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形見の痣(かたみのあざ)  作者: 海凪 悠晴
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第七回:異国の地で

 アヤカが高校二年生の秋。オーストラリアへの修学旅行のときのこと。


 アヤカにとっては人生初めての海外旅行だ。異邦の国に来ることになったアヤカを含む五十人余りの生徒たち、そして同行した数名の教員。当然ながらも生徒たちへは、日本とは事情がいろいろと違うから、くれぐれも注意して海外旅行という「非日常」を過ごすようにと、事前より指導されてきた。


 旅行の初日。この日、豪州では最大規模の都市・シドニーを訪れていた一行。この夜は予約の都合の関係で生徒たちはふたつのホテルにわかれて宿泊することになった。アヤカたちの部屋は三人部屋。年頃の女子三人、夜遅くになっても会話が弾んで止まらない。


「でもさ、チハルたちのホテルのほうがさ。ここなんかよりずっとキレイそうだし。うらやましいなぁ」

 宿泊に際して、二手にわかれることになった生徒たち。だが、このふたつのホテル、見た目からして「格差」というものを感じてしまう。アヤカたちの泊まっているほうがどう見ても「貧相」なのだ。同じ学校の生徒が泊まっているにもかかわらず、だ。

「じゃあさ、チハルたちに会いに行かない?」

「あのさぁ、ハルカ。このホテルの外に出るのはヤバいよ。ここ日本じゃないんだよ」

「そうそう、先生に見つかったらヤバいもんねー」

「うーん、ちょっとくらいいいじゃん。アヤカ、オリエ」

「でも、外に出たことバレちゃったら大変だよ!」

「オリエ。そういう問題、だけでもないから……」

「ああ、せっかく夜景のキレイなとこなのにぃ。このオンボロホテルからは何も見えないの、ウザくね?」

 隣のビルの陰になっているので、この部屋の窓からは外の風景が何も見えないのだ。

「確かにさぁ、シドニーの夜景。この目で見てみたいよね……」

「だから、オリエ……。ヤバいんだって。海外の夜の街って……」

 同室の三人組。アヤカとオリエ、ハルカ。その中でアヤカは比較的「慎重派」だったが、ハルカは浮き立っていた。そして、オリエは周りに流されやすいタイプではあった。


 そこへドアをノックする音が聞こえる。

「ほらー、やっぱり先生見に来たじゃん」

 先生が巡回しに来たのだと信じ切って、ドアを開けるアヤカ。実はこれこそが迂闊なところだったのだ。



 なんと、ホテルマンになりすましていた現地の暴漢にこの部屋の三人は襲われてしまった。突然脅しをかけられ、声を出すこともできなかった「ジャパニーズガールズ」の三人。「オンボロホテル」だけにセキュリティなども甘かったのかもしれない。

 L高校での海外への修学旅行が始まって、二十年。まさかの前代未聞のトラブル発生となってしまった。残りの日程を残していたにも関わらず旅行は即時中止され、一行は翌日帰国ということになった。


 そして事件の「被害者」であるはずのこの部屋の三人。とくにアヤカは「被害者」であるにも関わらず、周りの生徒らから糾弾される立場に陥ってしまったのだ。「修学旅行を止めた女」だということで。これこそ不当も不当なハナシなのかもしれないが。

 さらに、初めての「憧れの海外」で心と身体に深い深い傷を負ってしまったことがトラウマともなり、アヤカは次第に心を閉ざすようになり、学校へも「不登校」気味となっていく。当然、学業成績も下がる一方である。このままではとても進学なんぞ望めないくらいへ。


 友達から、親から、そして責任があるはずの学校側からも、冷たい扱いを受けるようになったアヤカ。

 このような事態が発生したのも、本来監督すべき学校側の責任は大きいはずである。翌年の修学旅行の見直しなどが職員会の議題に上がったが、楽しみにしている生徒らの期待を裏切りたくないという意見が多くを占める。学校側として、この件については「揉み消し」さえ起こりそうな雰囲気だった。


 秋が深まり、そして冬。そしてまた春が来る。アヤカは三年生になった。「不登校」が続いていて出席日数も足りてはいなかったはずなのに、幸いというべきなのだろうか「留年」させられることはなかった。

 そんな中で、事件の「被害者」であるにも関わらず、「居場所」というものを徐々に失くしていくアヤカであった。

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