突撃ラブハート
引きこもりを堂々と他人に話せる奴は、もはや引きこもりではない
こんな所に引きこもり同志がいたとは...
町長の秘書の過去を数日に渡りベルに調査してもらったが、想像以上に共感できる点が多かった。
彼は大学卒業後に新卒で就職するも、その勤務先で長時間労働に加え理不尽なパワハラ、同僚の裏切り等により半年で退職をしてしまったようだ。
で、そこから人間不信と会社での勤務に対する恐怖で引きこもりになってしまったと。
うん、わかるわかる。
労働は義務だけど、そんな事が起こった直後にすぐに再就職する気にはならないし、自分は仕事ができない人間だと悩んでいるうちに、気づいたら引きこもりになっちゃうんだよね。
しかも、その間に父親が事故で亡くなってしまうとは、あまりに悲惨過ぎる。
町長も気にかけていたようだが、心の整理をする時間が必要だと判断して、暫く様子を見るに留まっていたらしい。
だが、彼は部屋からも殆ど出てくる事もなく、本気で心配した母親が父親の親友であった町長に相談して現在に至ったわけだ。
こうして振り返ると運がいいんだか、悪いんだか。
結果的に役場の事務員として勤務をし始めると、そこからは彼の風向きが大きく変わっていく。
基本的な事務作業は勿論、役所のHPやSNSの刷新、町紹介の動画の編集等で彼の実力は如何なく発揮された。
そして、根本的に仕事が丁寧で周囲からの信頼も厚いと。
その様子と実績を見て町長が早々に秘書に抜擢した。
異例の出世速度ではあるが、周囲からは特に不満は出なかったそうだ。
だったら尚更、最初に就職した会社はなんだったのだろうか。
出る杭は打たれる的な感じだったのかな?
いずれにしても、その点は彼にとってただただ不幸であった。
だが、今は能力も十分に発揮できて信頼できる同僚が多数いる環境で活躍している。
実に羨ましい話だ。
その点に関しては、俺はあまり共感ができない。
現代で勤務していた時は、一時期を除いて大半が奴隷のような生活を送っていたしね。
とはいえ、共感できる点事体は多い。
そして問題は、彼がなぜ相続した土地を手放さないかだ。
その点はベルですらも真相に辿り着けなかった。
つまり、彼はその理由を誰にも話していない可能性が高い。
家族や町長も深くは追及しなかったようだし。
というわけで、彼の自宅に突撃お宅訪問をする事になった。
流石に役場に押しかけては目立つし、色々と周囲に勘繰られるからね。
再び富田会長とベルを招集し、2人に動いてもらっている。
というか、既に彼の自宅に抜き打ちで突撃し、雑談を繰り広げている。
俺は何をしてるかって?
俺も自宅にいる。
自宅といっても、実家のほうね。
そして、ベルから連絡が入りアプリを起動。
暫くして、画面越しで噂の秘書とご対面。
ちなみに、俺は素顔を晒すつもりはない。
なので、ベタに紙袋を被り、目と口の部分にあたる所だけ紙を破り公開している状態。
「初めまして。私は富田会長の事業パートナー、というか先日の会談で話に出たプロジェクトの発案者です」
「とりあえず、今は本名を明かせせないので、Xとでも呼んでください」
正直、彼にガチガチの敬語で接するのは悪手だと判断した。
それにしたってフランク過ぎるというか、失礼過ぎるとは思うがなんとなく直感でそう感じた。
ベルと富田会長の姿は画面に映っていないが、映っていなくて正解だったと思う。
町長の秘書こと、熊田大樹くんは呆気に取られている様子だし。
そりゃあ、横にあの富田自動車の会長がいて、その人物にこんな人物を紹介されたのだから戸惑うのも無理はない。
だが、俺の直感が正しければこの登場方法は割と間違っていないはずだ。
だって、こういう展開が好きでしょ?
ベルの入念な調査により、既に彼の部屋やPC、スマホでの閲覧履歴や購入履歴は確認済み。
引きこもり気味だったと聞いた時点で薄々、そうじゃないかと思っていたのだが、彼は重度のオタクだ。
何のオタクかと言うと、漫画、アニメといった二次元の創作物や声優に対するものだ。
現実で相当痛い目にあった以上、二次元に救いを求める流れは自然の摂理!
しかも視聴しているアニメや愛読している漫画も異世界モノが多い。
ならば、突然の非日常的な突発イベントに憧れを持っていてもおかしくはない。
呆気に取られてはいるが、特に焦りや動揺するような様子は見られないしね。
きっと、彼の頭の中ではこの出来事がどの作品のイベントに該当するか、必死でリサーチしているに違いない。
まぁ、おそらくこんな展開の作品は見当たらないだろうけど。
そんなわけで、元クソニートによる元引きこもりの説得が幕を開けた。




