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序章8 手解き

5つの精霊と、光と闇の調和で構成されている世界。

光の加護を受けた先導者と、闇の加護を受けた守護者に、世界の命運は委ねられている。

加護の証を授かった少年と少女の、試練と小さな恋のお話です。

 その日の行程は順調で、日が落ちる前に次の町に着くことができた。

 2人と2匹を乗せてたくさん走ってくれたペルセウスをゆっくり休ませたかったこともあり、早めに宿泊の手続きを済ませたうえで一行は近隣の商店に出掛けた。


 保存食や薬草等を買い足し、宿の2階にある食堂で早めの夕飯をとり、3階の部屋に上がる。値は張るが、ミアや猫たちを考慮してスイートルームにしたお陰で、ゆっくり寛ぐことができる。

 猫は食堂に連れていけないので(本来部屋に上げるのも不可なのだが、多めに宿代を上乗せして、他のお客の迷惑にならないこと、汚れや破損が出た場合に修繕費を支払うことを条件に今回は特別に許可してもらった)、部屋で食事を与える。

 食堂でもらった温かいパンに、先ほど店で買った干し肉を炙って乗せ、2匹の前に差し出した。

「さ、お食べ」

 にゃーん、とお行儀よくひと鳴きして食べ始める。


「エドワードさん、水だけじゃなくて火の魔法もつかえるのね」

 ミアは目を見開く。

「はは、確かに僕は水の精霊の加護を受けているけど、学校で魔法の勉強もしたから、木の魔法も使えるよ。火の魔法は、本当にちょっとだけだ」

「わたしも、お勉強したら魔法使えるようになる?」

「うーん、そうだな。お勉強頑張れば、きっと使えるようになるさ」

 ぽん、とミアの頭に手を置く。


 ミアは、そんなエドワードをじっと見ていたが、やがて意を決したように上着を脱ぎ始めた。

「ミア?何を…」

 上半身下着姿になると、ぐい、と襟ぐりを引っ張り下げた。

 鳩尾より拳一つ上、胸部のちょうど真ん中に黒い紋様が痣のように浮かんでいた。アーロンから聞いた、闇の加護の証だった。

「この痣、特別な魔法の印なんだって。修道院長が言ってたの。エドワードさん、魔法のお勉強したんでしょ。わたしに、教えて」

「ミア…」

「わたし、魔法の印が、あるのに、使えないの。わたしが、ひっく、魔法、使えたら、、みんなを、守れた、のにっ…」

 途中から嗚咽混じりになり、泣き出してしまった。コウとフクが心配そうにミアに寄り添う。

 子供ながらに、ミアはしっかりと事件の責任を感じていた。まさか自分が狙われていたなんて知る由もないだろうが、それでも1人生き長らえていることに引け目を感じているのだろう。

 エドワードは胸が締め付けられる思いだった。


 そっと、ミアの乱れた胸元を整える。そして、ミアと同じ目線までしゃがむと、こつんとおでこ同士をくっつけた。

「ミア。印のこと、教えてくれてありがとう」

 そのまま、優しく抱きしめる。

「大丈夫。僕はキミにこれ以上辛い目に遭わせない。約束する」

「わたし、、、強くなりたいの」

「わかった。王都に着いたら、一緒に特訓しような」

「そんなの待てないよぉ。今がいいの」

 涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら、ミアは訴える。

ーそうは言っても、媒体がないとな。それに、闇の魔法は僕にもわからないぞ。

 とりあえず、ミアの涙と鼻水をハンカチで拭き取る。ついでにそのまま鼻をかませる。

 脱いだ上着を着せながらどうしたものかと考えていると、上着につけたブローチが目に入った。ファリガで購入した、護身用のアクセサリーで、道中もし魔物に襲われて何かあったときに守ってくれるよう、火の魔法がかけられたスギライトを飾ったものだった。

ーこれなら、媒体として使えるかもしれない。ただ、魔法はどうするか。光と闇の魔法は特殊だから、一旦は5つの要素のいずれかだな。ブローチが火のエレメントなので、そのまま力を借りるか。

「よし。じゃあ、ちょっとだけやってみようか」

 こくり、とミアは真剣に頷いた。


 エドワードは、上着から外したブローチをミアに渡す。

「両手で、そのブローチを包んでごらん」

「こう?」

「そうだ」

 そして、ミアの両手をエドワードの両手が包む。

「いいかい。僕が掌からミアの手を通してブローチに魔力を送るから、どんな変化が起こるか、感じてごらん」

 エドワードは掌に意識を集中して微量の魔力を一定のスピードでミアの手の中のブローチに送る。

「わ。あったかくなってきた」

 魔法の量やスピードのコントロールを誤るとミアに危険が及ぶ。火傷や発火に繋がらないよう、細心の注意を払って微量の魔力を送り続ける。

「手を開いて見てごらん」

 ミアは、おそるおそる両手を開く。先ほどはくすんだ赤紫色の石だったが、エドワードの魔力を蓄えてつやつやとした光沢が出ていた。

「さっき、ミアの手のなかを僕の魔力が通り抜けていった感覚を覚えているかい?」

「うーん?」

 首を傾げるミアに、じゃあこれはどうかな、とエドワードは彼女の左手を握った。

「僕が左手から魔力を送るから、ミアが自分の身体を経由して、右手に持っている石まで魔力を流すんだ」

「流す?」

「そう。火の精霊さんを左手から受け取って、右手の石に届けるイメージだと思ってくれていい。いくよ」

 エドワードは、再度微量の魔力をミアに送る。

「火の精霊さん、火の精霊さん…こっちですよ」

 ミアは一生懸命火の精霊に呼び掛けながら、左手、肘、肩、心臓、そして闇の証を通り抜け、右胸、肩、肘、右手からブローチへと魔力が流れていくイメージを浮かべた。

 すると、一瞬キラリと石が光った。

 次の瞬間、ぽぉぉ、と石の表面が赤い魔力を纏った。


 エドワードは驚いた。自分が送った魔力量を大きく上回る魔力が供給されたのだ。紛れもなく、ミアの魔力だった。

「すごいじゃないか!」

「わたし、魔法使えた?」

「うーん。まだ魔法の発動ではないけど、でも魔力は流せてるよ」

「えー、早く使えるようになりたいの」

 むぅ、とむくれるミアに、エドワードは優しく諭した。

「魔法っていうのは、刃と同じで簡単に人を傷つけたり、物を壊すことができるんだよ。だから、まずは自分の魔力をコントロールする術を身につける必要があるんだ」

「わたしは、傷つけるんじゃなくて、強くなってみんなを守りたいの!」

 ミアはむきになって反論する。

「解ってるよ。でもね、守りたくても、自分の力を抑えられなかったら、誰かを傷つけてしまうこともあるんだ。だから、みんな勉強や訓練をするんだよ」

「でも…」

 ミア、と呼び掛けて、エドワードは真っ直ぐ彼女の瞳を見る。


「いいかい。ひとつ、冷静になること。ひとつ、必ず大人と訓練すること。ひとつ、疲れたら無理せず休むこと。この3つ、守れるかい?」

「れいせい?」

「そう、冷静。今みたいに焦ってしまうのではなくて、心を落ち着かせるんだ」

「どうやって?」

「こうやるんだよ」

 エドワードは軽く両足を開き、両手をおへそのやや下に当てて深呼吸する。

「一緒にやってごらん」

 促すと、見よう見まねでミアも深呼吸する。何回か一緒に深呼吸を繰り返してみる。

「上手だよ、ミア」

「わたし、魔法使えるようにがんばる」

「偉いぞ。でも、今日はもうおしまい」

 エドワードはミアの目の前に3本指を立てる。

「最後に、今日の復習です。魔法を練習するときのお約束、3つを答えてください」

「えっと、れいせいになること、大人の人と一緒にやること。それから…、疲れたらお休みすること」

「良くできました」

 エドワードは優しくミアの頭を撫でる。

「今日はもう寝ような」

「はーい」


 寝る支度を整え、ミアがベッドに入ったことを確認してから灯りを消す。

「おやすみ」

「おやすみなさい」


 暫く経ちエドワードがうとうとし始めた頃、ベッドの横にミアが立っていることに気づいた。

「ん…ミア?どうした、眠れないのか?」

「うん…」

「そうか。明日も早いから、寝ないと身体が辛くなってしまうな」

「あの…。一緒に、寝てもいい?」

ーそれはどうなんだ?子供とはいえ、元王女だぞ…

 困った、と思ったがミアの落胆する様子が目に浮かび、エドワードはすんなり折れた。

「おいで」

 掛け布団を持ち上げ、ミアを迎え入れる。

「うん」

 ミアは嬉しそうにエドワードにくっつく。

「あったかい」

ーあぁ、甘えたいのか。

 エドワードは理解した。

ー子供の頃、一人ではどうしても寝つけない時は兄さんや姉さんのベッドに忍び込んだ事があったっけ。母さんが死んでしまって、悲しくて寂しくて。あの時は、誰かに甘えて一人じゃないって安心したかったんだ。

 エドワードがベッドに潜り込むと、兄は「甘えん坊め」と嗜めながらも無精髭を擦り付けて安心させてくれた。姉は優しく手を握ってくれた。

 遠い昔の記憶が蘇ってくる。


 そういえば、と彼女に伝えなければならないことを思い出す。

「なぁ、ミア。胸の印は、他の人には見せちゃダメだぞ」

「うん。修道院長にも、そう言われてたの。でも、エドワードさんは特別だから」

ー特別、か。

 ミアに信頼されているという実感と併せて、愛おしさが込み上げてくる。エドワードはミアの頭を撫でながら、ほっこりした気持ちのまま眠りに落ちた。


この後、コウとフクもエドワードのベッドにやって来て、ぎゅうぎゅう詰めになりましたとさ。

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