入学編⑥
マスの塩焼きが食べたいです
放課後
ついに生徒指導室から解放された3人は自分のクラスへ戻り、バラつくクラスメイトを背景にして各々の席に座ろうとした。だがその時に1人の女子に声をかけられた
「ねぇねぇ!3人とも謹慎くらったってホントなの?入学2日目で謹慎くらった生徒がいるって専らの噂だよ」
噂広まるの早過ぎな。というかあれ?子のどっかで…
「ああ、噂通りくらったぞ。にしても噂が広まる速度尋常じゃないな」
「決まったのついさっきなのにね」
と仁と悠木も白哉が思っていた事を言葉にした。そして白哉は喉まで出かかっているこの女子の名前を必死に思い出そうとしていた
この子昨日前の方で言い争いしてた子だよな、なんだっけ、出会い系の、プロフィールに、そう!たしか!
「無償の愛!!!」
「!?な、何故それを!?」
とその女子へ向けて指を指しそう叫んだ。その女子はその言葉を聞き驚愕を浮かべていた
「なんだ?無償の愛?って」
「な、なななんでもないの!!忘れてね!!崇宮くん??あんたも忘れなさい?」
仁の素朴な疑問を打ち消し、白哉に急接近して圧力をかけてきたその子を目の前に、白哉は怖かったのでつい何度も頷いてしまった
「それに私の名前は立花夕だから!」
と名乗った。すると夕の後ろから
「あはははははははは、あんた3バカにまでそれ知られてるの面白すぎ!!」
と比較的小柄な女の子が笑いながら登場した。白哉はその子を見て、
あれ、あの子もたしか、
と、夕と同様名前を思い出そうとしていた。
「無償の愛って、そんなバカにするようなとこじゃないと思うけどね」
「!?」
突然の悠木の肯定な言葉につい夕は反応してしまった。そしてその反応をみた小柄な女の子は笑みを浮かべ
「私なんだか夕と一ノ瀬くんってお似合いだと---「思い出した!処女恋愛マスターだ!!」---っ!?」
思い出すことに夢中になっていた白哉は、彼女が話している途中にも関わらず発言してしまった
あ、また俺なんかやっちゃいました?
「なんだ?処女恋愛マスター?って」
「な、なんでないわ!忘れなさい!いいわね!?忘れなさい!!崇宮くん??あんた覚えときなさい。そして忘れなさい!」
と仁の素朴な疑問を打ち消し、とんでもない圧をかけて近寄ってくる彼女に精一杯の頷きを。
「あと、私の名前は高峰優愛だから!」
といった、夕と酷似した反応を見せた。するとさらに後ろから黒髪で赤縁メガネの子が話しかけてきた
「なになに楽しそう!私も混ぜて〜」
「お、委員長じゃん」
「やほ〜咲藤くん。それに一ノ瀬くんに崇宮くんも!」
委員長と呼ばれるその子は昨日あった夕と優愛の言い争いを止めていた人物だった。白哉は先の2人の反省を活かし、心の中で「あの時の仲裁人か」と呟いた
「やほー、夢見さんってわりとフレンドリー人だったんだね」
「マイでいいよ!そうかな?馴れ馴れしい?」
「いや、全然いいと思うよ」
「よかった〜」
悠木とその子の会話を聞くに、どうやら委員長は夢見まいという名前らしい。
「崇宮くんは考え事?」
「ん?ああいや、俺自己紹介の時寝てたから委員長の名前ちゃんと知らないなって」
本当は委員長って事も知らなかったけどな
「たしかにそうだったね、では改めて!私は夢見麻衣佳です!このクラスの委員長をやってます!みんなからはマイって呼ばれてます!夕と優愛とは幼馴染です!よろしくね〜」
元気よく笑顔で挨拶をする委員長をみて、こっちまで微笑ましく思ってしまった。
「よろしくな。そして俺は崇宮白哉です」
「知ってるよ〜?既に君たち3人は有名だもん」
「何時でもどこでも騒いて馬鹿なことをして問題を起こす問題児集団って1年では既に騒がれてるわよ?」
と委員長と優愛に1年の間ではもう有名だと教えられ、決していい意味では無いはずなのだが、3人はそれを聞きテンションが上がっていた。
「いつの間にか俺たち有名人にっちまったな。これもカリスマ性ってやつ?」
「有名人になったって事は、つまりモテるんだよな?ついに俺にも彼女ができるって訳か」
「それはないと思うよ」
「悠木…」
と3人が頭の悪い会話している最中にふと、委員長が夕と優愛は幼馴染です!と言っていたことを思い返した。
幼馴染かぁ、アニメや漫画見てる人種からしたら1度は憧れる存在だよな。
俺も可愛い双子の妹がいるこの状況も中々アニメチックだよな。親に感謝しないとだな
そういや俺母さんの顔、知らねぇな。産まれてすぐに夜逃げしたんだっけ。
昔、父さんに母さんについて聞いた事があった。そしたら2人が産まれてすぐのときに夜逃げされてしまったよと悲し気に言ってたいたのを思い出した。
それでも1度だけでいいから顔が見たいと思い、家中を探してみたが見つからず。聞くと父さんが忘れるためにと全部捨ててしまったそうだ
「でも1回でいいから顔見たかったな…あ」
心の中で呟いたつもりだったが、声に出ていたことに気がつき、少し恥ずかしくなった。
「顔がどうかした?」
と悠木に聞かれ、いやなんでない忘れてくれ。と言うつもりで口を開こうとしたその瞬間
「っ」
白哉は突然謎の頭痛に襲われ、同時にひどいノイズの中で見たことない男女の大人2人が目の前で何かに殺される映像が頭の中に流れてきた。頭痛と趣味の悪い映像により白哉はひどく不快感を得て、顔の表情はかなり暗いものへと変化していった
な、なんだ
突然の出来事に理解が追いつか無かった。そして呆然としている白哉に気がついた仁と委員長は
「おい白哉、平気か?」
「崇宮くん大丈夫?顔色悪いよ?」
そんな白哉をみて心配そうに声をかけた。心配させまいと、白哉は激しい頭痛の中必死に言葉を探しなんとか口にした
「あ、ああ。平気だよ。けど悪い、俺今日は帰るわ。付き添いに火那を連れてくから安心してくれ。それじゃまた明日な」
「お、おい!」
と突然帰ると言い出した白哉は教室の外へと向かい歩き出した。後ろから仁の声が聞こえたが気がしたがそのまま教室を出て家へとむかった。
その後白哉は1人で家に帰り、道中で転んでできた顔の傷や、制服を着替えずにそのままベッドへと倒れ込み、気付けば深い眠りへと落ちていた。
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「崇宮くん大丈夫かな」
「あいつの事だしどうせケロッとして普通に明日登校してくるだろ」
「ボクらに明日は無いけどね」
「3バカリーダーもまた明日って言ってたわね」
「明日謹慎なの忘れてたわ」
「まるでニワトリね」
「んだと!?」
と一時は心配していた皆だったが、いつの間にか元の雰囲気へと戻っていた。その後5人も帰ろうと支度をし始めた。そして白哉の帰宅後に白哉の席に座って会話していた夕は荷物を取りに行くために自分の席に向かおうと立ち上がった。すると足に何か当たった感触がしたのでそちらに視線をおくると、白哉の机の横にバッグが掛かっていることに気がついた。
「あれ、このバッグって崇宮くんの?」
「あいつ忘れてったのか」
「どうする?2人は崇宮くんの家って知ってる?」
「ボクは知らないよ」
「そういや俺も知らんな」
白哉の家が分からず、どうしようと悩む5人は解決策を必死に考えた。そして悠木はある事を思い出した。
「そうだ、4組に白哉の妹がいたよね。その子に頼まない?」
「崇宮くん妹いたの!?しかも同い年って事は双子!?」
「あれが兄じゃ妹の肩身狭そうね」
「私なら恥ずかしくて死ねるな」
と女子3人は悠木の意見よりも妹の方に反応を示した。
「でも付き添いを頼むみたいなこといってなかったか?」
「あーたしかに、いってたかも」
仁は白哉が帰り際に言っていた言葉を思い出しそれを伝えると、悠木はまた策を練り始めた。
「そうだ、パンツを大量に道端に撒けば白哉は間違いなくどこからでも駆け寄ってくると思うよんだよね」
「たしかに、やってみる価値はあるかもな」
「ないわよ」
「2人とも真面目にかんがえてよ〜」
「これが3バカたる所以なんだな」
と、ある程度白哉の事を分かっている悠木の提案に仁は賛成したが、女子たちから一蹴された。ちなみに実際これで白哉は高頻度で釣れるのはまた別の話である。
すると白哉のバッグをどうしようか悩んでいた5人のところに、ある少女が尋ねてきた。
「あの、ちょっといいですか?」
と声をかけられ、5人の視線はその少女へと向いた
「ん?あれ、白哉の妹じゃん」
「え!?この子が崇宮くんの妹!?超可愛い!」
「お、驚くほど似てないわね」
「どうして兄はああなってしまったんだ」
と噂の妹をみて反応していた3人を他所に、悠木は火那へと質問をした。
「何か用があってきたんだよね?」
「はい。あの、白哉が今どこにいるか知っていますか?」
と質問されたが、白哉の付き添いは火那に頼むから安心しろという発言を聞いている5人は、おや?と首を傾げた。
「あれ?まあいいか。さっき家に帰るっていって教室を出ていったぞ。今はその道中にいるか既に家についてるかのどっちかだと思うぞ」
「そうですか、教えてくれてありがとうございました。」
「ああ、そうだ!これ!あいつのバッグ!忘れてったみたいなんだ」
一瞬首を傾げたが、仁は火那の質問に答えようと白哉が家に帰ったことを教えて、ついでに忘れてったバッグも渡した。
「色々とありがとうございました」
とお礼をいい、走り去っていった火那を5人は見送った。その後少し火那の話題で会話が盛り上がり、その後無事バッグの件も解決したという事もあり、5人は解散。各々帰路へと立った。
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授業中のバカ騒ぎのせいで変な注目を集めてしまった火那は女子たちからの黄色い質問攻めや、噂を信じ、あることないこという男子たちを前に酷く疲れを見せていた。
ついでに担任からアイツらは謹慎にしたと言われ、放課後白哉に怒りの言葉をぶつけようと2組へ向かった。しかし白哉は見つからず、聞けば既に家に帰ったという話だった。白哉へ電話すると預かったバッグの中から着信音が聞こえ、イライラした火那は急いで家に向かった。そして中に入ると玄関にはしっかりと白哉の靴があることを確認し
「白哉ぁ、覚悟しなさい?」
と火那は怒りを込めて呟いた。
白哉は家へ帰ると最初にリビングに寄る傾向があることから始めはリビングを探してみたが、そこに姿はなかった。次に白哉の部屋へ向かうとベッドの上で制服を着たまま顔が見えない様な形で横になっている白哉を見つけた。
「ねぇ、白哉?授業中のあれどういう事なのかしら?」
と怒りを示しながら部屋に入り、白哉の元へと向う。だが返事がない
「寝てるの?まあそんな事はどうでもいいわ。ほら!起きなさい!起きて私の怒りを浴びなさ…」
白哉を無理やり起こそうと右手で肩を掴み、仰向けになる様に手前に引っ張った。見事仰向けになった白哉の顔を見た火那は愕然とし、言い淀んでしまった
「な、なにこれ」
顔を勢いよくスったのか傷口から血が垂れておりどこか酷く辛そうな顔をしていて--
「な、なんでそんな顔して…」
--もおかしくないはずだったのだが、何故か幸せそうな顔で「火那〜、んちゅ〜〜」と唇を3の形にしていた。
「あんた起きてるでしょ。」
「……眠った王子様を目覚めさせられるのはいつも姫のキスって決まっているのです。ほら、ぐはっ!!」
とふざけている白哉の顔面に遠慮なく預かっていたバッグを投げつけた。
「こ、んの、バカ!!あんたのせいで私がどんだけ恥ずかしい思いしたと思ってんのよ!!あの人は彼氏〜?とかあの人たち紹介してよ〜。とか散々質問された挙句に男子たちからは俺たちがアイツらから崇宮さんを守るんだ!とか意味のわからない事言われて勝手に護衛し始めるし!もうめちゃくちゃよ!罰としてこれからお弁当と夕飯抜き!!反省しなさいこのバカ!!」
と白哉のふざけた態度に募った怒りが爆発した
「わ、悪かった!謝るし何でもするから!だから飯抜きだけは!っおわっ!」
白哉は懇願するためか土下座ポーズをしようとした時に、起き上がるため右手に力を入れたせいでベッドから滑り落ちる形となった。
「ちょ、ちょっと!?」
「うぎゃ!」
ドサッと滑り落ちた白哉は変な声を上げた。火那はそれをアホらしいそうに見ていた。
「はぁ、何してんだか。ほんとに反省しなさいよね」
「は、はい。誠に申し訳ありませんでした。」
と申し訳なさそうに謝る白哉を見て火那は思った。
反省してそうな顔をしてるけど、あと数分もすれば反省したという記憶が無くなるのよねコイツ。どうやったらこのバカ頭を直せるのかしら
と頭を抱えた
「それとその怪我!はやく手当てしちゃいなさい」
「はい」
「あと次謹慎とかしたら私ほんとに口聞かないから」
「!?俺そんなことされたら割とマジで病むかもしれない!」
「あんたに病むなんて概念ないでしょ…」
あの白哉から病むという言葉を聞き、火那は苦言を呈した。
というかほんとに概念が無さそうだから困る。1度本気で口聞かないようにしてやろうかしら。でもそれでも大人しくなるって確証がないのがおそろしいわね…
と再び頭を抱え、最後にほんとに反省しなさいよ?と釘を指し部屋から出ていった。
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火那が部屋から出ていった後、顔にできた傷を治療し再び横になった。そしてもう一度あの映像を思い出そうとした時、また激しい頭痛に苛まれた。
「っはぁ、はぁ、なんなんだよ、これ」
思い出そうとすると頭痛とひどいノイズで頭がぐちゃぐちゃになり、吐きそうになる。だがその映像の中に1つ気になることがあったのだ。目の前で大人2人が何かに貫かれて殺されたということだ。
それが気になりもう一度思い出す。脳がはち切れそうになり、その痛みに喘ぎ、結果さっきよりも詳しく映像を見ることが出来た。
「はぁ…っはぁ、刀を持った魔人、か?」
白哉が見たものは、黒い靄に包まれた魔人が赤と青にそれぞれ光る刃をもった2本の刀で2人を貫き、斬り裂いた。また、辺り一面は瓦礫まみれで、恐らくこの魔人の仕業によるものだろう。
産まれてからというもの、俺にこんな過去はなかった。あったとしても忘れられないぐらいにはトラウマになっているはずだ。
誰かの魔法によって見せられているんだろうな。こういう映像を前にして一般人はどう反応するのか検証してみた。的な寒いやつ
タチの悪い話だよな。悪趣味すぎる
と前に似たような前例があった分、なおさらそっち系だと思い心の中で愚痴を吐いた。
そして何度も映像を無理に見たせいか白哉の精神はボロボロ、身体は疲労困憊だったので、目を閉じ、その日は早めに身体を休めた。
そして白哉の部屋を照らしていた夕日はやがて沈んでいき、そのまま部屋は闇へと包まれていった。
読んで頂きありがとうございます。