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短編

童貞なのに爪が短いだけでヤリチン認定され振られました

作者: 剃り残し

「うぇーい! 1杯目が行けたら2杯目もいけるよ! グイグイっ! グイグイっ! グイグイよしこいっ!」


 大学3年の秋、友達に誘われて参加した飲み会は地獄の様相を呈していた。


 そもそも陰キャ気質の俺には30人だかの規模で卓を囲んでコールをしてはピッチャーで回し飲みするような世界は瘴気に満ちた魔界と同じだ。


 魔界の隅でハイボールのジョッキを抱え辛うじて息をしていると、同級生で俺がこの飲み会に参加した理由であり、誘ってきた友達の浅間未麻あさま みまが隣に座ってきた。


「よ! ハマちゃん、お疲れぇ」


 未麻は座る拍子に下を向いて垂れ下がったワンレンボブを耳にかけ、ニコッと笑う。


 俺の名前は浜田弦はまだ げん。なのであだ名は中学校くらいからハマちゃんで固定されている。


「別に疲れてないけどな」


「そういうとこ、ノリ悪いよぉ?」


 未麻は酔いが回っているのか肩が触れるくらいの距離でも構わずにこちらを向いてニッコリと笑う。


 俺みたいな陰キャにも優しく接してくれるし、笑顔が可愛い。二人で遊びに行ったことはないが、隣に座られるだけでドキドキするし、講義前に教室に入ってきた未麻を見ると自然と目で追ってしまう。確実に恋だと思う。


 だから、こんな瘴気に満ちた魔界と分かっていても誘いを断らずに参加したわけだ。


「別に……ああいうの苦手でさ」


「わかるわかる。疲れるよねぇ。こう……しっとりとさぁ、日本酒にイカの塩辛でちびちびと、ね」


「それいいな!」


 三千円ポッキリの飲み放題コースにそんなメニューはついていない。あるのは衣だらけの揚げ物と、味の濃い炭水化物と、大して塩が効いていない枝豆だけ。


「ここ飽きたし、抜けていっちゃう?」


「え? いいのか?」


 まさかの未麻からのお誘い。これを逃す手はない。一気に距離を詰めてあわよくば……


「うん。お金、幹事に渡してくるから先に外で待っててよ」


「あ……うん、ありがとう」


 俺が財布を取り出すと、未麻はそれを制して立ち上がる。


「いいっていいって! イカに日本酒、イグゾー!」


 陽気にそう叫びながら未麻は財布を取りに鞄の密集しているエリアへ向かっていく。


 俺も瘴気に当てられて魔族にならないうちにここから逃げることにした。


 ◆


 居酒屋特有のすれ違うのもやっとな幅の急な階段を降りて外で待つ。お金を渡すだけなのだがかなり時間が経った。


「ふぅ! ふぅ! あ、ハマちゃ〜ん。おっつー」


 階段を転げ落ちるんじゃないかと思うくらいに、さっきよりも足取りがふらついている。


「絶対金渡すときに飲まされたろ」


「アハハ〜そうなにょ〜」


 未麻はフラフラしながら俺の方へ近づいてくる。


「きゃっ」


 足をもつれさせた未麻はそのまま俺に抱き着いてきた。


「んー……ハマちゃんいい匂いするぅ……柔軟剤いいヤツ使ってるのぉ……」


 未麻はスーハースーハーと俺の首筋の匂いを嗅ぎ始めた。


 いきなりの事なので驚くも、逆にこれはチャンスなんじゃないかと思い始めた。


 人生初のお持ち帰りチャンス。


「あ……あ……あの……」


「んん? ハマちゃん、カオナシみたいになってるぅ! アッハッハ!」


 未麻はベシベシと俺の背中を叩きながら陽気に笑う。


「あのさ……浅間さん。俺……浅間さんのこと好きなんだ」


「え?」


 未麻はさっきまでの酔っ払ったフニャフニャな声ではなく、しっかりとした大人の声で聞き返してきた。そのまま俺を押して、反作用の力で自立する。


「いや……普通に無理なんだけど。ハマちゃんってヤリチンでしょ?」


「は……やっ、ヤリチン?」


 バキバキ童貞だが? 何なら今日童貞を捧げるつもりだったが? と心の中で思うも、さすがにダサすぎるので表には出さない。


「うん、だってさぁ、爪見せてよ。いっつも綺麗じゃん? 風俗? 裏垢? わかんないけど、ヤリチンは無理無理。はぁ……上で飲み直してくるわ。じゃーね」


 未麻は冷めた目でそう言うと踵を返して元いた魔界に戻っていく。


 呆然として立ち尽す。俺はフラレたのか? 爪のせいで。


 確かに俺の爪は常に深爪。傷一つなく磨かれていて光沢すら出ているほどだ。


 それには理由がある。


 俺はプロのベーシストだ。


 もっとも、所属していたバンドは解散して、今はサポートベーシストとしてあちこちのステージに立っている。


 俳優と歌手と作曲家を両立させている星田英ほしだ えいや大人気女性アイドル声優の古谷響ふるたに ひびきのバックバンドではほぼ固定でツアーを回ったりしている。


 だが、大学でそのことを知っている人はほとんどいない。別に隠している訳ではないが、如何せんベーシストは地味だ。


 多分、例の魔界に戻って星田英を知っているか? 古谷響を知っているか? と聞けばYESと答える人の方が多いだろう。彼らはフロントマンとしての役割を果たしているのだから、一番注目を集めるのは当然だ。


 しかし、彼や彼女のバックバンドのメンバー名を言えるか? 顔はわかるか? と聞いたら熱烈なファンでやっと答えられるかどうかだろう。


 それがギターやドラムなんかの目立つ楽器だったらギリギリ答えられる人が居るかもしれない。


 でもベースは絶対に無理。目立たないからだ。


 そもそも一般人にギターとベースの見分けがつく人がどれだけいるだろうか。音楽を聞いていて聞き分けられる人はどれだけいるだろうか。安物の低音が鳴らないイヤホンだとそもそもベースがほぼ聞こえないまである。


 縁の下の力持ち、という言葉がしっくりくるのがベース。


 だが、実態は陰キャや変わり者が選ぶ楽器だ。


 バンドを結成するとなったら、目立ちたがりはボーカル、ナルシストはギター、陽キャはドラムを選ぶだろう。結局、余り物を押し付けられるような陰キャか、進んで不人気を選ぶような変わり者がベースを担当する。


 ポケモンで言うなら、レッドにもグリーンにも選ばれなかった最後の一匹がベースだ。


 俺も例に漏れずその一派な訳なので、陰キャなのは自認している。


 ともかく、そんな生活をしているので爪には人一倍気を使っている。ただし、陰キャで童貞だ。


 俺はただ爪に気を使っている陰キャの童貞。


 頭の中で説明を組み立てるのに数分を要した。


 十分なシミュレーションが出来たところで俺もまた魔界に向かう。


 階段を登り切り、店に入ると耳を塞ぎたくなる程の騒音だ。


 飲み会をしている大部屋の扉を開ける。


 その瞬間、さっきまでのざわつきが嘘のように静まり、30人の人間が一斉に俺の方を見てきた。


 その中心に座っているのは未麻。


「あ……浅間さん、話せる?」


 ここまで来たのだからと意を決して声を出す。俺の声は沈黙している大部屋の中に響く。


「ウェーイ! フラレたヤリチン君じゃん!」


「皆! アソコ隠せよ! 性病移されるぞー」


 魔界の住人は一斉に俺を笑い者にし始める。中心にいた未麻は気まずそうに俯いているが、彼女が広めたのは明らかだ。


 いたたまれず俺は回れ右をしてダッシュで店を出て階段を駆け下りる。


「待って! ハマちゃん!」


 階段を下りきったところで上から未麻が呼び止めてくる。


 こんな状況でもワンチャンを期待してしまう。虚しいだけだと分かっているのに足を止めて未麻を待つ。


「はぁ……はぁ……ハマちゃん……待って……」


「なんだよ」


 未麻はいきなり全力で走ったからか、かなり荒くなった息を整えるために深呼吸をしてから話し始める。


「さっ……三千円……払って……」


 俺は怒りで我を忘れ、財布に入っていたありったけの札をその場に叩きつけ、その場を後にした。


 ◆


 童貞は夜の街を駆けた。


 童貞なのにヤリチンと間違われた事が嫌だったのか、振られたことを言いふらされたことが嫌だったのか、三千円を払い忘れていたことの恥ずかしさを消すためにありったけの金を置いて帰ったことなのか分からないが、とにかく感情がグチャグチャになった日だった。多分財布には十万くらい入っていたはず。


「おーい! ゲンゲン! おーい!」


 星田さんの低い声でハッと我に返る。今は星田さんの次のライブに向けたリハーサル中だった。


 昨日の事が強烈過ぎて演奏しながらつい思い出してしまっていたのだ。


「すっ……すみません。次の曲なんですか?」


 譜面をパラパラとめくりながら尋ねると、皆が朗らかに笑う。


「今日は終わりでいい? って聞いてたんだけど……どうしたの?」


「あ……す、すんません……考え事してて……」


「っし! じゃ今日は終わりだね。打ち上げ行くか!」


 星田さんは俺の背中を叩き、一重の目を二ッと細めて打ち上げ開催の宣言をしたのだった。


 ◆


 打ち上げはしっぽりとバンドメンバーだけの6人で開催された。


 会場は麻布の高級そうな店の個室。


 星田さんは国民的アニメや大人気女優が主演するドラマの主題歌を担当しているので、一流芸能人といって差し支えないだろう。


 昨日の三千円飲み放題からの高低差はどんな歌手の音域でも対応しきれないくらいの大きさだと思う。


「それで……十万円損したんですよ……クソぉ!」


 ベロベロに酔っ払った俺は最年少の特権を行使して、大人達に愚痴をこぼしまくった。


「いやぁ……それは酷い話だねぇ……」


 星田さんのバックバンドでギターを担当しているつばめさんが腕組をしてしみじみと頷く。


「でも女って細かいとこまで見てんだよなぁ。俺もこの前浮気がバレそうに……って話はいいか。ハマちゃん、女の子紹介しようか? 誰がいい? 女優? アイドル? 局アナ?」


 星田さんは気を使って場を和ませようとしてくれているのか、高嶺の花を次々に並べ立てる。


「いっ……いや……業界の人は……」


「ファンはやめといたほうがいいよ。有名人なら誰とでもって人もいるし。逆にアイドルとかの方が擦れてないまであるって」


 星田さんはタバコの灰を落としながらそうしみじみと言う。


「星田のこれは実体験だからね。そういえば響ちゃんとかどうよ?」


 燕さんもゲラゲラと笑いながら次の候補を出してきた。古谷響は今をときめく大人気声優。声が可愛いだけでなく、スタイルも顔も良いのでテレビや雑誌にも引っ張りだこで、今度は女優にも挑戦すると言っていた。


 燕さんと俺はたまたま古谷響のバックバンドも一緒に担当しているので、適当に出しただけだろう。


「えっ……古谷さんですか? さすがに見向きもしてくれないと思いますけどねぇ……あっちは大人気声優ですよ」


「ま、どうだろうねぇ」


 燕さんはニヤニヤしながら、丸眼鏡やパーマを当てたての前髪に当たらないように注意しながらタバコを指に挟み、細いグラスに注がれたハイボールをぐいっと飲み干す。


 即座に脇に置いていたメニューを燕さんに向ける。


「おっ、さすが年下。無理してそんなのやらなくていいのに」


「癖なんですよ」


 俺がそう言って笑うと星田さんがまた背中を叩いてガッハッハと笑う。


「これぞベーシストの鏡よ。いつでも縁の下の力持ち。ほんと、これからもお願いするね。ハマちゃん」


 仕事仲間と飲んでいると、昨日の事はすっかりと忘れ、いつもの調子を取り戻してきて、酒が進んだのだった。


 ◆


 朝、カチャカチャと音がしたので目が覚める。


「おはようございまーす。今朝ご飯できますからね」


 可愛らしい声がする。そもそも天井がいつものところと違う。


 ガバッと起き上がると、ピンク色中心の謎の部屋にいた。


「なっ……なっ……なんだここ!?」


「私の部屋ですよ。え? もしかして覚えてないんですか? 昨日の事」


 そう言ってキッチンの方から顔を覗かせたのは古谷響。オフなのか伊達眼鏡をかけているが、耳にかけている茶髪のボブカットはいつもの響のスタイルだ。


 だが、昨日飲んでいたメンツにはいなかったし、俺はここの住所を知らない。どうやってたどり着いたのかも謎だ。


「きっ……昨日?」


「タクシーで下まで来たんですよ。燕さんが人づてに住所を聞いたらしくて、面倒見てくれって言ってきたんです。燕さんは今日から国内ツアーで朝まで面倒見れないからって。ほんと、困っちゃいますよね。酔っ払いを押し付けられる身にもなってくださいよ」


 響は大きな目を更に開いてため息をつく。部屋着姿は初めて見たが、モフモフのパジャマがよく似合う人だ。ショート丈なのでほぼ生足なのが艶めかしい。


「あ……あはは……」


 どうやら昨日は飲みすぎてそのまま燕さんに介抱されていたようだ。


 飲み会の途中でも響の名前を出していたし、気を使ったのかここに押し付けることにしたのだろう。


 もう一つ気になること。それは俺が裸なのだ。


 ゴミ箱にはティッシュの山。


 これは明らかにアレだ。事後の様相だ。童貞だから想像でしかないけど。


「あ……なんで俺裸なんですか?」


「昨日ヤッちゃったからですよ。すっごく激しくて……たくさん出してましたね。飲めないって言ってたのに……」


 響はカリッと焼けたトーストの乗った皿を持ってきて、テーブルを片付け始める。


「は……え? 俺とですか?」


「俺と……というか、俺が?」


「おっ、俺が?」


 わけもわからずオウム返しをすると、少しためてから響がケタケタと笑う。


「冗談ですよ。昨日、シャワーを浴びるって言って風呂場でヤッちゃってたんですよ」


 響はそう言って手でゲロを吐く動作をする。


「あぁ……」


「私がタオルを持ってきても風呂場で激しく暴れるし、たくさんゲロは出すし……前のライブの打ち上げでお酒あまり飲めないって言ってませんでした? 飲み過ぎは良くないですよ」


 種明かしをされると、ただ単に俺がヤバいやつだったということらしい。服は部屋の隅できれいに折り畳まれているので既に洗濯は完了しているらしい。


「ほっ……ほんとに何から何までご迷惑を……」


「いいんですよ。だから弦君はまだバキバキに童貞ですよ。安心してください」


「あっ……あはは……そんな話まで……」


 苦笑いしていると、響はニヤッと笑って俺に抱きついてきた。


「弦君は『まだ』童貞ですからね」


 意味深に「まだ」を強調してくるので俺もビットが立つ。


「ま……まだ?」


「それは思い出してくださいよ。私達、昨日付き合うことになったじゃないですか」


「は……え? つっ、付き合う!? 俺と……古谷さんが?」


「響、ですよ」


「ほっ……本当に?」


 俺が聞き返すと、響は顔を真っ赤にして俯く。どうやら昨日の一連の出来事は報告済みらしい。


「そもそも、仕事仲間だからって好きでもない人を家に泊めないですし……ゲロの処理なんて……好きだから出来るんですよ。思い出してくださいよ、バカっ」


 可愛らしい「バカっ」に心臓がトクンと跳ねる。


 響は俺の手を取り、ツボをマッサージするように手のひらを指で押し込んでくる。


「私は好きですよ。弦君のお手手。すっごく綺麗で羨ましいです」


「あっ……あはは……ありがとうございます」


 トントン拍子すぎて何か裏があるんじゃないかと疑ってしまう。一刻も早く昨日のことを思い出さなければと思いながらも、とりあえずは腰にタオルを巻いてトーストを食べるのだった。


 ◆


 結局、響との関係は有耶無耶。部屋に遊びに行くことはあるが、響の立場上、外でデートはしづらいし、体の関係もない。なのでバキバキ童貞を維持している。


 数か月後の春休み。大学四年ではあるが留年が確定しているので就活はせずにスタジオで個人練習をしていると携帯がブルルと震えた。


 差出人は未麻。


『久しぶり!』


 今更どの面下げて、という感じだ。


 大学の講義に行けば誰かしらに後ろ指をさされる生活だし、単位を取り終えてなかったら卒業すら後ろ向きになっていたかもしれない。


 だが、そんなことを未麻に言っても解決しないのでグッと飲み込んで大人の対応に徹する。


 要件もわからないのだし。


『久しぶり』


 返事はすぐに来た。


『ハマちゃん、元気してた? 最近講義で見かけないからさぁ』


『ちょっと忙しくてさ』


 この二週間は講義は欠席していた。例の嘘の噂のせいではなくて、単に星田さんのツアーと被っていたからだ。


『ふーん。ねぇ、星田英って知ってる?』


 ギクリ、と心臓が悪い意味で跳ねる。


『何曲か知ってるけど』


 意味もなくしらばっくれる。


『これ、ハマちゃん?』


 そう言って送られてきたのはテレビ画面を撮影した写真。


 少し右に傾いたそのテレビの画面は朝のニュース番組のもの。星田英のドームツアーを取り上げていたようで、俺が一瞬写ったシーンを撮影したもののようだ。


『ど……どうかな?』


『とぼけないでよぉ。ググったら出てきたよ? ハマ・グリってハマちゃんでしょ?』


 俺の芸名というか仮名を言い当てられる。命名、星田英。


 初めて知り合いに身バレしたので嬉しくもあるが、相手はあの未麻だ。


『そうだよ』


『マジで!? すごすぎない!?』


 何が「すぎる」のだろうと思って既読スルー。


 すると、数分後に更に追撃が来た。


『今度、イカと日本酒のリベンジしなイカ? くコ:彡』


『気が向いたらね』


『じゃあライブ誘ってよ〜。関係者席とかあるんでしょ? 星田英のライブ行きたすぎるんだけどチケット取れなくてさぁ』


 近場で今度やるライブは既に一般申込みが始まってからかなり日が経っている。大きなスタジアムなのでキャパはかなりのものだ。


 さすがの星田英のネームバリューをもってしてもソールドアウトには一週間かかった。つまり、未麻は大してファンでもないのに行きたがっているだけなのだろう。


 なにがいきた「すぎる」のだろうと思ってまた既読スルー。


 するとまた追撃。


『なんか冷たくない? もしかして怒ってる? やっぱヤリチンだったかぁ。バンドマンだもんね(笑)』


 冗談のつもりなのだろうけど、笑えない。


 怒りで携帯を壁に投げつけたくなるが、自分のマイナスしかないと思いグッと押し留める。


 かといって未麻に復讐するような気も起きない。


 冷静に、連絡が来ないようにブロックして携帯を机に置く。


 ブロックしたはずなのに、すぐにまたブーブーと携帯が鳴動した。


 ブロックを突き抜けてきたのかと恐れ慄きながら携帯を見ると、響からだった。


『大学、転入しちゃいました〜』


 そう言って響が自分の可愛らしいウィンクの自撮りと一緒に送ってきたのは俺が通っている大学の学生証。


「なっ……」


 冗談であってくれと思いながらも、翌日学食で響と飯を食べる約束をする。


 そして翌日、本当に響は自分の大学をやめてうちに編入していた。


 単位互換が不十分で講義を受ける響に付き合って、単位もほぼ取り終わった大学にこれからも顔を出すことになってしまったのだった。

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