秘書が秘書の調査
あまりの暑さに、今年初めてクーラーを起動してしまいました
困ったらベルさんにお任せ♪
あの会談後、俺と富田会長、ベルの3人で話し合いが行われ、結果的に会談の運びと相手の反応はまずまずという結論に落ち着いた。
だが1つ懸念事項はある。
それは会談前から予想していた事だが、町長や役場関係者以外の有力者たちについてだ。
「利権が絡んできますからね...」
まだ現代に召喚されて数ヶ月のベルさんが、当たり前のように問題を提起している。
まぁ、土地の権利とかその他諸々の利権については、どの世界でも共通だしね。
「やはり町側の内部調査が必要かと」
富田会長もそこは懸念していたようだ。
「その点については1つ提案がある」
「もしかして町長の秘書ですか?」
早々に思考を有能秘書に見透かされ、少々複雑だ。
「そう、あの秘書が何か引っ掛かるんだよね」
「私もそれは気になっていた」
「妙に肝が据わっていたというか、他の参加者と明らかに様子が違ったと思う」
「確かに年齢の割には妙に落ち着き払っていましたね。少々、面白い人材なのかもしれません」
富田会長が言うなら、やはり何かありそうだ。
「抽象的になってしまうけど、落ち着いているだけじゃない気がするんだよ」
考えすぎかもしれないが、他の思惑があるのではと勘ぐりたくなってしまう。
「ベルさん、イケる?」
「命令とあらば、すぐにでも」
するとベルが一瞬で姿を消す。
「既に何度かこの光景を見てるが、未だに目を疑いたくなるね」
「明らかに現代科学では説明がつかない事象だからね(笑)」
「それにしても見事な阿吽の呼吸だね。イケる?というのは町長の秘書の調査という事かな?」
「イエス。懸念事項は早々に解決したし、もしかすると突破口になるかもしれないからね」
「話の流れである程度は理解できるが、返事一つで即行動に移すあたり優秀というか、私たちの常識からは少々逸脱していると驚かされるよ。あんなやりとりは映画やドラマの世界だけだと思っていた」
何気ないやり取りではあったけど、言われてみれば少し変ではある。
友人同士とかの何気ないやり取りならば理解できるが、巨大プロジェクトに関連するというか、仕事の場だからね。
本来ならば明確に言葉で発した上で、確認をしてから行動を取るというのは俺でもわかる。
てか、俺がベルの立場なら確認をする。
だって、そこまで自分の考えに自信があるわけではないし。
逆に言えばそれだけベルは自分の思考に自信があるのだろう。
もしくは、異世界で命の危機が迫るような場面を共に何度か経験した事も大きいのかもしれない。
振り返ると、俺とベルだけが理解できるような言葉のやり取りがあるようなないような...
その辺が曖昧になるくらい、濃密な時間を過ごしてきたという事だろう。
とは言え、ここは現代だしもう少し普段のやり取りに意識を持たなくては。
今が部下もいる事だし。
「ベルが優秀だという点は今に始まった事じゃないからね。で、そちらでの仕事ぶりはどう?」
「優秀なんてものじゃないよ」
「もしかすると、1人で車を製造できる程の知識を持っているかもしれない...」
想像していた回答とだいぶ乖離があるな。
もっと、秘書としての立ち回りについて話してくれるのかと思いきや、まさかの製造...
「私もそれなりに知識はあると自負しているが、1人で正確に車を製造する事は不可能だ」
「だが、彼女なら知識だけでなく、恐らく機械で行う作業もできてしまうのだろう?」
あぁ、確かにね。
「細かい事は俺も知らないが、多分できるだろうね。彼女はザ・理不尽な存在だから」
会長も思わずため息を吐いている。
「内心では会社を乗っ取られるんでないかとヒヤヒヤしているよ。それ程までに彼女は当社を理解、把握をしているし、おそらく実行力もある」
冗談とも本気とも言えないトーンだな。
多分その半々の意見が素直な気持ちなんだろう。
そして実行力とは、現代社会では説明がつかない理不尽な力という意味かな?
「それは心配しなくていいよ。俺たちは金が目的ではないし、富田自動車の仕事まで抱え込む程、野心家でもないからね」
「やりたい事をやって、後は早々に隠居生活を送りたいだけなんだよ」
これは嘘偽りのない俺の正直な気持ちだ。
だが、ベルや他の悪魔たちについては正直わからない。
おそらく、今はとりあえず俺に従うという気持ちが強いのだろうが、これだけ娯楽に溢れた現代に染まれば思考に変化が訪れるのかもしれない。
あまり想像はできないが、自分だけで起業するとか、国を立ち上げるといった考えに至る可能性もある。
個人的には娯楽にハマって遊んでもらえると嬉しいのだが、元々は国を滅ぼしていたような連中だ。
今は俺の部下とはいえ、その辺の警戒は必要なのかもしれない。
「それを聞いて安心したよ。私はリアルに隠居をしてもおかしくない年齢だからね。まぁ、私の引退後は好きにしてもらっても構わないが(笑)」
「そしたら引退させないよ(笑)」
こんな感じで小一時間程、雑談をしていたらベルさんがいつの間にか帰還していた。
「随分帰りが早かったけど、もしかしてあちらさんは早々に解散してた?」
「いえ、あちらも会議をしていましたよ。ただ、その内容を聞くだけでは不十分でしたので、同時に秘書の身元についても調査していました」
マルチタスクがガチ過ぎる...
空いてる時間に別の事をするじゃなくて、マジで同時刻に複数の仕事を進行してるんだよな...
これまで散々ダラダラと過ごしてきた種族なのに、いざ仕事となると切り替えがエグい。
一体、どういう時間の感覚を持っているのやら...
そして、そんな有能悪魔から意外な報告を聞かされる事になる...




