序章2 出逢い
5つの精霊と、光と闇の調和で構成されている世界。
光の加護を受けた先導者と、闇の加護を受けた守護者に、世界の命運は委ねられている。
加護の証を授かった少年と少女の、試練と小さな恋のお話です。
自力で出ることができない。
でも、誰にも気づいてもらえない。
ミアは、心細さに涙が溢れた。
戸棚の前に戻り、膝を抱えてうずくまった。しくしくと泣いていると、コウとフクが降りてきて、慰めるようにミアに寄り添う。その温もりが心地よく、知らぬまに眠りに落ちていった。
その頃、地上では大変なことが起ころうとしていたが、ミアは知る由もなかった。
どのくらい時間が経ったのだろうか。強烈な空腹感で目が覚めた。
燭台の灯りは、眠っている間に燃え尽きたらしい。辺りは真っ暗でひんやりとした空気が漂っていた。
確か、戸棚の中に保存食が入っていたはず。後で怒られてもいい、今は飢えを凌ぎたかった。
子供のミアには戸棚の取っ手には手が届かなかったが、手探りで扉の下に指を差し込み、力いっぱい引っ張って器用に開けた。
空腹だったのは猫たちも同じだったようで、開いた瞬間に棚に飛び乗り、中を物色し始めた。
くっちゃくっちゃ、と2匹が何かを食べている。暗くて見えないが、チーズの匂いがした。
「なんー」
満足そうな声が聞こえる。きっとフクだ。おしゃべりなフクは好物を与えられると、歌うように鳴きながら食べるのだ。
ー確か、この辺りに瓶詰めのナッツがあったはず。
がさがさと棚の中を捜していると、何かが肘に当たり、ごとりと重い音を立てて床に落ちた。おそらく探し求めていたものだ。幸い、分厚い密閉型の保存容器だったので、床に落ちても割れてはいない様子だった。
落ちた瓶を拾うため、しゃがみこみ両手を広げて足元の床を探る。
探しているうちに徐々に目が慣れて周りが見えてきた。
3畳ほどの狭い貯蔵庫の中をぐるりと見渡す。
上の倉庫に続く階段の天井の蓋は、相変わらず閉じられたままだ。
しかし、階段とは反対側の壁の隙間から、ほんの僅かに光の粒子が入り込んでいることに気がついた。
なんだろう、とその隙間に顔を近づけようと立ち上がったとき、コウかフクのどちらかが足元をよぎった。
「きゃっ」
踏まないよう咄嗟に避けたところで体勢を崩し、思わず壁に両手を着く。
すると、壁は薄い合板だったようで、バリバリと音を立ててミアもろとも向こう側に倒れた。
地下貯蔵庫と薄い壁で仕切られていた先には、空洞が奥へと続いていた。
先ほど壁の隙間から入り込んでいた光の粒子は、その奥から届いているようだった。
いつの間にか、コウとフクが空洞の奥に向かって歩き出していた。
「まって、置いていかないで」
ミアも2匹の後に続く。
最初は大人でも立ったまま進める高さだったが徐々に天井が低くなり、ついには子供のミアでさえも四つん這いにならないと進めなくなった。そして、天井が低くなるというよりも地面が高くなっているような感覚で道が狭くなっていく。
進むにつれて、微かながら光の粒子が増え、外の空気が感じられた。
ーやっと出られる!
ミアは土竜のように空洞を進んでいった。
空洞から這い出た場所は、茂みの中だった。見上げると、星が瞬いている。どうやら夜になってしまっているようだった。
結構歩いた気がする、そう思って茂みを抜け、開けた場所に移動する。
コウとフクの姿は見当たらないけど、きっと近くにいるはず。
そう思って周り辺りを見回すと、そこにはミアの知らない景色が広がっていた。
雲間から差し込んだ月の光を浴びて、朽ち果てた修道院が浮かび上がっていたのだ。
「っっ」
ミアは絶句する。
壊れた門、割れた窓のステンドグラス、崩れ落ちた屋根、尖塔の鐘は無残にも地面に落とされ土にめり込んでいた。
ーそんな、何が起こったの?
呆然と立ち尽くしていると、ひとりの騎士がやって来た。
「キミ、どうしたんだい。こんな時間にこんな場所にいるなんて…」
騎士の足元にはコウとフクがいた。にゃーん、とミアの元に戻ってくる。
「その猫はキミの家族かい?」
こくり、とミアは頷く。
「どうしてこんなところにひとりでいるんだい?」
答えに窮し、首を横に振る。
「うーん。困ったな。迷子かな?お母さんかお父さんは?」
ううん、と強く首を振って、ボロボロで今にも崩れそうな修道院を指差した。
「ここが、キミのおうちなのかい?」
うん、と泣きそうな顔で頷いた。
「信じられない…」
その騎士は天を仰いだ。