後日譚
普通のサラリーマンだったら、優秀すぎる部下は怖くて手に負えない
なんとも拍子抜けだ。
いや、結果的に交渉がまとまったからいいんだけどさ、俺が登場してから正味10分程度で済んでしまった。
しかも、決して見逃せないワードも飛び交ってたし。
で、今は会談が終了して拠点に戻ってきたばかりだが、追及しなくてはなるまい。
「色々聞きたい事があるんだが、まず飛行場ってどういう事?」
まだ冷めていない、会談前に出されたコーヒーを飲みながら問いただす。
「そのまんまの意味ですよ。この地にスカイネット社専用の飛行場を建設します」
いや、その経緯とか目的を知りたいのだが...
「調査したところ、太平洋側に面するこの地とアメリカ本土の直線距離はちょっとした利点です」
「そうだけど、日本にあるスカイネット社の拠点と物流の流れからして、大したメリットはないと思うのだが...」
「ですが、他の空港では専用にはなり得ないでしょ?それでは荷物の検査や分配、そこから拠点への配送など時間がかかり過ぎます」
「そのほうが結果的にコスパがいいから仕方ないのでは?」
「それは従来の状況ならではです。ヨシはこの土地を世界一の近代都市にしたいんでしょ?」
え?この人何を言ってるの??
そんなつもりは一切ないのだが...
ベルが俺の様子を察したのか
「これまで獲得したスポンサーや、ヨシのプロジェクトの全容から察するとそういう事でしょ?」
そういう事じゃないわ!
でも、冷静に振り返ると、わからなくもないような...
世界でも五本指に入るスカイネット社や、その位置に限りなく近いZ社、国内でNo.1の自動車メーカー、アラブの王族、欧州屈指の自然資源を管理するヴォルテクス社と、誰が聞いても信じられないような企業がプロジェクトに参加する予定だ。
確かに、今プロジェクトの参加企業としては申し分ない。
てか、この規模の企業が共同で何かした事なんてあるのか?
俺が知らないだけで、似た様な事例は過去にあるかと思うのだが...
「今プロジェクトはこの世界において前代未聞ですよ」
俺の心情を察し過ぎないか!?
「表情を見れば一目瞭然です。どれだけあなたと修羅場を潜ってきたと思ってるんですか」
年数こそそこまでではないが、確かに共に過ごした時間と経験は濃密過ぎたね...
「まず日本、サウジアラビア、フランス、アメリカと各国のトップクラスの企業が同じプロジェクトに携わる事自体、異例中の異例ですからね」
「珍しいとは思うけどさ、それくらいなら事例は少ないかもだけど、前代未聞ではなくない?」
悪魔が主人を前に躊躇う事なく大きなため息を吐く。
「それらの企業が事実上、共同で街を作るんですよ。そんな事例聞いたことあります?」
むむっ...聞いた事あるようなない様な...
「私が調べた限り、近代でその様な事例はありません」
過去にはあるのかな?じゃあ前代未聞じゃないじゃん!...とは野暮なのでツッコむまい。
「ただ、街にこれらの企業が拠点を設置したり、出店する程度なら珍しくもなんともないですが、彼らがこの街の運営の中心になる以上、前代未聞ですよ。ここはあくまで日本ですからね」
俺よりよっぽど、現代の常識人みたいな言い振りだな。
多分、そうなんだろうけど...
「それはそうかも知れないが、飛行場はやり過ぎじゃない?コスパ悪そうだし、そもそも飛行場の建設許可なんて取れるの?」
「問題ありません」
言い切ったよ...
確かにこの悪魔は有言実行率が限りなく100%に近い存在だけどさ、ここは現代だぞ...
いや、そういう偏見がよくないのか?
そんな事言いながら、俺もそこそこ非常識な事をここ1ヶ月だけで相当してきたし...
ベルとやっている事は大して変わらないのかもしれん。
「専用の飛行場を建設するという事は、スカイネット社の拠点もここに設置するって事?」
「そうです。国内にいくつか拠点はありますが、ここに国内の本拠地を構える予定です」
そうなると、当然、従業員もそれなりに必要になるから、それだけでも人口がそれなりに増えそうだね。
しかも、その拠点で勤務する人間だけでなく、派生効果で更に増えそうだ。
「更に専用の便を飛ばすので、従来の空輸とは根本が異なります」
「これまでは他の便に便乗する様な形でしたが、ここでは立場が逆になります。あくまでスカイネット社の空輸がメインで他が便乗する形になるのです」
「なるほど、専用でありながらも他社の便乗をおまけという形で許可するのね」
「はい。もちろん便乗する以上はそれなりに金銭を徴収しますが。それでも他の便よりは安上がりになるよう調整しますがね」
それって、色々問題が起きそうなんだが...
「気にする事はないですよ。この街のプロジェクトが成功すれば、他社にもそれなりのメリットが発生しますから」
そうなの?
俺にはさっぱり見当がつかないんだが...
「そもそも近年、円安だし本当に大丈夫?」
「それも問題ありません。スカイネット社としても日本を拡販したい商品があるそうですし、当然その逆も然りです」
「日本にはまだまだ世界では知られていない、良質な商品がいくつも存在しますからね。それにこの街でも特産品のようなものを生み出せば、更に利益に繋がりますし」
「して、その特産品のアテはあるの?」
「それくらい自分で考えてください」
.........
まぁ、ここまでやってもらえるならそれ位、主人として何か考えなくては...
その後もベルからの説明が続いたのだが、どうやら空輸だけでなく、その便には人も乗せるらしい。
但し、エコノミーやビジネスクラスはなしで、ファーストクラスのみの僅かな枠で。
そういえば、エコノミーで何人も乗せるより、ほんの数人のファーストクラスのほうがコスパが良いと聞いたことがある様なない様な...
プラス、プロジェクトが成功し、街のブランド価値が高まれば、飛行場の利用価値や需要は高まり、更なる利益が見込めるとの事。
あと、大型ドローンに関してはやりたい事の一つでもある、「空中都市」にも関わってくる案件だ。
既に、各国の一部地域でドローンでの配達は開始されているが、現時点では荷物のサイズが著しく制限されている。
確かに現代の法律や技術では安全且つ、定期的に重量物を搬送する事は難しい。
まぁ、その件は時間の問題だとは思うけど、スカイネット社は他社よりも先行したいようだ。
当然、この件も専用飛行場とリンクする一面があるし、仮に他社より多少出遅れようが十分、巻き返せるという算段だ。
ただ、ここまでなんとなくは理解できたが、絶対に無視できない点が1つ。
「そもそも、どうやってジョンソン氏をここまで信じ込ませたの?」
「それ、重要ですか?」
「重要だよ!!」
ベルを現代に召喚して9日目だが、やはりまだ認識の調整が必要だと思い知らされた...




