お茶くみ令嬢の疲れる年明け
明けましておめでとうございます(大遅刻)。
最近、スランプが続いており中々筆が進まず、ここまでお待たせしてしまい申し訳ございません。またクオリティも維持できていればと思いますが、何かありましたら遠慮なくお申し付けください。
年明けである。世の中であればそれはそれは目出度い時期である。
新年に心機一転して新しい事に挑戦したり、愛し合う者達の幸運を祈る事もする、要は非常に喜ぶべき期間である。
しかし俺ことコルネリア・ローリングはそんな目出度い年明けに非常に疲れる行事に参加することになった。
皇帝陛下主催の新年を祝う盛大なパーティーに伯爵家として出席するだとか、前世で言えば最後尾に並ぶと前が見えなくなるくらい混雑している、新年明けてすぐの神社の神殿にお参りに行くこととかはそれほど疲れる行事ではない。
今参加している行事は、お堅い両親と「そろそろ次の相手を見つけろ」と口うるさく言う親戚連中と揃って夕食をとるとかいうベクトルで大変だった。
それはガアールベール学園のとあるお茶会に参加する事だった。
「見て……お茶くみ令嬢よ」
「何であの変人がこんな所にいるのかしら」
「あのご令嬢があの方の恋人なんてねぇ……」
俺はお茶会の会場の隅っこにある椅子に座りながら背後から陰口を叩かれていた。
(……なーんで俺は新年迎えてすぐにこんな目に合わなきゃいけないのよ)
そうして現状に深く深くため息を吐いた。
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時は年が明けて数十日が経った頃、年明け前に降った雪が溶け始めていた頃の事、ガアールベール学園の冬休みが明けて直ぐの頃に遡る。
この日は意外なお客が、というか今回の事の元凶が喫茶同好会を訪れていた。
「はぁ~♪やっぱり新年はお茶くみちゃんの紅茶が沁みるねぇ~」
「ニューウェル様ここ来るの初めてでしょうがよ」
メルゼガリア帝国国立ガアールベール学園生徒会庶務、アンディ・ニューウェル侯爵子息だった。
一体どういう風の吹き回しなのか、(いち伯爵令嬢に過ぎない俺なんぞと比べれば)生徒会庶務という圧倒的に地位が高いニューウェル侯爵子息が末端サークルの喫茶同好会に顔を出していた。
「も~お茶くみちゃ~ん。僕のことはアンディって呼んでよ~」
「ご冗談はよして下さい!」
ニューウェル侯爵子息は事あるごとに俺に名前呼びするよう言ってくる。それは親愛というよりもお茶くみ令嬢というイジリ甲斐のある変人へ向けたからかいの一種なのだろう。少なくとも俺はそう思う。
このアンディ・ニューウェル侯爵子息は面白い物には目がなく、侯爵子息であり生徒会庶務という立場でなければ、多忙な時期でなければ、面白そうな事にはホイホイ首を突っ込む性質だと考えている。
でなければ喫茶同好会とかいう(自分で言うのもなんだが)素っ頓狂なサークルには来ないだろう。第一、ニューウェル侯爵子息には俺がデズモンド公爵令嬢の喫茶同好会への入部届を出そうとした日から何となく(面白い物として)目を付けられていた気がする。
「……そんな事よりもニューウェル様はこんな所で油を売っていて良いんですか?生徒会庶務の仕事があるでしょう」
「良いの良いの~♪ちょうど暇になった頃だから~♪」
ニューウェル侯爵子息はそう言って椅子の背もたれに寄りかかりながら、少々貴族のご令息としてはだらしない姿勢で紅茶を飲んだ。そして実に幸せそうにはぁと一息ついた。
「いやぁ~ここの紅茶は良い茶葉使ってるからね~♪淹れ方が微妙でも多少は美味しくなるんだよな~」
(けぇーッ!嫌味な人だなぁ!)
俺はニューウェル侯爵子息にイライラしている事が伝わらないように、コップを拭く力を強くしない事に注力していた時だった。
「それでさぁ~」
ニューウェル侯爵子息は紅茶から口を話して、ソーサーに戻すと頬杖をしてカウンターにいる俺に視線を向けた。
「今日はね~ちょっとお茶くみちゃんにお願いしに来たんだよねぇ~」
ニューウェル侯爵子息がそう言って俺に向かっておいでおいでした。
俺は内心ウンザリしながらもカウンターを出てニューウェル侯爵子息の側に行った。
「……んで?何ですか?ニューウェルさ──」
俺が要件を聞こうとしたその時だった。ニューウェル侯爵子息が突然俺の手を取って言った。
「僕の恋人になってくれない~?お茶くみちゃ~ん♪」
「ぶべらっちょん!!」
俺はお茶を口に含んでいないのに吹き出してしまった。ニューウェル侯爵子息は腹に手をついて「アハハハハ!!ぶべらっちょんだって!プハハハハハ!!」と大爆笑していた。
呆然としている俺にニューウェル侯爵子息は笑いを堪えながら説明してくれた。
今度ガアールベール学園にて貴族のご令息とその恋人(婚約者とかを含む)達が集まって開かれる新年を祝い、恋人と円満に暮らせる事を願うために開かれる大事なお茶会があるそうで、ニューウェル侯爵子息はその幹事を任されたらしい。
ただ肝心のニューウェル侯爵子息には意外なことに婚約者どころかよって恋人もいないので、幹事として格好が付かない事を本人は気にしているらしい(絶対噓だ)。だから俺になって欲しい恋人と言っても一時的な疑似恋人だそうだ。
「……だからってなぁんで私なんですか。もっと適任がいると思いますがね」
「この学園で君ぐらい僕の疑似恋人の適任はいないよ」
俺は眉がピクピクと動くのを堪えながら言うと、ニューウェル侯爵子息は意外にも真面目な口調で言った。俺が知る限りでは最も真剣な声音だった。そして真剣な眼差しを向けながらこう言った。
「君は今でも亡き婚約者を愛しているのだろう?」
「──!!」
そう言えばと俺は思い出した。この人含む生徒会のメンバーには俺がジェームズという婚約者を亡くしている事は知れ渡っているのだった。
「僕はね、コルネリア嬢。こう見えてもモテるんだよ。一度試しに付き合った相手はことごとく僕にべた惚れしちゃって別れるのには一苦労するんだよ」
「……あらまぁ酷い人ですね」
「フフフ♪でもコルネリア嬢ならその心配はいらない。何故なら政略結婚で得た婚約者を貴族のご令嬢にしては珍しく深く愛している。亡くなって随分と時間が経っても尚、誰にも見向きもせずにひたむきに愛している。絶対に僕にはなびかないって確信がもてる」
だから安心して恋人役をお願い出来るって訳。ニューウェル侯爵子息はニコリと微笑んだ。
俺は少し口元がひくひくと動くのを感じていた。心の底からやりたくないって感情が湧き上がってくるのが分かる。
「私がそのお茶会とやらにニューウェル様の恋人として出席する事になんの利点もないじゃないですか……」
俺が嫌そうな顔を隠しもせずに言うと、ニューウェル侯爵子息は「勿論君へのお礼も考えてあるよ♪」と余裕たっぷりの顔で俺に告げた。
「今はまだ教えてあげない。でもきっと君の人生にとって素晴らしい物になると思うよ」
「……」
君が未来へ踏み出せる一歩になれるかもしれない、その試練だと思ってよ。ニューウェル侯爵子息はそう言った。
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そうして俺はニューウェル侯爵子息の誘いに乗って了承してしまい、現在に至るという訳だ。
「ねぇミセス・ローリング。私のお茶が空でございますわよ。注いでもらえないかしら?」
「……」
「聞こえませんの?お茶くみ令嬢さん」
んで、大方予想はしていたがガアールベール学園屈指の変わり者である俺は、もっぱら他のご令嬢たちにいじられる玩具にされていた。
「……せっかくの誘いで申し訳ございませんが、お断りします」
「あら、ティーカップを見れば所構わずお茶くみしたくなる性分だと思ってましたわ。喫茶同好会なんて下らない部を立ち上げてる癖に」
「この場は将来を誓い合った愛し合う恋人たちが新年を祝うお茶会よ。メイドごっこしてる貴女には相応しい場ではないわ」
「ニューウェル様もお可哀想に。どうやってこのご令嬢に誑かされたのかしら」
散々な言われ様であるが、俺は迂闊に言い返す事も、おいそれとお茶くみを了承する事も出来なかった。貴族社会においては怒りに身を任せた物は笑い者になる。俺一人が笑い者になるだけでもローリング伯爵家が連座して笑い者になる(まぁ俺という一人娘がお茶くみ令嬢と呼ばれている時点で今更ではあるけれど)。
しかし、この場にはニューウェル侯爵子息の恋人として出席している。当の本人は俺から離れた場所で他の男子生徒と談笑にふけってやがる(コノヤロー)が、彼までもが笑い者になる事だけは絶対に避けなければならない。
俺はローリング伯爵家の為にも、ニューウェル侯爵子息の恋人を演じてニューウェル侯爵家の面子を建てなければならないのだ。
「大変痛み入るお言葉でございます。ではなぜ私が今こうしてアンディ様と離れた場所にいるかお分かりですか?」
「……さぁ」
「私がアンディ様を色気を使って誑かしたなら、もっと堂々とアンディ様の隣にいてふんぞり返っていても可笑しくないでしょう。この場ほどアンディ様の恋人であると喧伝するのに相応しい場はないでしょうし」
「……」
「私がここに居るのは、本来喫茶同好会に引きこもっているべき私を見初めてくださったアンディ様のご厚意によるものでございます。しかし私が隣に居れば愛しいアンディ様は恥をかいてしまいます。また他のご令嬢方とも話せばそのご令嬢方が笑い者になるかもしれません。その点こうして離れて表舞台に立たなければ皆様のお邪魔にはならないでしょう」
俺がそう言っていると、取り囲んでいたご令嬢たちも次第に何とも言えない表情になってきていた。
「私を顎でこき使いたいならここではなく喫茶同好会にお越しくださいませ。このコルネリア・ローリング、お茶くみ令嬢として喜んで皆様にお茶をお注ぎいたします。ここでは却って皆様にも悪評が及びましょうから」
おだてにおだてて屁理屈に次ぐ屁理屈を並べている内に、取り囲んで嫌味を言っていたご令嬢たちは半分面白くなさそうに俺の側から去っていった。それを見て俺はようやく一人になれて一息つけた。
「来なきゃよかったかも……」
俺は心底ウンザリした気持ちでそう呟いた。遠くで他の生徒と談笑しているニューウェル侯爵子息の方を見ると俺と目が合ったあの野郎は俺の苦労も知らずに笑顔で手を振りやがった。こんなにもイケメンの笑顔でときめかないのは俺の前世が男だからだろうか。
そんなこんなでやぁっと俺が一息つけるようになり、またお茶会もそこそこ盛り上がりを見せていた頃だった。お茶会の会場の入り口が何やら騒がしくなっていた。
「何故僕がこのお茶会に誘われていないんだ!僕は皇太子だぞ!」
(ウィリアム第二皇太子殿下……?)
騒ぎが起きてるお茶会の入り口の方を見ると、ウィリアム第二皇太子殿下が会場の前で件のリリィ・ブラウン男爵令嬢を側に置きながら入り口に待機している使用人たちと揉めていた。
「僕とリリィはこの帝国でも一番愛し合っている中だ!この場こそ僕達はいるべきだろう!」
「そ、そう仰られましても……本日の名簿の中に殿下の名前は載っていなくてですね……」
ウィリアム第二皇太子殿下に怒鳴られている使用人もアタフタしていて、殿下はそれに段々とイライラしてきていている様だった。
「お前じゃ話にならない!アンディを呼べ!あいつが幹事のはずだ!あのふざけたヤツに申し開きをさせる!」
ウィリアム第二皇太子殿下がそう叫ぶや否や、俺は何だか嫌な予感がした。その予感は的中してニューウェル侯爵子息がそそくさと俺の所に来て手を差し伸べて言った。
「ごめんよ~お茶くみちゃん。ちょ~っと来てくれる~?」
「……良いですよ」
今までほっといてた癖に巻き込みやがって、とか言いたくなったが俺はぐっと堪えて差し出された手を取った。
「……おい、お茶くみ。何でお前がここにいる」
ご立腹のウィリアム第二皇太子殿下の所に行くと、案の定俺は早速目を付けられた。
「ええっと……何でって言われてましても」
「僕の恋人だからですよ~殿下~♪」
俺が返答に困っているとニューウェル侯爵子息がフォローをしてくれた。いや巻き込んだ本人なんだからフォローは当然なんだけど。
「なんでここにローリング伯爵令嬢がいるのが許されて、僕とリリィが入れないんだ!道理が合わないだろう!」
「恋人であれば誰でも入れる訳ではないですよ~。予め事前に名簿に登録されたカップルが入れてコリーはその名簿にしっかりと載ってますもの~」
ニューウェル侯爵子息は憤慨する殿下の前で笑顔を崩さずに淡々と答えていった。
「それに殿下は執務が沢山あって今日は出席出来ないとお伺いしてたんですが~」
「……!それはだな……」
ウィリアム第二皇太子殿下が何やらブツブツと言い始めた時だった。
「……私が殿下にキャンセルして頂いたんです」
ウィリアム第二皇太子殿下と腕を組んでいたブラウン男爵令嬢が突然声を上げた。
「……それってどういう事~?」
ニューウェル侯爵子息は笑顔のままだったが目は何処か笑っていなかった。
「だって殿下が可哀想じゃないですか!新年が明けて目出度い時期にも執務に追われなければならないなんて!いくら皇太子殿下でもあんまりですわ!だから……私が殿下を解放してあげようと思って」
「リリィ……」
「……」
ウィリアム第二皇太子殿下はうっとりとしているが、多分会場にいる全員が「何言ってんだこいつ」って思っただろうな。横にいるニューウェル侯爵子息からも呆れた様な息遣いが聞こえてきた。
そりゃそうだ。一男爵令嬢が皇太子殿下の執務をあれこれするなんて聞いた事がない。
「それに……アンディ様もお可哀想だと思って」
「……僕が~?」
しかしブラウン男爵令嬢はそれにも気付かず火に油を注ぐ。
「はい!そんな変わり者のお茶くみ令嬢と恋人だなんて絶対変です!」
あれれ~?中々鋭いけど、滅茶苦茶失礼だぞ~?俺に。
「アンディ様にはそんなメイドごっこしてるご令嬢じゃなくて、もっともっと相応しい人がいるはずです!本当に好きな人と付き合うべきです!」
ブラウン男爵令嬢の凄まじく失礼な言葉に思わず口を開こうとした。
その瞬間だった。
俺はぐいっと引き寄せられたかと思うと、頬に柔らかい感触が触れた。俺が公衆の面前でニューウェル侯爵子息に抱きしめられて頬にキスされたと気付くのに俺は些か時間がかかった。
「……アンディ様!」
「……これで分かってもらえたかな~?僕はコリーを愛しているんだよ~?」
ニューウェル侯爵子息は呆然とする俺を解放すると、
「んで~何の権限があって僕の恋人を侮辱して~殿下の執務も勝手にキャンセル出来たのかな~?答えてくれる~?」
と言いながらブラウン男爵令嬢に詰め寄るとブラウン男爵令嬢は段々と目に涙を浮かべて「殿下……怖い」と言ってウィリアム第二皇太子殿下の陰に隠れた。
「……!行こう僕のリリィ!こんなふざけた場にいる必要はない!」
怒涛の勢いで立ち去るウィリアム第二皇太子殿下の背中を見送っていると、背後でクックックと笑いをこらえる声が聞こえてきた。俺は声の主に肘で小突いて聞いた。
「アンディ様ぁ……まさか殿下が来ると分かってて私を連れ出したんですか?」
「うん~?まさかそんな~♪コリーと一緒にお茶会を楽しみたかっただけだよ~?」
確信犯だよこの人!嫌な人だなぁ!俺はただこの人の嫌がらせという楽しみだけに呼び出されたって訳かよォッ!コンチキショウめ!
「……今回の報酬は高く付きますからね。そんじょそこらの贈り物だったら割に合いませんよ……」
「うん~?キスじゃダメだった~?」
「……ふざけないでください。あんな公衆の面前でのキスも勘定に入れときますからね。さっさと疑似恋人も解消してくださいよ」
「アハハ~♪分かってるって~♪……本当にぶれないなぁ」
こうして俺の疲れる年明けの幕開けとなったガアールベール学園でのお茶会は幕を閉じたのだった。
そしてニューウェル侯爵子息に腹を立てながら彼と一緒に会場を去っていったこの時、俺は気付かなかった。
「…………お姉様?」
ギャレット・カルヴァン侯爵令嬢がニューウェル侯爵子息と並び立つ俺の姿を見ていたことに。
感想等ありましたらお願い致します。いいなと思ったらいいねや評価をしていただけますと喜びます。次回はイチャラブが書けたらと思います。




