第一回会議(3)
墓穴は自分で掘っている穴なんだなぁ
思ったより2人の会話が盛り上がってしまった。
どうやら、レイナ会長は富田自動車のハイブリット車に興味があるらしく、そちらの技術提供や共同開発にも興味があるらしい。
電気自動車のブームは世間的な風潮によるところが大きいらしく、ハイブリット車やガソリン車を好むユーザーは意外と多いのだとか。
正直、俺が出した案だと富田自動車のほうが、受ける恩恵が大きくなりそうだったので、その意見が出て丁度良かった。
そんな事もあり、尚も話が白熱しそうだったので一旦、話を止めて会議後という事に落ち着いた。
「さて、次はテュラム会長のヴォルテクス社だけど、事前に話していたように近々、日本の水道局の買収から手を引いてもらう。同時に同社の日本支部は今後、独立する事になるが業務提携という形で同社にサポートもしてもらう」
これはテュラム会長との初回の交渉時に決めていた案件だ。
他の面々は呆気に取られた表情をしているね。
だが、交換条件として破格の好条件を約束しているのだ。
「まず、大型濾過装置が完成すれば今後、水不足に関して大幅に改善が見込める。上手くいけば自国だけで賄えるかもしれないが、そこは国同士の付き合いもあるだろうから、そこは追々相談ということで」
大型濾過装置の発明は業界内にとどまらず、革命を起こしかねない。
ある意味夢物語の話だったが、この面子の前で堂々と発表した事で現実味が増したといえる。
まぁ、当の本人はちょっと複雑そうな表情ではあるが。
本来なら国家機密級の案件だしね。
だが、俺としてはこの情報公開は必須だ。
なぜなら、それだけ互いを信用し、共に秘密とリスクを共有するという意思表示に他ならない。
先程の2人の話に関しても、十分トップシークレット案件だが、あくまで企業間での話がメインで、そのおまけで国同士が巻き込まれる様な内容だからね。
しかし、今案件に関しては国が関わる部分が多くを占めている。
勿論、利益はしっかりヴォルテクス社に帰属させるつもりだけど、政府が介入せざるを得ない事情もある。
他の面々も事の重大さに気づいている様子。
で、ここからが本番。
「装置の開発だけでも十分な利益を得られると思うけど、それだけじゃ勿体無いと思うんだよ」
「ちなみに、この濾過装置は日本とフランスの2ヵ国で導入される。当然、自国でフル活用するんだけど、他国にその装置で濾過した水を生活用水として販売するつもりでもいるんだよ」
すると、ある人物からの視線が突き刺さる
「そこでその販売先なんだけど、王子の国というか、会社で購入しない?」
やはり...といった表情でこちらを軽く睨む王子。
「事は私の一存で決められる事ではないが、興味はある。特にその濾過装置とやらが」
やっぱり、そこ気になりますよね...
「まだ開発自体にも取り組めてないんだけど、装置の設置場所とか環境にいくつか条件があって、日本とフランスのとある地域だと条件が合いそうなんだよね。水質の問題とか色々」
かなりアバウトな回答だが、つまりはそういう事。察してくれ。
「開発段階という事だが、実際にはどの程度の確率で開発は成功するのだ?」
流石に食い下がるね...
「確率でいうと8割以上かな。確実ではないけど、後は時間の問題というレベルで話自体は進めている」
まぁ、話なんて殆ど進めてないけど...
だが、小型だけど既にテュラム会長にも披露したプロトタイプがある。
だからこそ、大型になろうが自信はあるが、確かに第三者がこの状況を知れば不安になるだろうなぁ。
てか、本当は水なんて喉から手が出る程欲しいだろうに、その弱みを一切見せずにズケズケくるあたり、流石にこの手の駆け引きはやり慣れてるね。
明らかにもっと掘り下げようという雰囲気が出てるもの。
だがこちらも引くわけにはいかない。
「開発の進捗次第では、将来的にこの2ヵ国以外でも設置できるかもしれないけど、その時になってみないと正直、わからない。だから、とりあえずそれまでは契約年数を決めて購入してもらうというのはどう?」
なんか乗せられてる感じがするけど、できるだけ対等に近づけたいからね...こちらとしても。
「勿論、価格は優遇してくれるのだろう?」
ほら、来た。
まぁ、お互いにこの辺はお決まりの流れと承知の上だけどさ。
「当然ですとも。そのかわり、水は日本とフランスというか、ヴォルテクス社と独立予定の現日本支部から購入してもらう。どちらかが装置の不具合や、輸送船、災害等の影響で水を提供できなくなっても困るしね」
「後は国交やプロジェクト予定地の町の絡みもあるから」
呆気に取られているテュラム会長。
ここまで完全に蚊帳の外だもんね。
でも、新たな販売先も超大口だし許して欲しい。
「その条件でも構わないが、尚更価格は優遇してもらうとしよう。それに、契約年数についてはこちらの裁量を優先してもらう。それで構わないか?」
「ウチは構いませんよ」
そして、半ばヤケクソな様子でテュラム会長も同意する。
損な役割で申し訳ない。
だが、結果的には利益はしっかりと確保しその割にリスクも低めに抑えるからご勘弁を。
と、思ってたらテュラム会長がおもむろに話し出す。
「その濾過装置で抽出した水だが、飲料水としての販売を許可してほしい」
おっと、その話は初耳だぞ...
すると、悪い表情を浮かべる老紳士がそこにいた..
流石はフランス国内屈指の経営者。
濾過した水を飲料水として販売するなんて、他の面々も困惑した表情を見せてるよ。
輸出予定の水は生活用水としてだからね。
それを飲料水だなんて、他の面々が困惑するのも無理はない。
だが、それも可能なのだ。
実際に会長も俺も試飲してるしね。
てか、俺もそれは考えていたのだが、完全に出し抜かれた。
タイミングって本当に大事。
一本取られたが、俺もここまで好き勝手に話を進めたから、おあいこかな。
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少々悔しさはあるが、やはり海千山千の猛者であるとあらためて痛感したのであった。




