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異世界帰りの町おこし  作者: 残業200時間
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自立への偉大な一歩

気遣いって最早、スキルなのでは?

 いかにもといった、重役の方が拠点とする一室。



 数週間ぶりに富田会長とのご対面。


 事前に例の通信リングで連絡をして彼のスケジュールの隙間にお邪魔した。


 ここは富田自動車の会長室のわけだが、まだ正面切って訪問するわけにもいかないので隠密スキルでここまでやってきた。


 今回は事前に連絡をしてあったとはいえ、それでも部屋に突然俺が姿を現すと僅かに身体がピクンと反応する会長の様子が窺えた。


 

 「二回目だけど、にわかに信じ難い現象だね」


 「自分で使用しといてですが、俺も誰かが同じように目の前に現れたら今でも驚きますよ」



 軽い立ちトークを済ませると、ソファーへ案内されるがその前にあるテーブルには既にコーヒーとケーキが用意されていた。


 しかも俺の好物のチーズケーキだ。


 

「本来なら紅茶を出すべきかとも悩んだんだが、私はコーヒー派でね。ケーキも苺のショートケーキが苦手だから私の好物を用意したのだが、大丈夫かい?」


 

 めっちゃ大丈夫です!!


 コーヒーも好きだし、異世界でもお世話になった貴重な嗜好品だ。


 あちらではカカオの生産が需要に追いついていなかったからね。


 ツテを使ってコーヒー豆を入手していたが、現代と比べて割高で庶民では滅多に口にできない代物だった。


 晩年は金に困る生活をしていなかったが、入手するまでの苦労を考えると、コーヒーには並々ならぬ想いがあるのだ。


 特に品種とか細かい知識があるわけではないけど。



 「むしろありがたいチョイスですよ。むしろ天下の富田自動車の会長におもてなしされているだけで、本来ならば顰蹙ものですからね」


 

一般人どころか社内の人間ですらこの光景を見たら戸惑うだろう。


 ましてや今日の服装は普段着のスウェットパーカーとジーンズ、スニーカーで会長はスーツ姿でビシッとキメているからね。


 「まぁまぁそう言わずに。案外、もてなす行為も楽しいものだよ。」


 気を遣ってくれている様だが、堅苦しさは感じられない。


 今思えば、よくたった1回の接触でここまで距離を縮められたものだと、富田会長の器の大きさに感心してしまう。



 「ところで、思ったより早い再会だが、今回はどういったご用件で?」


 

 そちらから切り出して助かります。この辺の気遣いも抜群だね。

 


 「実はそろそろ個人会社を立ち上げようかと思ってね。」


 「例の交渉が全て終わったわけではないけど、今後の為にも必要になってきてさ」



 ふむふむと頷き、何かを察する会長。



 「では、会社の立ち上げを私がサポートするという事だね」


 

 察しが良くて助かります。以前、交渉後に談笑した際、俺自身は細かい作業はしたくないって伝えていた事もありすぐに気づいてくれたようだ。


 

 「まさにその通りで、一通りお願いしてもいいですか?」


 「勿論、問題ないよ。予め約束していた様なものだからね。必要な書類はこちらで用意するし、最低限記入、捺印する箇所もわかりやすい様にサンプルを用意しておきますよ」


 

 色々とショートカットできそうで本当に助かる。



 「法人を立ち上げたら口座も開設すると思うが、報酬はどうする?うちとしても、少しでも早く対価を支払いたいからね」


 

 あぁ、前回渡した例の件ね。



 「あの日の翌日、早速うちの研究・開発チームにアレを持っていてね。彼らもすぐに食いついたよ。」

 

 「職員の何人かは隙を見計らっては、どこでアレを入手してきたか私に探りを入れてくるくらいさ。」


 やはりそういった部署にいる方々は富田会長とある種近い人種の様だね。といっても、アレの構造などに関しては俺も詳しいわけではない。あちらの凄腕の職人にオーダーメイドで依頼して、概要もなんとなく伝えただけで現代科学も驚きの代物が完成しちゃったのだから。


 科学文明は明らかに現代が上なのに、突然、超科学な代物も生まれるのだから、やはり異世界のバランスはおかしい。


 よく、魔法を題材にした作品だと科学や文明のレベルが低くなりがちだが、よく考えるとそれも不自然な気がする。


 いくら魔法で何でもできるとはいえ、あまりにバランスが悪いと思うんだよなぁ。


 本当に人間かと疑うくらい、賢い人たちも結構いたしね。


 まぁ、動物だって生き残る為に身体の一部がやたら発達しているけど、それ以外は脆弱という構造も珍しくないし、それと似た様なものなのだろうか?


 若しくは、誰かが意図的に閉鎖的な環境を作っていたとか?


 色々気になるところだが今更、考えてもしょうがないね。


 今は現代にいるわけだし。


 勿論、またあちらに飛ばされる可能性も無きにしも非ずだが。


 だが、今のメンタルならそうなったとしても割り切れる自信がある。


 いつかは転移の原因を究明すべきだろうが、今は調査する手段も全くないので保留。



 だいぶ話が逸れたが、報酬は大事だね。


 事の経緯を説明して、すぐに金額は決定した。


 

 一ヶ月あたりの報酬は20万円。


 あとは賞与の様な形で半期に一度、別支給。ベースは月の収入の2倍。


 状況によっては臨時での報酬上乗せもあり。


 この辺は都度相談だけど、少なくとも富田自動車に多大な影響を及ぼすような請求はない。


 会長もそこは信頼してくれている。というか、客観的に見れば会長には選択権は殆どないんだけどね。



 「それにしても、20万円はあまりに低いと思うけどね。うちの新卒の営業マンよりも安価だし。」


 「現段階でそこまで悪目立ちはしたくないので、それで十分ですよ。勿論、後々多少は値上げしてもらうつもりですが、少なくともそちらの役員の年収を上回る様な請求はないのでご安心を」


 

 ここは信頼してもらうしかない。


 といっても、いざプロジェクトが本格的に始動すれば割に合っているどころか俺のほうが十分メリットはある。


 勿論、金銭的な意味合いではなく。


 そちらは会長が丸儲けしてもらったほうがこちらも都合が良い。



 まだ詳細は話せないが、この数週間の出来事を一応、簡単に会長に説明するがどういった感情で聞いているのかはわからない。


 第三者が聞けば間違いなく、俺がイタイ奴と断定されかねない内容だ。


 追々、他の2人にも途中経過の説明は必要かもしれないが、正直めんどい。


 話すなら、5人全員集めてまとめて説明したい。


 だが、そうなってくると俺1人で会議資料を準備するのもこれまためんどい。


 


 今後の為にも、やはり秘書の様な役割をこなせる者が必要なのは明らか。


 とはいえ、こればかりは自分で用意しないと何かと都合が悪いので、これも要検討。


 幸いアテがない事は無い。



 そんな事を考えながら、その後会長とは「ファントム」の最新話の内容と今後の考察で盛り上がった。


 やはり、何としても現実でこの内容を実現させなくてはと互いに誓うのであった



 他の協力者ともそのうち、こういう何気ない会話をしたいものだ。


 そして、夕飯前に帰宅し両親から小言を呟かれる。


 起業と報酬の確約が済んだわけだし、こんな事を言われるのもあと少しの辛抱だ。


 やはり、ニートは辛いよ。



 そして、明日からはアメリカでhere we goだ。



 



 




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