あめ。
3日連続、止む事を知らない雨が今日も降っている。そんな雨が綺麗に光る東京の夜街で、私は傘も差さずに歩道を歩いている。
然し何故、傘を差さないのか? と思う方も多いであろう。でも傘なんて邪魔で如かないのだ。殺人に於いてはな。
因みに今、私の横を老婆が通り過ぎた。
然して、其の老婆が今回の標的である。
私は雨に打たれつつ手を天に上げ、指で1秒から5秒を数えた。
「1…… 2…… 3…… 4…… 5……」
すると…… 激しく降っていた雨が空中で留まり、光り輝いていた東京の色が白黒へと変わっていた。
お察しの通り私は今『時間支配』を発動した。
人を殺す為に。
「其れでは早速、あの老婆を殺しに行こうか」
私は先程通り過ぎた老婆の元へ歩み寄り、状態の確認をした。すると老婆は、歩道のマンホールに足を乗せる直前で止まっていた。
この状態に成る様、狙って時間支配を使ったとは言え、これは見事だ。そう言い私は、マンホールの蓋を外した。
マンホールの中は大量の水で溢れている。勿論、これも想定済みだ。3日連続で雨が降っていれば、当然であろう。
然して今、時間支配を解除すれば、この老婆はマンホールに落ち、水で溺れる。然し幾ら、老い耄れた老婆とは言え、蓋をしないと自力で抜け出される可能性がある。
でもだからと言い、時間支配を解除した後で、私が蓋を戻すと、誰かに見られる恐れもある。ので、私はこの対策をとる。
そう言い私は手を天に上げ、5秒から1秒を数えた。
「5…… 4…… 3…… 2…… 1……」
すると…… 時間支配が解除され、空中で留まっていた雨は再び降り落ち、白黒になっていた東京の色は再び光りを取り戻した。
然して案の定、老婆はマンホールに落ち、溺れ藻掻いている。更に私はこれから、もう一度、時間支配を発動する。
そうすれば私がマンホールの蓋を戻している所を、いや、人を殺す所を見られずに済む。因みに時間支配に回数制限は無いのか? と思われている方の為に言っておくが、私の時間支配の能力に限界はない。空の下でさえあれば、幾らでも使用可能なのだ。
という訳で、再び時間支配を発動しよう。
「1…… 2…… 3…… 4…… 5……」
私は先程同様、時間を止めた。
マンホールの中には溺れ藻掻いている老婆が時間支配の発動により止まっている。この状態でマンホールの蓋を戻し、時間支配を解除すれば老婆は確実に殺せる。ので私はマンホールの蓋を戻し、再び時間支配を解除した。
「5…… 4…… 3…… 2…… 1……」
すると…… 蓋を戻したマンホールの中では、水に溺れ藻掻いている老婆が、助けを求めるかの様に叫んでいる。
然し水の中である為、真面に聞き取れる訳も無く只々、泡の音だけが聞こえている。ブクブクブクブク…… と。
然して次第に泡の音は消えて行き、老婆はマンホールの中で溺死した。
3日連続、降り続けている雨を上手く利用し、目的を達成する事が出来た今回。殺し屋は、どんな状況でも臨機応変に対応し、殺さなければ成らない。
因みに、今回の依頼者はあの老婆の息子であった。あの老婆は依頼者を、女手ひとつで育てていたが、依頼者は40歳を過ぎても、働かずに実家に引き篭っていた。
老婆はそんな依頼者に腹を立て、家から出て行くように言った。然し、それでも尚、依頼者は其れを拒み、実家に居座った。
その後、依頼者は私の元へ来て、ババアを殺して欲しい。と依頼してきたのだ。
恐らく依頼者は、老婆のお陰で生きて来られた事への感謝を忘れ、自分に指図する邪魔者としか思っておらず、殺意が芽生えたのであろう。
人間とは熟、恐ろしい生き物だな。
とは言え、依頼者はその道を選んだ。それが、依頼者の正しさであったのだ。私は其の選択を尊重する。
それが殺し屋であり、私なのだ。
この世は残酷で美しい。
激しく降り注ぐ雨が、そう叫んでいる様であった。
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ちなみに好きな天候は雨です。