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序章1 はじまり

5つの精霊と、光と闇の調和で構成されている世界。

光の加護を受けた先導者と、闇の加護を受けた守護者に、世界の命運は委ねられている。

加護の証を授かった少年と少女の、試練と小さな恋のお話です。

 ミアは、物心ついたときには既に孤児だった。


 引き取られた港街の修道院で、シスター達とともに慎ましくも穏やかな暮らしを送っていた。

 しかし、平穏な日々は突然終わりを告げる。

 それは、ミアが修道院で迎えた3度目の冬至の日に起こった。


 この国では、冬至は一年の終わりであり、始まりでもあった。そしてその年の冬至は新月が重なる「朔旦冬至」という特別な日でもあった。この世界を構成している要素のうち、太陽即ち光と、月即ち闇の力が極限まで弱まり、そして復活する日なのだ。

 旧年の労をねぎらい、精霊に感謝を捧げ、新年を寿ぐ。普段は静かな修道院も賑やかな慌ただしさに満ちていた。


 大人達は敷地内を祓い清め、若いシスター達は新年を祝う料理の準備に勤しんでいた。

 ひとり取り残されたミアは、大人の目が届かないのを良いことに修道院裏にある倉庫の地下貯蔵庫に向かった。

 そこは、ミアだけの秘密基地だった。


 修道院に通う地元の子供たちから聞いたのだ。みんな自分たちの秘密基地を持っていて、大人にはナイショの隠れ家なのだと。

ーわたしにだって、ヒミツキチ、あるんだから!

 ミアにとって、近頃のお気に入りの場所だった。


 薄暗い倉庫の床の一角、一見すると何の変哲もない1メートル四方の板なのだが、よく見ると長方形に取り付けられた金属片に横向きの鍵穴のような模様が刻まれている。鍵穴の円形の部分を押すと、くるりと反転して半月型の取っ手に変わる。

 5歳の女児がその板を持ち上げるのは容易ではないが、その苦労がまた、秘密基地へ向かう試練のようで特別感に繋がるのだ。

 半分ほど板をずらしたところで、2匹の黒猫が何処からともなく駆けてきて、するりと地下に消えていった。

「あっ、コウ!フク!ダメだよ、出てきて!」

 ミアは慌てて隙間に顔を突っ込み猫達を呼び戻そうとしたが、体勢を崩してそのまま落ちていった。


「いたたた、、、」

 ごろんごろん、と2回ほどでんぐり返しをしたところで壁にぶつかった。地下への階段を転げ落ちてしまったようだ。背中とお尻がじんわり痛む。

 ゆっくり起き上がり腕や足を擦ってみるが、幸い怪我はないようだ。


 地下特有の、湿った土の匂い。

 きっとシスターの誰かがワインやチーズを取りに来たのだろう、燭台に火が灯されたままだった。


 先に貯蔵庫に降りた猫たちは、戸棚に飛び乗り、観音開きの棚を開けようと必死に爪を立てている。

 カリカリ、カリカリ

 しかし、爪は扉の表面を滑るばかり。

「「にゃあ!」」

 開けて!と、揃って鳴く。

「だ、ダメ!そんな目で見たって開けてあげないんだから」

 貴重な保存食だ、勝手に猫にあげたら先輩達に怒られてしまう。

 開けてくれないのならその気になるまで待つ。と言わんばかりに2匹は戸棚の上と横で思い思いに丸くなり始めた。


「ね、コウ、フク。外に戻ろう?ここに居るのがバレたら、怒られちゃうよ」

 どちらも、耳だけは一瞬こちらを向けたが、顔を上げることはなかった。

 貯蔵庫に猫をいれるなんて!

 この修道院で一番怖いマリアンヌおばさんの反応を想像して、なんとかしなければと考えを巡らす。

 その時、頭上から声がのしのしと足音が響いてきた。


「あら、地下の蓋が開いているじゃないの。やだわ、猫が入ったら食い散らかされるでしょ。ユリアさん、あなたさっき地下降りたんじゃないの」

 大変、マリアンヌおばさんに見つかってしまった!ビクッと身体が硬直する。

「マリアンヌさん、私、蓋閉めましたよー?いっつも怒られるから、今日はちゃんと気をつけたんですよ!」

 パタパタ、軽い足音と一緒にユリアの声が近づいてくる。

「あらま、ほんと。開いてますね」

ーユリアさん、ごめんなさい、私が開けちゃいました!

 そう声を出そうとしたが、マリアンヌおばさんの鬼の形相を思いだし、一瞬躊躇してしまう。

「あ、あの、、」

 遠慮がちに頭上に向かって声を発した瞬間に、バタン、と音を立てて蓋が閉まってしまった。

「はいはい、しっかり閉めました!さっき開けたばかりだから猫なんて入り込む暇もありません。ついでに重石でもしておけば完璧でしょ!」

 さらに、ずずずっと何かを引きずる音がして、二人の話し声と足音が離れていってしまった。


「待って!わたし、ここにいます!ごめんなさい!」

 階段をかけ登り、ドンドンと天井の蓋を叩いたが、二人は気付かずに倉庫から出ていってしまったようだ。

 力いっぱい天井の蓋を持ち上げてみるが一辺がほんの僅かに動いただけで、自分ひとりの力ではどうにもならなかった。


「ごめんなさい、ごめんなさい!出してください!」

 再度、できる限りの大きな声で助けを求めたが、それが誰かの耳に届くことはなかった。


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