三者会議
暑い...そのうち、本当に夏の生活は昼夜逆転するのでは?
本日は俺とベルと富田会長の3人で話し合い。
町との交渉の絡みがあるので、協力者の中でも富田会長はフル稼働だ。
でも、俺は表には出たくないし、諸々支障も出そうなので赦してほしい。
「各々のプロジェクトが動き始めているけど、肝心な除染と水質の件についてはどうだい?」
本日のメインは正にこれ。
この問題が解決しないと全ておじゃんになりかねないからね。
「私もこの件については、報告を受けていないのですが、どうなんですか?」
あんまり詰めてこないでよ。
今から説明するからさ。
「とりあえず順調かな。試作品も完成したし」
この件に関しては、ゼルの功績が大きい。
殆ど彼女に任せっきりになっていたしね。
例の塵事件から彼女は更に奮起し、ここまで辿り着く事に成功した。
そして、2人の前に手掴みサイズの筒を差し出す。
「どちらも同じ物に見えるのだが...」
まぁね。どちらも筒の上部は蓋がついており、中は空洞だ。そして底は表面から見ると内側が凹んでおりそこに小さなボタンがある仕様になっている。
「あくまで試作品だからご容赦を。今後もこういう機会があると思って、サンプルは敢えてこの形状とサイズにしたのよ」
丸投げしたくせに、この件に関してはゼルに指示を出した。
現時点でこれを表に出すつもりはないのだが、協力者や一部の者たちにはお披露目するつもりだ。
「本番は形状も多少変化するかもしれないけど、まずはこれで性能を証明しようかなと」
「でしたら、まずは実証してもらいましょうか」
ベルさんはガッツリ仕事モードだな...
「じゃあ、これから俺が避難区域と町の沖に1人で行って数値を測ってくるからその様子を映像で見てほしい」
流石にそんな場所にベルはともかく、富田社長は連れていけないからね。
幸い、俺はその類の耐性がカンストしてるし。
そして、早速、測定器と試作品を持って転移。
まずは避難区域に到着し、すぐにスマホでビデオ通話。
「しっかり見えてる?」
「問題ないよ。映像も音声もバッチリだ」
「OK。じゃあ、早速測定を始めるね」
まずはこの場で放射線量を測定。
やはり、他の区域というか地域よりちょっと高いね。
それをしっかり会議室にいる2人に見せる。
更にそこから400m程歩き、その先で再び測定をするが数値に殆ど変化はない。
そして、試作品を取り出しポチッとな。
ちなみにボタンを押したところで、パッと見何も変化はないし、音も発生しない。
で、15秒程経過してから再びボタンを押してストップ。
「よーく見ててくれよ」
再び測定器を起動。
そして画面に表示された数値は先程の1/3程度。
「あ、あまりに変化しすぎて実感が湧かないね...」
わからなくはない。
最初に測定してから再測定まで5分程度しか経過してないからね。
一方でベルは無表情だ。
多分、なんだかんだでこの結果を確信していたかと思われる。
そして、俺は再び歩き始め元の位置に戻ってから再測定するが、ここでも数値は1/3。
そう、この小型サイズでも半径400m程度なら効果範囲内なのだ。
「開いた口が塞がらないよ」
いや、口を手で覆っているから開いているかわからんのだが。
「とりあえず、この区域での実験は以上。次は沖に移動するよ」
すぐに転移し早速、海水を測定。
海水に関しては他の地域の数値と大して差はない。
こちらに関しては特に風評が酷いからね。
で、例の筒の蓋を外しそこに海水を注ぎ込んでから再測定。
ちなみに、こちらの試作品に関しては俺がゼルに渡した物とほぼ同一の物だ。
そしてボタンを押して15秒経過すると、あら不思議。
再び数値が1/3程度に変化しているじゃありませんか。
「この試作品の詳細はわからないが、本当にこんな事が可能なのかい?」
「見た通りだよ。てか、自分だって今そういう類のパーツを趣味で弄ってるじゃない」
そう、この試作品はある意味、富田会長に提供したパーツと同類なのだ。
使用目的や性能はまるで異なるが、現代科学では実現不可能なパーツである事には変わりない。
「とりあえず、そっちに戻るね」
そして、会議室に帰還。
「あらためて、実験結果を見た感想を聞かせてもらおうか」
「私は特にないですね。まずは第1段階をクリアで、後は段階を踏むだけだと思っているので」
その感想はどうかと思うが、とりあえず納得してもらえてこちらも一安心だ。
「強いて言うなら、やはりこの試作品が大型化した時にどうなるかという点だね。ただ、その様子からしてある程度見通しが立っているんだろう?」
「勿論。製作者曰く、サイズと性能に関しては微調整の範囲内だそうだ。強いて言うなら、あとは材料費かな」
「何か特殊な素材とか必要なのかい?」
「いや、材料は一般的に流通しているものなんだ」
「それを私が仕入れればいいわけだね?」
「話が早くて助かるよ。流石に今の手持ちのじゃ厳しそうだし」
「で、何が必要なんだい?」
「ズバリ、ステンレスだね。この試作品はボタン以外はオールステンレスで製作されているんだよ」
「見た目からして、もしやとは思っていたが本当にそれだけでいいのかい?」
「それだけでOK。但し、大型化するにしても大量生産するにしても、まだ明確にサイズや数は決まっていないんだ」
「なので、必要量が確定したらすぐに連絡するよ」
「了解した。まさかステンレスだけでこれ程の製品が完成してしまうとはね...やはりそういった類の力が加わっているのかい?」
「まぁね。詳細は話せないがその程度の解釈に留めてもらえると助かる。勿論、リスクはないし安心してほしい。強いてあるとすれば、これを公表できない事かな」
「そこはネックになるかもしれないね。詳細を知ろうと首を突っ込んでくる者も現れるだろう」
「そこは私が担当するわけですね?」
流石ベルさん。
「申し訳ないがそういう事になる。勿論、穏便に頼むよ」
「わかっていますよ。当然、報酬は別途請求しますが」
「可能な範囲でお手柔らかに頼むよ」
ちなみに、この件に関しては大々的に発表する予定はない。
勿論、現存の発電所や水道局と無関係というわけにはいかないが、あくまでシラを切るつもりだ。
ある日突然、数値が下がる。
ただ、それだけ。
それに既にいくつか対策案は用意してある。
それよりも、まずはこの試作品を完成させたゼルを労わないとね。




