サバと鮭
有北です!
よろしくお願いします!
シャカシャカシャカ
トントントントン、、サッ
卵を溶いたボウルに、細かく刻んだ赤パプリカを少量放り込む。
チッチッチッヂッボッ
コンロに火をつけて、卵焼き器にオリーブオイルを垂らす。何年も使ってきた銅製の卵焼き器は、油が馴染んで鈍い輝きを放ち、使い込んだ木製の取っ手は、手に馴染む。
キッチンペーパーを使って、卵焼き器の全体にオイルを拡げていく。
早朝のこの時間は、いかに時間をロスしないかの、手際の良さが求められる。しかし、それだけではダメだ。
ボウルにハーブソルトを数振り加えて、最後に軽く混ぜ合わせる。卵焼きを最高の仕上げにするためには、卵にいかに上手く空気を含ませるかが重要だ。だが、かき混ぜ過ぎても良くない。
卵焼き器に手を近付けると、ちょうどいい具合に熱を感じる。頃合いだな。
ジュワ~
卵を一回分注ぎ、手早くかき回す。
熱伝導に優れる銅製の卵焼き器は、火の通りが早く、グツグツと火が通っていき、空気を含んだフワフワの卵焼きが出来上がっていく。素早く卵焼き器の奥にまとめ、ペーパーでオイル膜を張り直し、二回目の卵を注ぐ。
うまい具合に火が通るように、ガスを調整しつつ、さらに卵焼き器捌きで卵を全体に拡げながら、火との感覚もバランスを取っていく。
「パパー、今日提出するプリント書いてくれたー?」
顔を洗い終わったんだろう茜が、オープンキッチンの横を通り抜けながら、声をかけてくる。
「あー、おはよ~。プリントなら、テーブルの上のクリアファイルに挟んでおいたよ」
「うん。ありがとっ。うわ、なんか卵のすっごくいい匂いする~。今日のお弁当は、ハーブ卵焼き?」
「ああ。茜も食べるか?じゃあ~、朝飯はトーストじゃなくて、ご飯にするか?」
「ううん、トーストがいいー!」
「そうか?変な組み合わせになるけどぉ、、じゃあ、ケチャップ添えとくわ」
「うん!それがいい!」
茜は、中学生。義務教育の中学までは給食があるので、茜にはお弁当はいらない。だから、こうやってお弁当用に作ったおかずを朝食に出すことが多い。運動部でよく身体を動かすからか、茜は痩せの大食いの気がある。
ここで、トースターのタイマーを回しておく。予め温めておくのが、綺麗な焼き目をつけるコツだ。
ボウルの卵を全部注ぎ終わり、菜箸から伝わる感触は、巻きも完璧にフワフワだ。最後に端に寄せて、形を整える。
そして、大皿に移す。ここも、最後まで気が抜けない作業だ。卵焼き器の中で、完璧に仕上がっても、皿に移す段階で崩しては意味がない。仕事でも、同じだ。慣れた作業だからこそ、慢心してはいけないのだ。よしっ!後は、熱が冷めるまで、皿で待機してもらう。
「トーストは、一枚?二枚?」
「もちっ、二枚!軽く炙る感じでお願いいたす!」
茜の目は、真剣だ。焦がしたりすれば、1日文句を言われることになるだろう。
茜とは、完全に分担作業がされている。朝御飯は、俺が。夕御飯は、茜の担当だ。
一緒にできる時は、二人で料理をすることもあるけど、特に朝は弁当の準備で戦場と化しているキッチンに二人立つことは、事故の原因だと、過去から我々は学んだ。
食パンを二枚、温まったトースターに放り込み、温度を確認してから、タイマーを調節する。
それから、初めに予め沸かしておいた電気ケトルのスイッチを入れて、沸かし直しておく。茜のお気に入りは、カップのコーンスープだ。
それから、卵焼き器をペーパーでさっと拭いておく。昨日、スーパーの地産地消コーナーで安くて鮮度のよいアスパラを見つけおいたので、程よい長さに切り、卵焼き器に投入する。火をつけ直し、弱火にして、じっくりと熱を通していく。
パラパラと、ひとつまみの塩を振っておく。
チンっ!
伊達に数年トーストを焼いてきたわけじゃないぜ!
いい焼け目だっ!
朝は、身体と脳を起こすためにも、ちょっとテンション高めにお送り中!!
「できたぞ~。」
トレーに、トースト二枚乗せたお皿とコーンスープ、簡単なサラダ、あとジャム瓶を乗せて、テーブルに持っていく。
「ありがとー!」
部屋で急いで制服に着替えていた茜が戻ってくる。髪は、まだボサッとしてる。
「髪」
「食べてからっ!」
だそうだ。
「卵焼きーー~はっ?」
「ちょっと待ってろ。切ってくるから」
卵焼きが、熱々から、程よく熱が抜けて、食べ頃になっている。今食べたら、一番美味しいっ!!、のはわかっているが、これはお弁当用に作った卵焼きなので、数時間後の自分を裏切るわけにはいかない!泣く泣くカットして、茜の分を皿に盛り付ける。ついでに、アスパラも、揺すってから、箸で焼き面を変えておく。
「おっ」
「おっ?」
「パパのハーブ卵焼き、おいしいよぉ~」
うむうむ。茜の顔も朝からフワフワだな。
「しっかり噛んでから、食べろよ~」
「むり~。卵焼きは、飲み物だよ~」
「いや、それは認める。」
銅製の卵焼き器を買った時は、思いきって奮発したけど、買って良かった。グッ!!やはり、数時間後の自分を裏切りそうに、、、端っこならぁぁ
「あっ、お姉ちゃん、おはよ~」
「おはよっ。茜、朝からよく食べるね。」
「おっ!みずき、おはよう」
「、、うん。あっ、茜、私、今夜バイトで賄いでるし、夕飯いらないから。」
「わかったぁ~。気をつけてねー」
「うん。そこまで遅くはならないから。」
「みずきっ、朝御飯は?トーストしとくかっ?」
「いらない。ご飯と納豆で食べるから。自分でやるし。」
そう言って、洗面所の方に行ってしまった。
みずきは、高校生だ。
反抗期とは違う。と思っている。だが、正直仲は上手くいってない。のかもしれない。
みずきは、昔からなにかとお世話になっている親戚が営んでいる居酒屋でバイトをさせてもらっている。世話好きのご夫婦で、俺も小さい頃から遊びに行ったりしていたお店なので、そこは安心して預けさせてもらってる。
初めて、バイトしたいと言われた時は、驚いたし、そこまで心配をかけているのかと不安にもなったが、みずきにも考えがあっての発言だったようで、認めることにした。ただ、その目的なのか、目標なのかはわからないが、それは頑なに教えてくれない。
まぁ、普段の会話もうまくできていないわけで、それは親として、不徳だよなと、反省するところだ。
「パパ、アスパラ大丈夫?」
「ん?おぉっ!ヤバいヤバい!んのぉっっと、セーフ!!大丈夫、むしろいい具合に焼き目がついてる。茜サンキュー」
いかん、朝は戦場だ。みずきとの事は、改めて考えよう。
卵焼きを乗せた大皿に、アスパラも乗っけて、熱を取る。
大皿には、卵焼きとアスパラ、そして、最初に焼いておいた鯖と鮭の切り身が一つずつ。これで、火を通す食材は揃った。
ここで、自分の分の食パンをトースターに放り込む。まだ余熱があるので、そのままタイマーをセットする。
ミニトマトや作り置きしておいたブロッコリーのごま和えを冷蔵庫から出して、大皿に必要分をわけておく。よし、おかず全部が揃った。あとは、朝御飯を食べてから、残りの冷食と一緒に弁当箱に詰めていくだけだ。ちなみに、ご飯だけは、蒸気逃がしと、熱冷ましのために、最初から弁当箱に詰めてある。
ここで、準備しておいたワンカップ用のコーヒードリップをメインに持ってくる。忙しい朝のちょっとした贅沢。本当は、専用のケトルからお湯を注ぎたいが、さすがに時間がないので、電気ケトルから直接お湯を数回にわけて注ぐ。
今朝も、いつも通りこんな感じ。
コーヒーとトースト、ちょっとしたサラダに、バナナを1つ!!
「あっ、茜、バナナは?」
「いる!」さすが、食いぎみアンサー。
☆☆☆☆☆
お弁当箱のご飯に、のりたまふりかけをかけた。
多すぎず、少なすぎず。タイムリミットが迫る中でも、そのバランスは追求したい。小分けタイプを添えることが多いんだけど、昨日買い忘れたので、今日はかけておく。ちなみに、しんなりふりかけも好きだ!
あとは、バランやカップを使って、彩りよく大皿から二つの弁当箱におかずを盛り付けていく。
自分用の二段式ワッパ弁当と、アイスモナカのキャラクター「もなかまちゃん」の弁当箱を、彩りよく、かつ、隙間なく埋めていく。
みずきが高校に上がってからは、お弁当が二つになった。
高校には、食堂も購買もあるんだが、みずきはお弁当派らしい。まぁ、1つ作るのも、2つ作るのも、大差ないというか、むしろ、みずきの分もと思うと、余計気合いが入るので、良い効果だったかもしれない。
最後にフタをして、完成!
もなかまちゃんの弁当は、今日も可愛い。
あとは、保冷剤を乗っけて、弁当袋に綺麗におさめる。
ちょうど玄関の方から、バタバタする音が聞こえてきたので、今日も間に合ったらしい。そそくさと朝御飯を食べたみずきは、毎朝誰よりも早く家を出る。
みずきの分のお弁当箱を渡しに行くと、玄関手前の鏡で、全身チェックしているところだった。
「、、なに?」
「今日のお弁当。ああー、もなかまちゃんふりかけ買うの忘れちゃったから、今日はふりかけご飯にかけてる。すまん。」
「、、別にいいよ。、、鯖?」
「あぁ、鯖。」
「そっか。、、じゃあ、行ってきます。」
「おうっ、気をつけてなっ」
さっとカバンに弁当を収めたみずきは、そそくさと靴を履いて、登校していった。
みずきは、鯖が弁当に入ってないと怒る。
だが、俺は鮭も食べたい。
なので、ややこしいこと極まりないが、二人とも鯖の日ももちろんあるが、今日みたいに鯖と鮭の日がある。買い物する身にもなって欲しいものである。
「パパ、遅刻するよー!」
茜も、バタバタと準備している。
確かに、そろそろ出かける準備をしないと。
「茜、髪後ろがハネてるぞー」
「えっ、うそっ!?ほんとだっ、も~この~」
そんなこんなで、今日も1日が始まる。
☆☆☆☆☆