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形見の痣(かたみのあざ)  作者: 海凪 悠晴
9/11

第九回:入院

 利用客も駅員も、誰もいなかった無人駅の構内で共倒れになっていたアヤカとナツミ。迎えに来たタクシーの運転手により発見された。


 機転を利かしたタクシーの運転手はすぐさま一一九番通報し、駆けつけた救急車に乗せられたふたりはこの町ではいちばん大きい町立総合病院に搬送され、親子二人は同室でしばらく入院することとなった。公立病院ということでお盆の期間中でも診療を実施していたのは幸いだった。

 ふたりとも熱中症ということで。とくにナツミは発見がもうしばらく遅ければ生命に関わっていたかもしれない、と。


 夕方にはすっかり意識が戻ったことを確認されたアヤカとナツミ。診察室に呼ばれて医師の話を聞いていた。

「熱中症にはほんとに気をつけていただきたいと思います。とくにお子さんはまだまだ小さいのですから……、お母さんとして自覚を持ってください。お出かけするときにはお茶、できればスポーツ飲料がおすすめですが……。とにかくとくに今のような夏場は、水分を携帯すること、そしてこまめに飲ませるのを忘れないでくださいね」

「はい、ありがとうございます……」

「……あと、岩谷アヤカさん。あなた、もしかすると妊娠しておられるかもしれませんね……」

「えっ……、妊娠、ですか?」

「どうも悪阻(つわり)に似た症状も見られるので。念のため、明日にでもこの病院の婦人科のほうにかかっていただきたいと思います」

 そういえば、五月から生理が来ていなかった。そのことにようやく気が付いたアヤカ。

 ユウキを失った五月、そして、六月、七月、八月と。ユウキを失ったショックと、突如シングルマザーになってしまった慌ただしさも手伝って。生理が止まったこと、それを気にかけさえしなかったのだ。


 翌日、八月十五日。ナツミの誕生日でお盆の中日の朝を迎えた。

 ナツミは今年、結局はあいにく入院中というかたちで誕生日を迎えてしまった。


 午前中のうちにアヤカは婦人科にかかり、エコー検査などを受けた。その結果。

「おめでとうございます。今ちょうど四ヶ月目のようですね」

 診断結果などから逆算すると「できた」のは五月のはじめだとのこと。ユウキを失ったのが五月の中旬だったから……。アヤカのお腹の子、ユウキの子だと断定できる。ユウキはほんとに最後の最後というタイミングでアヤカに「形見」を遺してくれたのだ。

 予定日は来年二月だと告げられた。今度は冬の子になるのだ。


 それから部屋に戻ったアヤカ。

「ナツミ。あなたはお姉ちゃんになることになったわ……」

 ナツミが「お姉ちゃん」になることが決まったと知らされた。それはまさにナツミの三歳の誕生日当日のことであった。

「うん、ナツミも今日から三歳だよ! もうすぐ保育園行くし!」

 ナツミは「お姉ちゃん」という言葉の解釈について誤解をしているようだ。もちろんそういう意味でもあるけれど、別の意味でも、だ。

「それもあるけど……。あなたにね、来年の二月、弟か妹ができることになった、の」

「ううん? お父さん、今いないのに?」

「……そうね。でも最後の最後にママに残してくれたの。確かにあなたのお父さんが、ね」

 当然ながらまだ妊娠とか出産の仕組みもよく分かっていない三歳児。そんな子が理解してくれているかどうかはわからないけれど。でも、来年になれば……。


 更に翌日十六日の午後、アヤカとナツミはこの町の病院を退院することになった。

 昼食が終わり、退院の手続きを終えたところで、ユウキの両親夫婦が病院に迎えに来る。


 義母がさっそく口を開く。

「アヤカさん、あなた妊娠しているんですってね」

「はい、ユウキの最後の形見なんです」

「……ほんとかしらぁ?」

「でも、授かったのは五月上旬なんです! ユウキを失ったのはその中旬だから、矛盾はしないって……」

「ううん、それだけでユウキの子だと言うには、証拠不十分ですよ?」

「どういうことですか? 五月のはじめにはまだユウキは生きていたんですよ!」

「そのときユウキは生きてはいた。けど、あなたは他のオトコと寝ていた。その可能性もありますよね?」

「ち、ちょっと……。お義母さん。今の言葉酷すぎません?」

「ふふふ。まぁ、半分冗談ですから」

「じょ、冗談でもそんなこといわないでください!」

「まぁ、後ほどDNA鑑定とか受けてもらえば、真相はわかりますから」

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