第一章 入学編①
初投稿です。
春。それは冬が明け、木々が芽吹き、桜などのきれいな花たちがまるで苦しみから解放されたかの様に満開に咲き出しこれまで眠っていた動物や虫々が活動を再開し、元気に地を走り空を羽ばたいていく、そんな季節。
そして大人がよく春という季節を出会いと別れの季節であると口にする所を1度は聞いたことがあると思う。しかしそれは間違いなく人によるんじゃないだろうか
例えば明日から新学期を迎えるとある少年はドキドキとワクワクで夜は安眠出来ず、その結果いつものペースが崩れ、遅刻ギリギリの寝坊をする。急いで支度し学校に向かって全力疾走。そんな全力少年は積み上げたものをぶっ壊して、身につけたものをとっぱらい、道中にある曲がり角を曲がろうとした瞬間パンを咥えたツインテールの女の子と衝突し恋に落ちる出会いもあれば
大好きな先輩と付き合ってる彼女が、先に卒業して遠い大学にいってしまった先輩に「大好きだよ(ハート)」とメールを送り、先輩は「やっぱお前しか勝たん!!」と返信。だが蓋を開けてみれば彼氏は大学で知り合ったお姉さんとイチャイチャ生活していた事を知って別れる人もいる
だがそれらに分類せずそんな生活とは無縁な自宅を警備している民は別れや出会いもクソもない。そういった多種多様な人間が存在する中で、大人はよく無神経に春を出会いと別れの季節と平気で言えよう。余談だがこの世界でのこの国のニート率はここ5年で2%も増加したらしい。平和になりすぎるのも良くない事が伺えますね
と言った文字が羅列された意味不明な記事をスワイプして閉じ
「…2%も増えたのか、ニート」
と崇宮白哉は呟きながらベッドから起き上がり、制服に着替えた。
「ご飯できたわよ!」
と可愛らしくも強めな声色と口調な妹の声が家中に響き渡り、白哉の耳へと届く。あいよと返事をしてからリビングへ向かい、金髪のショートヘアを揺らしながら食器を運んでいる妹におはよと挨拶をした。その後一緒に朝食を取った。
そんなこんなで2437年 4月9日の今日、俺は双子の妹の崇宮火那と都市第2高等学校の入学式に遅刻しないようにと、早めに家を出た。
都市第2高等学校は魔人対策本部によって都市に2つ配置されている訓練校の1つである。訓練校自体は全国に10つ配置されている
そして何も無ければ入学式が始まる30分程前に到着できると計算していた白哉は、仮に何かあったとしても30分もあれば間に合うだろうと踏んでいた。だが
「おい!待ちやがれ!泥棒!!」
「お願い止まって!!」
「あいつ足早すぎだろ!」
「私も、舐めてたわ。というか白哉といると大体何かに巻き込まれてるような気がするんだけど」
「それこそ知るかよそんなこと!」
と2人は大声を上げながら泥棒を追っていた。火那はその黒くて大きな瞳でもっと文句言いたげに白哉を睨みつけた。
「このまま鬼ごっこじゃ埒があかねぇ、火那!二手に分かれて裏路地に挟み撃ちするぞ!場所は突き当たりにあるビルの裏だ!」
「あそこね、分かったわ。」
何事もなく登校するはずだった2人は今、2手に分かれて犯人をビルの裏路地へと追い込もうとしていた。
そう事の発端は、登校中に目の前で婦人のカバンが奪取されるという事件が起こり、2人はその強盗犯を全力で追いかけているのである
そして白哉は火那よりも1本隣の道を走り、先にある角を曲がれば作戦に使ったビルの裏路地に入ることが出来る。曲がり角と聞いて白哉は今朝読んだ記事の内容が頭に浮び
まさかあの角曲がったらパン咥えた女の子とぶつかったりしてな
というセリフを心の中で呟いてから曲がり角を曲がった。するとそこにはパンを咥えた女の子ではなく、バッグを咥えた強盗犯がいた。
そして強盗犯を作戦通り上手く裏路地へ誘導でき、挟み撃ちという形で追い詰めることに成功した白哉は
「やっと追い詰めたぞ。動くなよ?…動いたら俺の炎魔法を食らわすかんなお前」
「ちょ、さすがに魔法はまずいんじゃ…」
「いんや、おい強盗犯、カバンをその場に起きな。」
と脅迫まがいなセリフを吐き、その強盗犯はセリフに一瞬耳を立てたが、特に反応無し。
「無視とはいい度胸だ。もう一度言うぜ、カバンをその場におきな!」
「…」
…清々しいほどの無視。俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。そしてなんとカバンを咥えたまま伸びをし始めやがった
「こいつ大物だぞ火那…そうか、こいつが大物だってんなら下手に出ればいい事聞いてくれるんじゃないか?」
「そもそもこの子に言葉が通じてるのかもんからないじゃない」
「やって見なきゃ物事ってのは始まんねぇのよ!!あの〜、すみません。宜しければそちらのバッグをわたくしめに預からせては頂けませんでしょうか…?さもないとわたくしめの炎魔法が--「もういいってそれ…ってほんとに置いた!?」」
「ハハっなんだよ言葉通じんじゃん!始めからそうしとけよな!クソ犬」
強盗犯ももといその犬は下手に出たら見事言うことを聞いてくれた。どうやらこの犬は上下関係に厳しいらしい。
そして俺は大人しくなったその犬に近付き婦人のカバンを取り返そうと右腕を前に出したその瞬間
ガブッ
と力強く噛みつきやがった
「い、ってえええええええええええ!が、火那!こいつが俺の腕に夢中になってる今がチャンスだ!」
「はいはい。っと、ほら取り返したわよ」
悲痛を上げながらもカバンを取り返せと勇ましくセリフを吐く白哉に火那は呆れた感じで返答し、無事カバンの奪還に成功した。ついでに火那が白哉の腕に夢中の強盗犬を後ろから抱きかかえ、喉元や頭を撫でてやったらクゥンと気持ちよさそうに鳴き、大人しくなっていた
「しっかしこの犬まじで走るの早かったな、ほんと強盗向きな犬だな」
「強盗向きな犬ってなによ…でもほらこうして撫でられてる姿見ると癒されない?」
「自分の腕に噛み付いてきた犬に癒しもくそもあるかよ。しかも新品の制服に穴空いてんぞこれ」
「ご愁傷さまです」
「お前なあ…」
なんだかバカバカしくなった白哉はあぐらをかきながら腕を上げ、気持ちよさそうに伸びをした瞬間再び事件は起きた。
白哉の脚に暖かい水が突然降り注いだのである。
「ん?………ん!?」
「あらま」
「こいつまじかよ…」
そう、おしっこを俺に向けて放ってきたのである。
「とことんついてないわね…」
「まじでなんなんだこの犬…親を俺に殺されでもしたか?」
「まあでも犬だって動物なんだから仕方ないわよ。野性的…?みたいな。それに首輪もないから野良っぽいしね」
「火那ぁ、俺辛いよおおおおお!!」
アイム スクリーム
「ちょっ、近づかないで!!つくってば!私にもつくからこれ以上近づくのは禁止!」
「ひでぇ!あああああどっかに今からでも入れる制服保険を俺に、俺にぃ!」
自分でも何を言っているのか分からなかった。
「意味わかんない事言ってないでほら時間ないし早く家に1度洗濯しに帰って、自分の得意な炎魔法で乾かしてきなさい。じゃなきゃ本当に遅刻するわよ?せっかく家を早くに出たんだから遅刻なんてしたくないでしょ?」
うちの妹はたまに小姑みたいに口うるさくなる時がある
「…小姑」
「…いまなんて?」
「鬼ババアっつったんだよ!!」
「悪化してるじゃない!!!」
「やーい鬼ババア、お前もおしっこ引っ掛けられりゃあいいんだよ!!!そういうの需要があるって俺ネットでみたぞ!!」
「何言ってんのよバカ!もう先いくから!!しらない!」
本当に意味が分からない捨て台詞を吐いて消えていった白哉を後にし、火那は婦人にカバンを届けた後入学式へ向かった。
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1度家に帰り制服をそのまま洗濯していいのか悩んだが、時間がなかったので念の為洗濯網にいれ、洗濯開始。
それから10数分後に洗濯完了時間を知らせるアラームがなり、炎魔法を器用に使い制服を速攻で乾かした後学校へ向かった。右腕が噛まれた際に空いてしまった穴はどうしようもなかったのでそのまま放置した。
そしてついに学校へ到着。別の意味で長い道のりだった。
「にしても静かだな」
入学式に全生徒と事務員以外はほぼ体育館に居るからなんだろうが、にしても学校がここまで静かだと逆に新鮮だな。と心の中で呟いた
校門からみえる校舎はその風で舞う桜の花びらと周囲の静寂が合わさり、少し幻想的に見えた。白哉はその景色を遅刻したおかげで見れた事もあってか今日の嫌な出来事が心底どうでも良くなった。
そして校舎と続く道を進み中央玄関前に貼り出されていたクラス割りを確認した後先に教室に行き入学式とその後にある始業式の終わりを待つ事にしようと考えた。そして向かおうと足を踏み出した時に清掃員らしき人と目があったので挨拶をした。
「こんにちは」
「おう、こんにちは。坊主みたところ新入生っぽいな、初日から遅刻とはなかなかやるねぇ」
「はは、色々あったんすよ」
「ほう、色々とな?」
俺は今日起きた出来事を話した。
「-----ってなことがありまして」
「ははははははは!そりゃ災難災難。実は俺がこの仕事してんのは思春期の生意気なガキが苦労してる姿を見るために始めたんだわ。いやあいいもん聞けたわ!!」
「ド腐れ野郎じゃねぇか…」
「まあそうピリピリすんなって!せっかくのイケメンが台無しだぞ坊主」
「誰のせいだよ…」
「俺もこう見えて昔はモテてたんだぞ??」
いなそうで結構いる人間ランキング常時トップランカーの過去自慢おじさんかこいつは
「俺知ってるわ、そういう奴は大体そうでもないって」
「ほう?これはあれか、これがあの悟り世代ってやつ?おもんないわ〜〜これだから思春期のガキは嫌なんだわ〜。そうだ煎餅食べる??」
まじで調子狂うなこのおっさん。絶対この煎餅もなんか裏があるだろ。見え見えなんだよ。…でも俺煎餅大好きなんだよなぁ。い、いややめろ!乗るな!俺!!と葛藤をくり広げる白哉は
「ま、まあくれるってんならもらうわ」
ダメでした。
そして煎餅を受け取ろうとした時おっさんが突然煎餅を上に投げ、その煎餅は綺麗な放物線を描きながらおっさんの口の中に入っていった。そしておっさんは見事なマウスキャッチを成功させ、まるで俺に見せつけるかのように目の前でばりぼりと食べ、飲み込んだ。
「あげると思った??残念あげませ〜〜ん!!」
「あぁぁぁなんなんだよこのおっさん!ぶん殴りてぇ。平和ボケでもしてんのか!?……っは!?これはあれか、火那は俺の今までの煽りに対して毎回こんな気持ちになっていたのか!?!?俺はなんてことを…すまん火那!!」
ブチ切れの地平線のその先にあった物は、俺の懺悔でした。
「坊主が何言ってんのかよくわかんねぇが、確かに平和ボケはあるかもな。魔人が出現しなくなってから5年も経てば誰でもそうなるさ。それに前と比べて科学力も魔人対策本部の戦闘員数も増えたらしいしな。その上最近の学生達は強いと聞く。第2支部の特殊戦闘部隊なんて学生が占めてるって聞いたことがあるぐらいにはな。そりゃ安心もしちまうってもんさ」
「それもそうだな」
とおっさんの言葉に頷いた。
白哉は魔人と言う言葉を聞き、過去に直接戦ったとこのある数体の魔人の事を思い出した。
魔人。それはある日は突然現れ、分かっているのはヒトガタで身長2m以上ある黒い体。筋肉と血管が浮き上がっており、魔力量が人間の一般的なそれとは規格外に多い驚異的存在。5年前には世界で同時に強力な魔人が複数出現し、対策はしていたものの死者数が数万、重傷者が数十万に及ぶ被害をだした疑う余地もない程の人間の敵だ。
「魔人っていったい何がしたいんだろうな」
「それがわからりゃ苦労はしないさ。まあなんだ、なんかあったら助けてくれよな学生さんよお!」
「いてっ、肩叩くな叩くな!けど絶対あんただけは助けてやらんからな!」
2人がじゃれ合っている間にチャイムが校内に響き渡った
「お、ほら教室にいきな。暇潰しに付き合ってくれてサンキューな。せめてもの詫びだ、煎餅を受けとんな、ほれ」
「まあ、楽しかったからいいよ。」
と、煎餅を受け取ろうとしたその時、突然煎餅が宙を舞いおっさんの口に吸い込まれていった。にやけるてこっちを見るおっさんに呆れ
「もうなんでもいいや」
と呟いた。
まじでなんなんだあの人は。愉快そうに笑いやがって
心の中でブツブツと怒りを吐きながら教室に入ろうとした時、聞き覚えのある声で自分の名前が呼ばれたのでそちらに顔を向けると、2人の女の子がいた。
「よかった、ちゃんと来たんだ。白哉」
「ん?おう鬼ば…火那。」
「今なんて言おうとしたのかしら?…まあいいわ、そんなことより紹介するね裕香。この人は私の双子の兄の白哉よ。そしてこの子は藩間裕香、入学式で隣になってから仲良くなったのよ」
「あははよろしくね〜。2人は仲良いんだね!私も白哉ってよんでいい??」
「ん?ああいいぞ。よろしくな。俺も裕香でいいか?」
「うん!いいよ〜。よろしくね!」
と式終わりの火那に声をかけられ、友達になったという裕香と軽く言葉を交わした後、3人は少し会話をしてからそれぞれのクラスへと向かった。火那と裕香は1-4らしい
「さて、俺もクラスに入るか」
扉を潜り1-2と描かれたクラスに入る。席は自由!と黒板に書いてあったのでクラスを一望し空いている席を探した。人気そうな窓際の主人公席がたまたま空いていたのでそこに座わり、窓から外を見ながら先程知り合った裕香について少し思い出していた。
いやしかし可愛いかったなあの子。うちの妹も贔屓目に見て可愛いけど、なんつーかオーラが違うっていうか。
彼女は栗色の梳いたショートヘアにルビーみたいな赤い目を持ちその上かわいいオーラを放っていた。
裕香の印象を思い出していた白哉はふと前の方でも言い合いをしている女子3人組を見つけたのでしばらく観察していたその途中にチャイムがなり、教室に先生が入ってきた。
俺は窓際の席から再び外の景色を見渡しながら、今度は今朝の記事について少し思い出した。
これからはこのクラスを中心に過ごすわけか、この2組が楽しいクラスだといいな。
春、それは出会いと別れの季節。
これからの俺にとってなにが出会いでなにが別れとなるのかは予想もつかないけど、いい事づくめであって欲しいよな
そして今までとこれから出会った奴らとまた春を迎えたいもんだな
と心の中で呟いた。
楽しんで頂けたら幸いです。