ひまわりみたいな女の子じゃなくても
「ひまわりみたいな女の子、ってどういう子だと思う?」
部活のない放課後、幼馴染にしてクラスメイトの春香が、唐突に聞いてきた。
「明るいとか、前向きとか、いつもにこにこしてるとか?あ、夏が似合う、っていうのもあるかもな。…2組の日野さんみたいなかんじ?」
俺が考えながら答えると、
「それ。」
と、低い声が返ってくる。
「え?」
「やっぱり日野さんだと思う?」
「いや、何が?」
さっぱり話が見えない。
春香はちょっと言い淀んだが、
「こないださ。私、立花くんに…告白、したんだよね。めっちゃ勇気出したんだよ?でもさ、好きな子いるからごめん、って。」
と、小さな声で言った。
「…そっか。」
急な話に、俺は驚いて間の抜けた相づちを打つことしかできなかった。
「誰?って聞いたらさ、なんて言ったと思う?!ひまわりみたいな子、だって!もーーーー何それ?ってなったよね。べた惚れすぎない?聞いた私が悪かったのかもしれないけどさぁ。玉砕した上に更にもらい事故した、みたいな。」
春香はその場面を思い出したかのように、早口で一気に捲し立てた。
「お、おお…そりゃもらい事故というか、自損事故というか…なんていうか、ご愁傷さま、としか言えないけど」
と、俺が返すと、
「ねー、ちょっとは慰めてよー。これでも…結構へこんでるんだからね。」
と、情けない声で春香が言った。
さもありなん。
遅めの初恋に浮かれていたこの幼馴染は、うっとおしいことに、やれ立花くんと話せただの、同じ委員会に入れただのと、ことあるごとに俺に報告してきていたのだ。
あんな笑顔で話されたら、どれだけ好きだったのか嫌というほどわかる。
「分かったよ。帰り、特別にアイス奢ってやるから。」
そう言って、俺が帰り支度をして席を立つと、
「…アイス一個でこの心の傷は埋まんないよ」
ぶすくれた顔で、春香も着いてくる。
昇降口で靴を履き替え、
「コンビニで一番高いやつを所望する!」
と、俺の前を歩き始めた春香の後ろ姿に、
「みんながみんな、ひまわりが好きなわけじゃないんだぞ。」
と、小さく言ってみる。
鈍感で気が強くて、フラレた相手に誰が好きなんだと聞いたりするような奴は、一体どんな花に例えるべきなのか迷うところだけれど。
いつもの調子が戻ったら、今度は俺が、勇気を出す番かもしれない。