第一回会議(4)
国境なき経営者
全くたぬきジジイめ...
あの後、飲料水の件は少しだけ話が延長し、販売の主流はヴォルテクス社でフランス国及び全世界での販売を許可する形となった。
但し、日本だけは例外。同社から独立予定の日本支部で、国内限定で販売する事が決定。
ぶっちゃけ、どんな水だろうが濾過装置が完成すれば、全て同じ質の水になるからね。
テュラム会長もそれは承知の上で承諾したはず。
なんせ、初回の交渉時に自ら検査を行い、用意した各地の水が濾過後には全て同じ数値になったのだから。
勿論、味も同じ。
一応、俺が濾過装置の開発責任者だからね。
これくらいの権利は許してもらわなくては。
当然、今回参加したサウジアラビアとアメリカ出身のお三方の国にもお安く提供する予定だ。
特にサウジアラビは格安でね。
その代わり追々、飲料水以外も輸出量はある程度調整する手筈となった。
王子も無制限で輸入し、バランスが崩壊する事態は避けたいらしい。
この辺の切り替えは本当にお見事。
王子でありながら、しっかりと経営者としての一面も覗かせてくれた。
さて、水の話はここまでで、最後はここまで一切触れてこなかったスターネット社のジョンソン会長の番だ。
本当はベルが直接交渉した人物なので、彼女に任せたいところだが、その交渉時に俺は殆ど何もしていないので初回の会議である今回は俺が出張る事になった。
一人だけ部下のみとの交渉というのも、形式上よろしくないしね。
「次はジョンソン会長のスターネット社だけど、これも概ね題目通り」
「けど、よくよく考えれば飛行場を建設するなら船場も建設してもいいと思うんだよね」
目を丸くするジョンソン会長。
たぶん、会長も飛行場が出た時点で船場もアイデアとして思い浮かんだと思うんだけど、何せ規模が規模だからね。
飛行場だけでもとんでもない、手間と費用が発生するだけに口にはできなかったんだと思う。
だが、そんな事は遅かれ早かれの問題だ。
だったら今から構想に組み込んでおくべきだろう。
「飛行機じゃ車は運べないしね」
2人の会長の視線が突き刺さる。
「せっかくの専用船場なのだから、このメンバー内で運用するのも面白いと思うんだよ」
「当然、便の本数も増えるし、そうなればスターネット社の商品だけでも車だけでもコスパが悪い」
「なら飛行機同様、他社の運搬も最低限受け入れるべきかと。勿論、あくまでメインはスターネット社、富田自動車、Z社もといコイル社だけどね」
ちょっとソワソワした感じが周囲に漂う。
まぁ言うは易く行うは難しともいうからね。
「輸入輸出を行う以上、運搬費は絶対に避けられない問題だ。ならばその費用はとことん抑えたい」
「状況次第ではフランスとサウジアラビアでもこの手法を運用しても面白いと思う」
「勿論、国が絡む問題だからお互いの同意があればだけど、少なくともフランスからサウジアラビアへ大量の水を提供する事は確定事項だ。ならば、船での運送は必須。状況次第では、他の3社もそれに便乗する形でビジネスを拡大するのもありだと思う」
とはいえ、流石に話が大きくなりすぎて皆、困惑した表情を隠せないね。
最早、企業間の規模を超えているからね。
だが、ここにいる経営者たちとベルならば可能だと俺は思っている。
え?そこに俺が含まれていないって?
自ら提案しておいてどうかと思うが、俺は表立って行動するつもりはない。
あくまで俺は隠居しながら余生を楽しみたいのだ。
そういう意味でもベルの存在は必要不可欠なのだ。
そして有能な秘書に問う。
「従来なら絵空事のような話だが、可能だよな?」
「はい、ここにいる7人であれば可能です」
7人って、がっつり俺も含まれてるじゃん...
どうやら俺の意図を汲んでくれなかったらしい。いや、あの邪悪な笑みとオーラを見る限り意図した上で俺もカウントしたな...。だが、あくまで表に出ないだけで、協力はしろという解釈だと思いたい。
発起人である以上、協力するのは当然だからね。ただ、表に立ちたくないだけで。
ベルの笑みとオーラを察したのか、他の5人から戸惑いの表情は消えている。
抵抗しても無駄と悟ったのかな?
恐怖による支配なんてご免なのだが...
「最初から君と交渉した時点で、覚悟はしていたさ」
第一声を切り出してきたのは王子。
本当に肝が据わっているね。
「私もですよ。今更、後に退く気なんてさらさらありませんよ」
そしてレイナ会長もそれに続く。
この2人は特に、従来の経営者とは考え方が違うし、破天荒な一面が強いからね。
だが、他の3人も即座に話に乗ってきた。
どうやら、ビビってはいないようだね。
いや、本当はビビっているのかもしれないが、少なくとも即座に割り切って前進しようという意思が窺える。
「自分で言っておきながら、こんな途方もない話に乗ってくれて感謝する」
思わず深々とその場で頭を下げる。
「だが、やると言った以上、確実に実現させよう。」
「あくまで町おこしがメインだが、その為には君たちが経営する組織の発展や各々の関係性の向上が必須だ」
「そして、町に関係ないところでビジネスが発展するのも構わない」
「せっかくの機会だ。協力者同士で更なる高みへ昇るのも面白い」
5人の表情に高揚感が漂っているのがわかる。
この5人が経営する組織が発展すれば、結果的にこちらが得られるメリットも大きい。
勿論、造反するような動きがあれば見逃せないが、ベルがいる限りそのような動きは自殺に等しい。
まぁ、そんな事になる前にベルが火消しを行うだろうけど。
このプロジェクトにつまらぬ自尊心や偏見は必要ない。
それがプロジェクトの裏テーマでもあるからだ。
「国境など関係ない。新たな概念をこの7人で築いていこう」
こうして第一回会議は終了した。
そしてこの会議は後に「ボーダーレス会議」と名付けられ、この7人は「オリジナル7」と呼ばれる事になる。




