夜の海岸で悪魔と密談
悪魔に情報提供しても罪にならないよね?
ベルが派手な登場をすると予想していたので、夜の海岸をチョイスして正解だった。
普段の召喚ではそりゃあ静かなものですよ。
だが、初めて召喚した時はとんでもない演出で登場したので、今回もその再来になるのではないかと危惧してた。
前回の召喚から時間がかなり空いてしまっていると想定していたし、激オコの可能性が高かったからね。
案の定、その通りだったわけで...
とりあえず立ち話もあれなので、収納袋から小洒落た丸いテーブルと椅子を取り出しセット。
同時にコンビニで購入しておいたホットコーヒーも取り出し、軽くティータイムならぬコーヒータイム。
どうやらコーヒーもこの悪魔のお口に合ったらしく、しばらくその感想と製造法など質問責めされた。
まぁ、細かい製造法や豆の原産地すら知らないから、テキトーに話を合わせていただけだけど。
だが、ようやく本題に移れそうだ。
「コーヒーの素晴らしさを再認識してもらって何よりだけど、今後ベルがしっかり仕事をこなしてくれれば、このコーヒーや更に別の種類のコーヒーも毎日飲み放題というわけだよ」
今はどこのコンビニでも手軽な価格でコーヒーが入手できるし、コーヒーチェーン店もいくつもあるからね。
「これを毎日ですか...恐ろしい世界ですね。先程のお菓子といいこの世界の文明の高さに恐怖すら感じますよ」
悪魔が恐怖するって...
文明の進化って本当に偉大だな。
基本、悪魔って人間のことを見下しているからね。
ベルは俺の影響でだいぶその辺は緩和されているが、それでも根幹にはその意識があるわけで。
そのベルに菓子とコーヒーだけでそこまで言わせるのだから、やはり現代科学と文明は人類にとって快挙と言えよう。
「確かにあちらの世界とでは文明レベルがまるで異次元だからね。だからこそ、これからベルには色々この世界について勉強してもらうよ」
この悪魔を交渉の場に向かわせる予定だが、まずは現代人との認識の齟齬を解消しなければ交渉は難しいものになるだろう。
と言っても、単純に悪魔としての力を行使すれば相手を説得するのは容易なのだがそれは禁止だ。
俺も魔法の力に思いっきり頼ってしまったが、それでも恐怖のみで従わせるような真似はしていない。
まぁ、レイナ氏はちょっいギリギリだったけど、結果的にむこうの潜在意欲と将来的なメリットに帰結させる事に成功したしね。
恐怖での支配下では行動意欲とアイデアが乏しくなるから基本的にはNG。
勿論、俺や親しい人物の身に明確な危険を及ぼす輩には容赦しないが。
「会話での交渉を重視したいという事ですね。随分、丸くなりましたね」
なんか引っかかる言い方だな。
異世界でも常に平和的に交渉をしていた筈だが...
「ヨシと出会った当初、交渉の場では常に禍々しいオーラを相手に突き刺してましたよ。気づいていなかったかもしれませんが、当時の交渉が特に話し合いもなくサクサク進行したのはそのせいです。」
ま?
そういえばベルと出会った頃あたりはまだ魔気の制御が未熟だったけ...
割と巧くやっていたつもりだったけど、そんなシンプルなオチがあったとは。
制御できてからも比較的、交渉がスムーズだったのは制御前の俺を直接、又は噂で知っているか、既に各方面での実績を知っていたからだった可能性が高いな。
調子に乗っていたつもりはないが、結構ショック...
とはいえ変にイキったムーブはかましてなかったと思うので最悪は免れたと思いたい。
「王族に裏切られて暗殺者を差し向けられた時よりショックかも...」
「そんな事言いながら、苦も無く一掃して瀕死になったそいつらを犯人の王族に突き出した時は満面の笑みで楽しそうに脅迫してたじゃないですか」
「あの時は私もスカっとしましたし、見ていて痛快でしたよ」
そんな事言われても嬉しくない...
しかも悪魔にそんな事を褒められるなんて...
「色々と自重していたつもりだったんだが、俺はなかなかイタい奴だったんだな...」
思わず項垂れてしまう。
「晩年はそうでもなかったですがね。そもそも襲われるような機会も極端に減りましたし」
フォローされたが、逆にそれが辛いよベルさん。
とはいえ落ち込んでばかりもいられない。
反省してその失敗というか失態を活かさなければ。
「ならば尚の事、ベルにはこの世界について詳しく理解してもらわないとね。でないと俺の二の舞になるぞ」
「それだけは絶対に避けたいですね。悪魔でも恥ずかしいという感情はありますから」
ぐっ...いちいち突き刺さる事を。
これ以上精神ダメージを負いたくないから、さっさと話を進めよう。精神攻撃は悪魔の専売特許だし、これ以上は致命傷になりかねない。
「まずは拠点となるこの国と他国との関係性や情勢などを学んでもらおうか」
「あちらの世界よりも遥かに国の数が多いからね。と言っても俺も大した知識はないが」
すると呆れた様子でため息をつかれた。
「そんな事だろうと思ってましたよ。とりあえず、この世界の主要となる国とこの国との関係性を教えてもらえれば十分です。あとは自分で調べますので」
どうやら、最初からあまりアテにはされてなかったらしい。
しかも初めてきたこの世界で自分で調べるって...
元々あちらの世界でも情報収集能力が異常に高かったが、こちらの世界でも問題はないのだろう。
諸々の母数が多い分、多少は苦労するだろうが。
ある意味、スマホやPC以上に高精度な情報処理能力もこの悪魔は有している。
異世界でどれだけ楽をさせてもらった事か。
そして一晩かけて国の文化や情勢、金の流れなどについて大まかにこの悪魔に伝えた。
全く事情を知らない第三者がこの事を知ったら、悪魔に情報を売った人類の裏切り者と罵られるかもしれないね。
だが、誰も悪魔の存在を明確に把握していないし、ベルは信頼がおける大事な仲間だからそんな事は気にしない。




