いちいち、トラブルの規模がデカい!!
そのうち相手との距離感を数値化するアプリが出てきそう
こんな上司ムーブをしなくてはならないとは...
アラスリュケの仕事も終わり、洞窟の会議所に2人で転移。
リュケは憤っているのか、面倒くさがっているのか何とも言えない表情だ。
状況からして、この青髪美女にお説教する流れではあるが、そうではない。
「なぜ個別面談をする事になったかわかる?」
するとあっけらかんとした表情で...
「私が使用した魔法について何か聞きたい事があるのでは?」
その通り。
聞いた限り、俺でも使用できない魔法だ。
極力、現代では最低限の魔法しか使用しないように心がけてはいるが、単純に自分が会得していない魔法や知らない魔法には興味がある。
勿論、会得したところで使用するつもりはないんだけど...
でも、世の中何があるかわからないからね。
備えあれば憂いなし。
「それはそうなんだけど、他にも人前で魔法を使用してない?」
「ご存知の通り転移魔法や連絡手段で最低限の魔法はしていますが、それ以外は別に...」
なんだその間は...
絶対、使ってるだろ...
「怒らないから、素直に言いなさい」
これ、大概怒ってる奴の台詞だけど、本当に怒っていない事を敢えて強調させてもらおう。
「探知魔法を少々...何やら不穏な輩がうろついておりましたので」
ん...?
これは意外な回答だ。
もっと斜め上の行動をとっているかと思ったが、これなら十分警護の範囲内での行動だし。
ただ、気になるのは不穏な輩の正体とその後の処遇だ。
「そいつらの正体は掴めたの?」
「えぇ、まぁ。正体は○○の某企業に雇われた、諜報機関に所属する者たちでした」
またとんでもない情報が飛び出してきたよ...
もろにヤバめな国の大手企業で、スターネット社の競合社じゃん...
「なぜ、報告しなかったの?」
「ベルに報告しましたよ」
あれ?
これまた意外な事実が発覚。
ベルが俺に報告しないという事は、何かワケがあるのは間違いない...
そして、リュケはしっかりと報連相を実践していた。
ちなみに手術の件も、銃乱射の件もベルには報告していたらしい。
密かに疑ってしまった俺を許してほしい。
「ちなみに、そいつらは捕縛して正体を掴んだ後、どうしたの?」
「記憶を消去しました」
う〜ん...サラッと答えてくれたがなかなか危うい魔法を使用してるじゃないか。
ただ、状況を鑑みれば仕方ないんだよなぁ...
下手をすると大国同士の争いになるし。
「けど、ただ記憶を消去しただけじゃないでしょ?」
「えぇ。消去した上で、少々記憶を改竄しております。と言いましても、依頼元に虚偽の報告をするようにイジっただけですが」
何とも言えない状況だしな...
「まぁ、現状はそれがベストかもな...そいつらを消して新たな監視者が来る度に対応するのも厄介だし」
「それに、監視に気づいていないフリをした方が都合が良さそうだ。それもベルの指示?」
「えぇ。引き続き警戒しつつ現状を維持との結論に至りました」
その言い振りからして、2人で相談して決定したという事かな?
何にせよ俺に報告がないのは寂しい限りだが...
「まさかそんな事になっているとはな...ちなみにジョンソン会長は気づいてるの?」
「口には出していませんが、おそらく気づいているかと」
「私以外にも常に見覚えのある者が陰から彼を警護しておりますし」
なるほどね。
おそらく、自身に降りかかる火の粉は自力で回避しようとしているわけだ。
リュケを派遣しているが、極力負担をかけまいと考えているのだろう。
結果的には、こちらが勝手に動いてしまったが。
強力なバックがあるにも関わらず、その力に溺れない事は良いことだ。
流石に世界で5本の指に入る大企業の会長というだけである。
個人的にはもっと頼ってもらっても構わないのだが...
それに、いかにも気難しそうなリュケと良好な関係を築けているのも納得だ。
「事情は何となくわかった。ところで、リュケから見て会長の評価はどんな感じ?」
「随分とアバウトな質問ですね」
確かに我ながら実にバカっぽい質問だと思う。
「ですが、質問の意図は良くわかりましてよ?彼は人間の割には実に良くできた人物です」
「あれ程の財と権力を一代で築いておきながら、それに溺れる様子がまるでない。あちらの世界の王族共に見せてやりたいくらいですわ」
わかるわかる。
現代より死に近い世界だから、プレッシャーも責任も膨大なのはわかるんだけど、そのせいか遊びというか反動も大きいんだよね。
それに娯楽が少ない分、一つの事に派手に金を注ぎがちだし。
要するにハメを外し過ぎ。
「まぁあの世界と違い、人口も競合相手もわんさか溢れているからね。その中から抜け出すとなると自然と洗練されていくのかもしれないな。それでも未だに金と権力に溺れる輩は少なくはないが...」
「確かに。まだこの世界に来て日は浅いですが、そういった輩も何人も見てきましたわ。それだけにあのエイブラハム・ジョンソンという人物は際立っている。あれだけ自分の身と立場を弁えている人間も珍しい。これでも感心しておりますのよ」
この悪魔にそこまで言わせるとは、やはり彼もある意味異常者ではある。
「とはいえ、流石にもう少し頼ってくれてもいいとは思うけどね」
「そこが彼の魅力でしょうに。決して図に乗る事はなく無駄に力を振るわない」
「それに主殿を信頼してるからこそ、必要以上に頼らないのでは?」
「と言いますと?」
「おそらくあの人間は、全力を尽くしてそれでも対応できない事態が発生したら、その時は主殿が助けてくれると信じているのでは?」
あぁ、なるほどね。
だとしたら少々打算もあるが、非常に好ましい考えだ。
俺も浅瀬のトラブルや事柄でアテにされるのは困るし、その全てに救いの手を差し伸べる人格者でもない。
それくらい割り切ってもらえたほうが助かる。
とはいえ、今回のような事態は報告してもらったほうが後々楽になるような気がするが...
いずれにせよ、彼の身辺については今後要注意だな。
状況によっては、町に火の粉がかかりかねないし。
ベルが報告しなかった件も気になるところだが、この場で悩んでも仕方ないし後で問いただすとしよう。
となると、ここでやるべき事は...
「ところでさ、探知と予見の能力についてだけど...」
「そういえば、これからベルと約束がありますの」
露骨に話を遮られた...
「話はまたの機会に」
すると瞬く間に青髪の美女が姿を消した。
どうやらリュケとの距離感はまだ縮まりそうにない...




