皆恐ろしい思いをしただろう。傷ついてしまったものも多くいる。しかし、幸運なことにも我々には勇敢な戦士、そして勇者がいる。率先し民を助け、黒龍を追い払ったマリア・トーマス!城を守り、瓦礫を城下町へ落とさなないようにした、アレクシア・ハーヴァー!」
「今ここに、アレクシア・ハーヴァーとマリア・トーマスへ、国を守った栄誉として、ガーベラの勲章を授ける!」
国王のその言葉に国民達は大きな歓声をあげる。その顔には皆喜びが溢れんばかりであり、2人の少女、英雄に次々に感謝の言葉を叫んだ。
しかし当の2人の少女は、なぜ自分が勲章を受けているのか全く理解できていないのか、2人ともぎこちない笑顔を浮かべていた。
数日騎士団は黒龍の到来で忙しくしていたが、ようやく一息つける暇ができた。
レーンとルナはその少ない休憩時間を共に過ごしながら、今後の対応について相談していると、風に靡かれている美しい金髪が視界の隅に入る。
その金髪を目で追ってみると、一声かけたかったアレクシアの姿だった。
「アレクシア様」
「…なに」
レーンが声をかけると、彼女は顔を歪め、理解できない、と言った表情を見せながら振り返った。
最近であれば、驚いたような顔をして笑顔で接してくれるものだから、呆気に取られていると、どんどんと不機嫌になっていったのか、刺々しく言い放つ。
「用もないのに、今の騎士は令嬢を呼び止めるの?」
「い、いえ、失礼いたしました。今回の件で是非ともお礼を言いたくて…」
レーンが少し困惑しながらそういうと、アレクシアの顔はどんどんと、なんとも言い難い、微妙な表情を見せた。
「あなたに礼を言われるようなことではないわ。……もう、用がないならこれで失礼するわ。」
アレクシアはそう言い残して、逃げるようにそそくさとその場を立ち去った。
最近の様子とは全く違う、しかし、以前のアレクシアとも違うその様子に、レーンとルナはお互いに顔を見合わせていると、後ろから不意に声をかけられる。
「元に戻ったのだ。アレクシアは」
「アルフレッド殿下」
2人が瞬時に姿勢を正すと、アルフレッドはすぐに手を軽く上げ「楽にしていい」と告げる。
その顔はなんだか面白いものがなくなってしまって、心底残念だ、と思っているような顔で、続きを話した。
「今のあれが混乱しているのは、自分が国を救った英雄として持て囃されているからだ。騎士団長からもえらく褒められたようでな。疎遠だった父親から常日頃感謝を言われて戸惑っているんだ。」
「騎士団長と疎遠だったのですか?そうには見えませんでしたが。」
「あの時は中身が違ったからな。騎士団長に会いにいくという名目でお前達を覗きに……いや、今のは忘れろ。」
「…………わかりました」
「ま、元に戻ったと言っても、今のこの状況に置かれて、あのアレクシアも何か変わるかもしれないな。」
さらっと告げられた衝撃的な事実に驚きが隠せないが、ともあれ、自分たちをくっつけようとしていた人物はもうこの世界にはいないらしい。
アレクシアに会う前にマリアとも会っていたが、彼女もあの時とは雰囲気も大きく違っていて、あの時のマリアではないことはなんとなくわかった。
あの2人はもういないのだろう。
たった数ヶ月しかいなかった不思議な少女2人。
彼女らは恋のキューピットだったのか、はたまた全然違うのか。
正直どちらでもいい。愛しいと感じる人と思いが通じ合い、愛し合えているのは間違いなく、彼女達のおかげなのだから。
「なんだか、不思議な体験をしたような気がします……。」
「いいじゃないか、俺は、お前と愛し合えるのが嬉しくてたまらない。感謝しても仕切れないくらいだ。」
「…あなた、王太子殿下がいらっしゃるんですよ…っていない!?」
「ははっ。さ、そろそろ戻るぞ。ルナ」
どうか、我々の思いが、願いが叶うのなら。
彼女達にもピンクのガーベラの花束を。