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序章3 襲撃

5つの精霊と、光と闇の調和で構成されている世界。

光の加護を受けた先導者と、闇の加護を受けた守護者に、世界の命運は委ねられている。

加護の証を授かった少年と少女の、試練と小さな恋のお話です。


※一部残酷な描写を含みます※

 エドワード・フィッツジェラルド第2中隊長は、年末年始の休暇を実家で過ごしていた。

 彼の実家は、他国との貿易が盛んな港町の商家だった。


 エドワードは3人兄弟の末っ子で、歳の離れた長兄が父親と商いを営み、2つ上の姉は一昨年の春に商いで交流のあった山麓の村長の息子に嫁いでいった。エドワードが幼い頃に既に長兄が2代目として父の事業を手伝っていたため、彼は末っ子のお坊っちゃまとして好きなことを自由に与えられのびのび育てられた。

 元々の身体能力の高さと運動神経の良さで、子供ながらに街一番の剣士に成長した彼は、15歳で王都の士官学校に入学し、3年の在学期間を経て王立騎士団に入団した。王国内に騎士団や自衛団は数あれど、王立騎士団はその中の頂点に位置し、騎士を目指す者全ての憧れであった。


 現在23歳の彼が王立騎士団の中隊長という役職につけているのは、ひとえに優秀で誠実な彼自身の人望や実績による部分も大きいが、昨年起きた事件をたったひとりで収束させた功績を称えてのことであった。


 その事件は、昨年の今日、朔旦冬至に起こった。

 街外れの丘の上にひっそりと立つ小さな修道院が、異形の魔物に襲撃されたのだった。


 この世界は、光と闇、そして火水木金土の要素で構成されている。光は太陽・闇は月の加護、火水木金土はそれぞれの精霊の加護が影響している。


 世界に存在する全てのものに精霊の加護が宿り、魔力を持つ。大抵は生まれた土地を守護している精霊の力を授かるため、火山の近くであれば火、水辺であれば水、森の近くであれば木、という塩梅である。人だけでなく動物や植物、鉱物や魔物においても例外なくだ。


 また、光と闇は対になり世界を調和する要素であるため、この世界に存在するもの全てに影響を及ぼす。過去、光と闇のバランスが崩れたことによる世界の危機が幾度かあったことが文献に残されているのだ。


 世界は唯一人ずつ、光と闇の加護の証を授ける。

 神に選ばれし2人は互いに協力し合い、世界の調和を保つ。どちらかが生を全うするともう一方の加護も消え、新たな世代に加護が引き継がれていく。

 それがこの世界の理であった。


 だが、異形の魔物はこの理から外れた存在であった。

 発見の報告は、数年前から散見するようになった。

 通常の魔物と異なり、この世界のどんな生き物とも姿形が異なっていた。また、絶命すると霧のように消えてなくなってしまうことも大きな特徴だった。


 修道院を襲った異形の魔物は、聞き込みによる目撃者の話しを総合すると、一見浮浪者のような身なりの人形だった。

 海から現れ浜辺に上がり、辺りをぐるりと見渡すと高台の修道院をじっと見つめ、まっすぐに向かっていったということだった。


 ちょうどその頃、修道院では食事にありつけない市民のための慈善事業として冬至恒例の炊き出しを行っていた。

 街中の貧しい市民が修道院に集い、ささやかな幸せを噛み締めていたとき、それは起きた。


 施しを受けにきた浮浪者に紛れて修道院に侵入した異形の魔物は、目にも止まらぬスピードで次々と修道女たちを殺戮していった。微塵も躊躇せず、まるで何かを求めるようにただただ機械的に何度も切り刻み、暴れ、壊した。

 修道院から命からがら逃げ降りてきた市民の一人が、フィッツジェラルド家に助けを求めた。

 その年も実家で休暇を過ごしていたエドワードは、持ち前の正義感で非番にもかかわらず剣を携えて修道院へ走った。修道院に着いたところで凄惨な現場を目の当たりにして、騎士団として幾多の戦いを経験しているエドワードにおいても鳥肌が立つほどであった。


 のそり、と入り口から出てきた人影は、エドワードを見るや否や凄まじい勢いで飛び出し、狙いを定めて飛びかかってきた。

 相手が異形の魔物であることを瞬時に理解したエドワードは、紙一重で攻撃をかわすと振り向き様、相手の背中に一太刀浴びせた。ダメージを与えた手応えはあったが、相手の動きは止まらなかった。

 この世界の生き物でないのであれば遠慮はいらない、と言わんばかりにエドワードは自身の最大火力で相手に臨んだ。水の精霊の加護を剣に宿らせ、氷を纏った刃で足を狙う。攻撃そのものは避けられてかすり傷程度しか与えられなかったが、先ほど地面に水の魔法を仕掛けておいたため剣の氷に反応して地面と足が氷で繋がり、相手の動きを封じ込めることに成功した。


 勝利の算段がついたエドワードは、異形の魔物に問うた。

「何故、このような卑劣なことを!」

「…ヤミ」

「闇?」

「…ヤミノオンナヲ…ヌシノモトヘツレテイク」

ー闇の女?主?どういうことだ?

「おい、それはどういうことだ!主とは誰だ」


 氷の魔法が思いの外効いていたのだろう、異形の魔物は答えることなく消滅してしまった。


 エドワードは一人その場に佇みながら、何か大きな事件に巻き込まれてしまった事を直感的に理解した。


 その後街の騎士団が到着し、事情聴取や犠牲になった人々の弔いが執り行われた。エドワードは事件の救済者として一躍時の人となった。

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