経済界の重鎮から町民への問い
ハイリスクハイリターンでない事に気づけるか
「私は復興にむけて街をつくりたいと考えています」
遂に富田会長から本件について切り出された。
うん、町の有力者たちはポカーンとしてるね。
果たしてどうこの言葉を捉えだのだろうか?
多分、本当に新しい街をつくるとは思っていない。
俺もそうは思っていないし。
おそらく、現存の町をある程度発展させるという考えだと思う。
その考えは間違いではないが、何せ規模が違う。
価値観というか認識の違いが確実に生じていると思われる。
「突然の事で考えが追いついていないのですが、この場所に別の町をつくるという事でしょうか?」
まさかの町長はそっちの考えだったか。
だがその考えは悪くはない。
「いえ、あくまで現存の町がベースです。但し、従来の町ではなく街の規模での話になります」
「更にわかりやすく話しますと、前代未聞の規模の町おこしという事です」
ベルさんがサラリと補足してくれた。
そう、あくまで町おこしである事を理解してほしい。
但し、その規模があまりに大きすぎるので、客観的に見れば街をつくるに等しいのだ。
こちらが想定では将来的にはインフラも人口も街の規模になる。
だが、現存の町の名前はそのままだし、公式にはあくまで町として押し通すつもりだ。
そして富田会長のちょっとした演説が開始される。
勿論、今回は詳細までは話さない。
あくまで挨拶がメインだからね。
だが挨拶だけでは町側からすれば色々と勘繰りたくもなるし、不安もあるだろう。
だから、今回は挨拶とプロジェクトの触り程度のお知らせと決めている。
それにしたって、「街をつくりたい」は中々のパワーワードだ。
勿論、富田会長も本件はあくまで町おこしという事を理解している。
だが、敢えて街というチョイスをした。
そのほうが後々、期待感が出るからかな?
たぶん、俺だったらもっと無難で伝わりやすい表現をしただろうし。
この人は堅実なようで、意外と勝負師なのだ。
もしかすると、有力者たちの反応で思惑とか度量を探っていたのかもしれないね。
「勿論、この話はあくまで計画段階です」
「ですが、既にいくつかの有力な企業の協力は約束できております」
そこで他の協力者たちの企業名を述べていく。
皆さん、にわかには信じられないといった表情だ。
だが、あの富田自動車の会長がここで嘘をつくはずもないし、その意味もない。
困惑しないほうがおかしい。
だが、1人だけ冷静な男がそこにはいた。
それは町長の側近と思われる人物だ。
こんな突拍子もない話を何食わぬ顔で受け止めている。
もしかして混乱し過ぎて、逆に無の境地を開いてしまったのか?
こちらとしてもちょっと気になる。
「繰り返しにはなりますが、あくまで計画段階です」
「勿論、強制はしませんしそういった圧力もかけません」
町の有力者からすれば、富田会長がこの発言をしただけで十分圧力と感じるだろう。
だが、それは俺が望むところではない。
あくまで自主性を尊重したいのだ。
そしてベルが再び補足する
「断って頂いても本当に構いません。断ったとしてもこれまで通り、国からの支援は変わりませんし、むしろ私たちも微力ではありますが、支援金の寄付や人材の派遣などで協力をしたいと考えております」
「それに他の候補地もございますので」
フォローしたのかと思ったら、最後にしれっと爆弾を投下したな。
まぁ、無駄に考える時間を引き延ばしたくもないし、この程度の駆け引きはご愛嬌。
こちらというか、俺からすればかなりリスキーな発言ではあるが。
その後はいくつか質問が飛び交ったが、差し障りない程度の返答に留めた。
「今回は挨拶が主目的でしたし、今日はここまでという事で」
「次回はしっかりとしたプレゼン資料も持参しますので、ぜひお楽しみに」
もったいぶる形で会長がお開き宣言。
そしてベルが次回の日時を有力者たちと調整している。
とりあえず、今回は及第点だろう。
いくつか気になる点もあるが、これが町へのファーストアタックだったわけだし。
少々、圧力を感じさせるような場面もあったが、それは仕方ない。
富田会長が提案する時点で、中身が何であってもそういうふうに捉えられるだろうし。
今回、伝えたい事は伝えたし、ベルもいい意味で汚れ役を演じてくれた。
彼女はあくまでも効率的な手段を考え、実行してくれるので本当に助かる。
自分が何と思われるかなんて気にしてないからね。
勿論、後々の事も考慮した上で演じ分けているし、俺や富田会長の事も配慮した上での発言や行動なのでこちらとしては大助かりだ。
で、この後は3人でちょっと打ち合わせ。
そしてこれからは本格的に町側も調査していかないとね。




