第一回会議(2)
安直だろうが、インスピレーションは大事
さて、ここからが本題。
まずは資料に掲載した、各々と進めるプロジェクトの内容に目を通してもらった。
以下がその題目。
富田会長(富田自動車)
レース場と市街地コースの建設と整備、新型車の開発
オリヴィエ・テュラム会長(ヴォルテクス社)
新会社の設立と新たな販売経路の確保、大型濾過装置の開発
ソシル・アル・カンノ王子(国営ファンド・ベネフィット・オブ・ザ・サン・ファンド)
大型商業スタジアムの新設、スポーツアカデミー設立
クリスティアン・レイナ会長兼技術開発局長(Z社)
大型アスレチックゲームの開発とSNSの併用
エイブラハム・ジョンソン会長(スターネット社)
専用飛行場、オフィス兼倉庫の新設、大型ドローンの開発
まぁ、詳細はこれから各々と詰めていくんだけど、以上がここにいる面子と進めるプロジェクトの第一段階。
皆、質問したい事が多々あるだろうけど、切り出しづらそうなのでまずはこちらから切り出すか。
「えっと、ここからはより真面目な話になるんだけど、ざっくばらんに話したいと思う。今まで敬語だったから違和感があるだろうけど、今後の関係性や長い付き合いになる事を考慮した上で赦してほしい」
ここからはある意味、夢や理想の話なのだ。
だからこそ、従来ならより一層、互いに敬意を示さなければならないが、俺はその程度の関係で終わらせるつもりはない。
そして、このプロジェクトの中心が俺である事を示す為にもこれは必要だと思った。
これは異世界で学んだ知識と経験でもある。
なんせ、本当の意味で互いに命を預ける関係が日常だったからね。
だからこそ、上下関係というか各々の役割を明確にしなければならないし、余計な探り合いで時間や手間をロスするわけにはいかないのだ。
ベルはやれやれという表情をしているな。
もっと適切な言い方や話の運び方があるだろう、と言わんばかりのため息まで吐かれた。
他の5人も一瞬、困惑した様子を見せたが結局、どうぞお好きにといったような表情を見せている。
たぶん俺の意図を察した上で観念したという感じ。
「私は元々、そういう言葉遣いで接していたからむしろ助かるよ」
王子は最初からフレンドリーだったので了承を得られて何より。あと、レイナ会長も。
このメンバーの中で唯一、王子は立場が特殊だっただけに、実はちょっと警戒してたんだよね。
それに釣られるように他の3人からも了承を得られたので、あらためて全員に感謝。
「ありがとう。ちなみにこんな事を言っておきながらだけど、俺が皆の名前を呼ぶときは役職名をつけるね。なんとなく呼びやすいし。けど、この5人はお互いに役職名をつけて呼ぶのはなし。」
ちょっと露骨すぎるかと思ったが、全員「何を今更」といった表情なので、とりあえず良しとしよう。
「で、早速ではあるんだけど話を進めるよ」
「まずは富田自動車なんだけど、やりたい事は正に題目の通り。けど、これだけで終わらせるのは勿体ないと思うんだよね」
すると、富田会長とレイナ会長が僅かに反応を示した。
「レイナ会長は電気自動車の会社の社長も務めているよね。富田自動車とはある意味ライバル関係にあるわけだけど、この2社が共同プロジェクトを立ち上げたら面白いと思わない?」
あまりに唐突な意見になんとも言えない表情の富田会長。逆にレイナ会長はちょっとニヤついたね。
実はレイナ会長の職業は多岐に渡る。
自動車どころか宇宙開発事業にも携わっているのだ。
なので5人の中でも時代の先駆けとも呼べる存在なのだが、同時にリスクも抱えており、最も転げ落ちる可能性も高い人物である。
「正直なところ、弊社とレイナ氏が経営するコイル社は間接的にライバル関係ではあるが、住み分けがされているので、そこまでライバルという関係ではないですよ。但し、弊社が苦戦している電気自動車やその関連部品の開発と販売においては大きく水を空けられてはいますがね」
思ったより踏み込んできてくれて何より。
確かに、同じ自動車販売でもジャンルがちょっと違うんだよね。
だが、将来的により明確にバッティングするのは確実だ。
なんせご時世的には電気自動車への切り替えが推進されてるからね。
「私も富田氏と同意見ですが、ウチはウチで弱点がある。単純に車のスペックや安全性等、質という面では富田自動車には及ばない。他の日本の自動車メーカー相手にもそれは言えますが、だからこそウチは日本市場をアテにしてないんですよ」
こちらも忌憚のない意見で何より。
ホント、必要以上の気遣いは無駄だからね。
「だったら、互いの弱点を埋めるプロジェクトにしない?」
「お互いに技術の提供と共同開発のような形にしてさ」
我ながらなんて雑な意見だろう。
当の2人も困惑した様子。
「例えばさ、日本国内の通信事業の大手が米国製のスマホを代理販売してる様な形にも似てるんだけど、富田自動車がコイルの代理店ではなく、共同開発で新車を販売して、コイル監修という名目で販売するとか」
「更に言及するなら、コイルは電気自動車の最上級グレードを富田自動車と共同開発して販売するとかね。富田自動車のクオリティーは確かだし、レイナ会長の発信力をもってすれば、車に詳しい人たち以外にも富田自動車の安全性と安心性を十分知ってもらえると思うんだけど」
お互いのプライドやブランド力に大きく関わるだけに、おいそれとは決められないが、一応互いの立場を最低限尊重したつもりだ。
それに富田自動車も大なり小なり、他社と共同開発を成し遂げた実績があるしね。
そして、テスラ社の電気自動車の販売数は世界で1、2を争う程の実績を誇る。
とはいえ、安直過ぎたかな?
「面白いね。ウチとしても次の目標を達成する為に、現状の技術レベルでは完全に他社を振り切れないと危惧していてね」
流石、電気自動車販売現王者ならではの発言だね。けど、どこの自動車メーカーも電気自動車の開発が日々進化しているし、確実に差は埋まっていると思う。しかもテスラ社が危惧するライバル社同士が結託でもしたら、追い抜かれかねないだろうし。
「弊社としても、テスラ社の協力を得られる事は非常に魅力的ですね。ですが、オリジナルの電気自動車の開発と研究は今後も続けていきたい。私の一存で決定する事はできませんが、もしその点を認めてもらえるならぜひ、この件は前向きに検討させて頂きたい」
おぉ...!!
あまりにも話がスムーズで驚きというか、面白い。
勿論、お互い自社に持ち帰って社内で検討しないといけないだろうけど、初回でここまで話が進められたのならまずは御の字ではないだろうか?
仮に成立しなくても、富田自動車とテスラ社でトップ会談をした事実は消えないし、今後の共同プロジェクトのきっかけにもなるしね。
他の3人は呆気に取られているね。
ある意味、他社のトップシークレット会談に立ち会ったわけだし。
この件の詳細は会議後に詰めていくとして、他の3人にもいい刺激というか、いいモチベーションになったのではないだろうか?
そう、次は君たちの番だよ。




