現代科学に魅了された悪魔
結局、どんな仕事でも自分が遂行できる範囲内であればそこそこ満足感を得られる
由々しき事態だ。
アシュロスの活躍もあり、予定通り悪魔たちに秘書の任務を与えようとしたのだが、問題が発生した。
ベルの指導の下、全員、現代知識と常識を学んでいたのだが、その過程で1人だけ逸脱した方向に走り出す者が現れた。
その人物は美しい銀髪のミディアムヘアーを靡かせ、悪魔の中でも合理的な思考が強い美女。
そう、ベルゼルである。
彼女はベルの講義を受けているうちに、現代科学やそれによってもたらされた、数々の発明品の虜になってしまったのだ。
初めの頃はボールペンの利便性とコスパの良さに感動していたが、今ではスマホやPCに夢中で更にはリニアモーターカーにまで興味を示している。
別にそれ自体は問題ではないしむしろ喜ばしい事なのだが、問題は秘書業務を放棄した事だ。
正確にはまだ秘書に就任させる前だから放棄とは言い難いのだが、要は秘書業務を拒否されたという事。
ベルも珍しく怒り心頭であったが、仕方ないと言えば仕方ない。
確かに俺に敗北はしたものの、本来の彼女らの姿は悪魔たちの頂点に立つ伝説級の存在だ。
しかも、その位置に気が遠くなるような年月、君臨し続けている。
むしろ他の4人がすんなり従ってくれて驚いているくらいだ。
だが、ベルゼルの処遇については厳格に対応しなれければならない。
場合によっては、他の4人にまで悪影響を及びかねないし。
そんなわけで、ベルゼルことゼルさんを会議室に呼び出した。
「まわりくどいのは苦手だから、率直な意見を聞かせて欲しいのだけれど、秘書の業務は不服かい?」
ちなみに部屋には俺とゼルの2人きりだ。
ベルがいると、素直に話してくれない可能性もあったし。
「不服という程ではないけど、私には合わないかな」
何か煮え切らない回答だけど、多分これが素直な意見なのだろう。
「ベルから報告は聞いているけど、現代知識については問題ないレベルで習得してるらしいね。具体的には何が合わなさそうなの?」
「お館様に仕えるのは問題ないけど、それ以外の人物に仕えるのは嫌」
そういう事か...
悪魔は契約に煩い種族だけど、解釈はそれぞれ違うんだろうなぁ。
俺に敗北した以上、俺に仕える事が悪魔たちの一般的な解釈なのだが、ゼルに関しては違う。
あくまで仕えるのは敗北した相手にだけという解釈なのだ。
普通は仕える=従うという解釈なのだが、彼女からするとそれは違うらしい。
意外と義理堅いというか、一本気な性格なのかもしれないな...
そう考えるとアシュ同様、なかなか可愛らしく見えてくる。
だからといって、我儘を許すわけにはいかないが、そういう事なら考えようはある。
「なら、秘書はとりあえず置いておいて、ゼルはこの世界で何がしたい?」
「もっと、科学とか他の知らない事を研究していたい」
非常にわかりやすい回答だ。
やはり職人気質な性格なのだろう。
だったら、話は早い。
「研究したいなら、ついでに何か発明したいとは思わない?」
「思う。だから、そういう仕事を用意してほしい」
その言い振りからして、予めこの展開を予想というか、こちらを誘導したな。
まぁ、こちらとしても何かしら別の役割を与えようと考えていたからいいけど、そういった俺の心情も予め推測していたのかもしれないね。
だが、俺としては非常にありがたい展開だ。
学園都市や空中都市、協力者の件を考慮しても、こちら側に優秀な研究者というか科学者が必要だったし。
それに最重要課題の1つである、環境改善問題の点でも担当者が俺1人だったので正直しんどかった。
ゼルがこちらの業務に集中してくれるのなら、想定よりもプロジェクトの進行が早まり、今後の発展度合いもより大規模になるかもしれない。
「わかった。ゼルは秘書業務を免除する代わりに、研究者として働いてもらう」
すると銀髪美女は隠す様子もなくニヤリと微笑む。
「お館様がブラック企業の社長じゃなくて助かったよ」
そんな事まで知っているのか...
俺が忌み嫌うブラック企業のレッテルを回避できて何気にホッとする。
ただ、ベルには申し訳ないがその分、引き続き俺と富田会長の秘書を兼任してもらう事になる。
てか、ブラック企業という概念をベルがゼルに教えた可能性が高いから、しっかりと待遇面でカバーしないと
俺に不名誉なレッテルが貼られかねない。
親しき者にも礼儀ありというが、この言葉をあらためて肝に銘じておくとしよう。
それにしても、今回のゼルの提案には助けられた。
まだ実践してみないとわからないが、教え方次第ではそれなりの成果が期待できそうだ。
それにあらためて管理する立場の在り方も考えさせられた。
半年に1度ほど各々にヒアリングをするつもりでいたが、もっと短いスパンで行うべきなのかもしれない。
何せ、彼女たちの成長速度は人間の比ではないのだ。
他にやりたい事が見つかれば、できる限り配慮するようにしたい。
彼女らは何とも思っていないのかもしれないが、俺が召喚したのは事実だし。
まぁ、これ以上秘書の人数は割けないので、その業務は全うしてもらう事にはなるのだが、他にやりたい事が見つかれば、仕事のペース配分を再考したいとは考えている。
それに、まだ彼女らには伝えていないが、有給も組み込む予定。
しかも入社1年目なら有給が10日というのが一般的だが、我が社では1年目から20日を予定している。
せっかく、現代に来てもらったのだから存分にこの世界を堪能してほしい。
あとは各々の要望に俺がどこまで応えられるか...




