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異世界帰りの町おこし  作者: 残業200時間
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悪魔の所業

正解が見つからないなら、まずは行動に出るほうが建設的だよね

 「神代悪魔召喚」発動。



 ここはプロジェクト予定地の海岸だが、風が吹き荒れ周囲を赤紫のオーラが覆っていく。


 嫌な予感がしたので、夜の海岸で実行して本当に良かった。


 そして目の前の砂浜に巨大な円陣が顕れ、その中央に黒のドレスに包まれた美麗な悪魔が顕現する。



 「ようやくですか」



 不機嫌顔の悪魔が禍々しいな威圧感を放ちながら俺に話しかける。


 

 「久しぶりだね、ベルレティ」

 

 「既に察していると思うけど、ここは以前召喚した世界とは違う。万全を期して召喚する為の確信と、準備が必要だったから召喚まで時間がかかってしまったんだよ」


 「とはいえ、色々申し訳ない」


 そう、俺はこの悪魔や他の仲間にも一言も告げる事なく現代に帰還してしまった。


 不可抗力とはいえ、素直に申し訳ないと思っている。


 だが、確信や準備というのはただの方便。


 正直、その気になれば帰還したその日のうちに召喚できた。


 それをしなかったのは、一応現代の状況確認とソロ活動の満喫、あとは召喚するリスクを恐れてだ。


 

 更に言うなら、現代の倫理観との葛藤。


 帰還したその日から彼女の召喚を考慮していたのだが、ちょこちょこ魔法を行使しつつも、流石に悪魔の召喚は世界線を変えてしまうのではないか?と危惧したから。


 明確な根拠はないのだけれど、そこは現代での感覚的な問題。


 だが色々考えているうちに正直、面倒になった。


 いくら長考しても納得のいく回答を導き出せる気がしない。


 もし、俺と同じく異世界帰りの人物や異世界にまつわる重要な書物でもあれば別だが、まずそれらを探し出す為の行動自体がハイリスクだし、時間の目処も立たない。


 なのでこれ以上考えるのは不毛だと判断した。


 

 召喚が成功するかは完全に博打ではあったが、実際に現代でも魔法が行使できる点や、収納袋を異界から取り出す事にも成功していたので、もしかして...と言う目算はあった。


 ちなみに異世界でも異界と接続できる人物はごく僅かだ。


 異界に物を収納する事ができるが、もしその現場を目撃されると非常に厄介な事になる。


 それだけで国に目をつけられ、一生王族たちにコキ使われる可能性が非常に高い。


 一方で収納袋は貴重品ではあるが一般的に認知されている。


 勿論、その容量で価値が大きく変わるのだが、その持ち主の大半は行商や飛脚、冒険者チームの荷物持ちとして活躍をしている。



 で、とりあえず召喚に成功したわけだが、まだこの美しい悪魔はご立腹の様子。


 いきなり放置プレイされたわけだしね。


 赤紫の両翼からユラユラと発せられるオーラがなんとも怖い。


 

 「それにしても魔気が全く感じられませんね。本当に不思議な感覚。よくこんな状況で私を召喚できましたね」


 

 異世界では魔気という、魔法の発動に必要な空気というか元素のようなものが溢れていたのだが、この世界では今のところ確認できていない。


 異世界人は元々、身体に魔気を保有している為、休めば使い切った魔気も回復するし、空気中にもそれが存在する為、時間を置けば回復することが可能。


 勿論、大型の魔法を行使する際は空気中の魔気も利用する。


 だが身体に保有する魔気と外部に存在する魔気では扱う難易度がまるで違う。


 魔法使いと呼ばれる連中の殆どが外部の魔気を取り扱う事ができない。


 だからこそ、元々の魔気の保有量で実力や身分に大きな差が生じてしまっていた。



 ちなみに俺はそれらのコントロールは完璧とまでは言わないが、ほぼ完璧だ。


 幸運にも元々の保有量も恵まれていたが、早い段階で扱い方のコツも掴んだ。


 更には回復源は他にもある。


 これらは現代知識というか、漫画、小説、アニメの作者やクリエイターの方々のお陰でもある。


 この恩は必ずどこかで返したい。



 

 「召喚できるかは賭けだったけどね。ベルは食いしん坊だから(笑)」


 すると一瞬で彼女の羽らしきものが俺の頬を掠め、頬からたらりと血が流れる。


 デリカシーがなかったと反省。


 仮にも相手は悪魔だしね。



 「こんな状況でも私を召喚できるなんて、相変わらず馬鹿げた魔気の保有量は健在のようですね。安心しました」


 とりあえず、俺の心配をしてくれたようだ。


 確かに魔気はゴッソリ持っていかれた。


 ちなみに宮廷魔導士と呼ばれる、エリートが千人集まってもこのクラスの悪魔は召喚できない。


 できない理由はいくつかあるが、特に致命的なのが魔気量が圧倒的に足りない。


 その点俺は恵まれていた。


 召喚した今も、夜中にちょっと小腹が空いた程度の空腹感みたいな感覚がある程度だ。


 

 だが空腹になった事で重要な事を思い出した。


 収納袋からあるお菓子を取り出しベルに手渡す。



 「まぁまぁ、まずはこれでも食べて落ち着いておくれ」

 

 「再会して早々、菓子で悪魔を懐柔ですか?どこまでもふざけた人ですね。」



 すると初めての癖に器用に袋を破り、一口で菓子を頬張る。



 「な、なんですかこの不思議な食感...グニュグニュしていて、噛めば噛むほど甘味が滲み出てくる。それに中心にあるこの甘味はあんこですか?」


 正解!


 俺の地元の名産にもなっている和菓子だ。


 子供から老人にまで大人気。


 地元民だけではなく、お土産としても他県の人々から人気のある逸品だ。


 何より、異世界のお菓子しか知らないベルからすれば未知の食感と甘味。


 あちらの世界では想像もできない、技術と材料がこの一品には集約されているのだ。



 とはいえ、古の悪魔のご機嫌を菓子一つで回復させるのは流石に無理があるか... 



 「おかわり」


 おや...?


 「手持ちのそのお菓子を全て寄越しなさい」



 どうやら和菓子は悪魔の供物として十分な役割を果たしてくれたようだ。



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