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欲の世界のダークヒーロー  作者: たなきさ
2/2

偽物と欲

2085年9月ある子供が誕生する。


「…………産まれましたよ!!!〇〇〇さん!」


「あぁ、私の子供が産まれたのね」


と言いながら女性はとても感動した顔で子供を見ようとする


しかしいつまで経っても聞こえるはずの音が聞こえない


「!?まってください!!この子泣いてません!!」


出産に立ち会った周りの人間が慌ただしく動き出す、それをみながら自分しかこの子を助ける欲力をもっていないことを悟り母親は渾身の回復欲の力を使い子供を治そうとした、が、それは一時的なものであり子供が泣かないことには肺の中の羊水が出ることはなく、いつまで回復してもこの子供を助けることにはつながらない、寧ろ苦しみを与えているとさえ言えた。がその苦しさから故か赤ちゃんはとうとう泣きだす、時間にして産まれてきてから5時間

初めての赤ちゃんを産むという経験をした後に5時間にも渡る欲力の行使により母親の生命は消えかけ、その母親に回復の欲力を行使できる人間はこの小さい村にはいなかった。


「あぁ……私の可愛い可愛い……ななや……あなた……を1人に……ごめ………い」


村の人間は彼女のことを惜しみ、怒り、泣いた

彼女はこの小さい村で唯一の回復欲の持ち主であり、今後この村で病気や怪我をしても治せるものは誰もいないので惜しんだ、

あんな男の子どもでも、産みたいといい、死んだことに怒った、

あの美しく優しい慈悲の塊のような女性が死んだことに悲しみ、泣いた、

だがまだ希望はあった、欲力にはその人間の性格にもよるが遺伝性が強いと言うことがわかってきたからだ、よって村人たちはこの子を保護し都会に行かないように束縛することを考えた


村の人たちは自分たちが当たり前のように人の人生を縛る考え方をしていることに誰一人として異論を言うものはいなかった、それはこの小さい村が生存していくには当たり前の考え方であったためしかたなかったのかもしれない、


ただ運が悪かった、その少年は大体の子供が欲力を宿すと言われている10歳になっても欲力を得ることはなかった……




村人たちからの媚びるような視線

自分を束縛するための教育

自分をこの村から去りにくくするための偽の家族

偽の家族の人選をミスったんじゃないかと思うほど冷遇

自分を大切にしているといいながらどこか冷め切っ

た親の目

自分を慕って話しかけてくる姉と弟

同年代の周りの子供からの執拗な突っかかり、それには幼なじみを僕が取ったと考えている子が多いのかもしれない

10歳になっても欲力を得ることがなく村人たちが失望した目でみてくる


僕をこの村に居させるためだけに考えた案であろう以上のことに気がつき始めたのは親の冷めきった目や家族全員と全く似ていないこと、執拗に欲力のことを聞いてくる村長や昔この村に回復欲の持ち主がいた話から全てを察した僕は今もこの村を脱するか考えていた、10歳になったら林にでも捨てられ脱出できると思ったがそれも不発に終わった、なぜ僕がまだこの村に置かれているのかと言うと10歳になっても発現しない欲力なら強力に決まっていると村長が言ったことに関係していた。そして、脱出できない理由もある


脱せない理由はいくつかある

ひとつ、偽の両親は嫌いだがその両親の子ども、僕の姉と弟はとても僕に良くしてくれている


ふたつ、今までの教育で僕はこの村じゃないとダメ

じゃないのかと考えてしまう


みっつ、幼なじみが可愛い


よっつ、都会まで行く実力が足りない


など、その他細かい理由はあるが僕はこの村からどうやら出られないようだ。


「おい!!なな!!!降りてこい!!」


外から偽父が呼ぶ声がする


「はい!わかりました!」


偽父の機嫌がいいのかどうかを声で察しながら下の階に静かな足音で速く降りる

どうやら今日はあまり機嫌が良くないらしい


「おそーーい!!!!おそいおそいおそいぞ!!」


唾を吐き出しながら顔をこちらに近づけ、挙げ句の果てに耳元に口を近づけて何回も同じことを言う


「すみません」


「あなた、近所に聞こえてしまいますよ、ふふ」


そういいながら僕を助けてくれたのは偽母、しかし彼女は僕のために僕を助けたわけではない


「うむ、、そうか、すまん」


「いいのよ、それよりも、ななさん手を洗ってきなさい朝ご飯にするわ」


そう言ってご飯を並べていく母、しかし彼女が用意したのは畑で取れたパサイモであった

パサイモとはパサパサしたイモである。全く美味しくないそれが僕の席に丸々一個置かれるだけであった。

他の席では申し訳なさそうにパサイモを入れたシチューを飲んでこっちをみる姉と弟がいるが僕は全く気にしていないという合図を目で送りパサイモをひとつ丸々食べ終える、これで僕の今日の食事は終わりだ


そう、僕の欲力が発現しないと分かってから周りの態度はより厳しくなり、ご飯も朝の一食だけとなったのだ


「おうおう、俺より先に食べおわんじゃねぇ、」


僕はどうやらお腹が空きすぎてミスをしたようだ

明らかに食べている量が違うのに怒り狂う父を見ながらそう考える、


「すみまっ「パシーーーン」」


大きなビンタ音が食卓に響く


「お父さん!やめてよ!!」


姉の咲季が叫ぶ、あーあ、またお父さんの機嫌が悪くなる


と考えたが今回は違うらしい


「すまんすまん、怒らないでおくれ、俺の可愛い咲季よ」


「わたし、暴力振るう人きらいだから!ななと爽いくよ!」


そういいながら彼女は僕と弟の爽を連れて外に飛び出してくれた


「ありがと、咲季姉さん」


「いいよ、なな」


「ぼ、ぼくも外行くの?」


「爽もたまには外でおにごっこでもした方がいいわ」


どうやら、咲季姉さんのおかげで今日は外に出られるようだし、たまには爽と遊ぶのもいいかもしれない













「おーぅのぉーーーー、どうしよう、咲季に嫌われてしまったかもしれん!!」


「仕方ないじゃない、あの子は護衛欲であなたは暴力欲なのだから」


「むぅ、、くそ!、おまえの欲力でどうにかならんのか!」


「んーー、そうねできないことないわよ、うふふふふふふ」


「おまえ、その笑い方どうにかしてくれ」


「………うるさい」


「……」


彼女がそう言った瞬間父親からは汗が流れ何も喋れなくなる


「あなた如きがわたしを不快にさせたらどうなるかわからないの!!!!」


彼女はヒステリックに叫びながら体を数回蹴る


「だいたい、だいたいね!!ななにひどいことしすぎなのよ!!!あの子には欲力も効かないし絶対に何かある、ふふ、母さんのモノにしてあげるわ!!かわいいかわいい、ななぁちゅやーーわんるぅふふふるふふふ」


父親はこの時ふと我に帰る、確かに俺の暴力欲は暴力を振りたかった自分に合っているが昔からここまで暴力的であったであろうかと、しかしその思考はすぐにかき消されまた暴力欲に飲み込まれ、思考は消される


「そろそろ頃合いかしらね、ななの欲力を発現させるのも」


「……」


「あぁ、喋れないのね」


外からカサカサと土を踏む音が聞こえてくる

村長?咲季?なな?爽?あいつ?


「誰かしら?」


玄関まで出ていくともうすでに家の中に入ったのであろう爽がいた


「お父さん?」


「あら、爽ちゃんお外に言ったんじゃないの?」


「怖いから帰ってきた、それよりお父さんなんで喋らないの?」


「あぁ、お父さん今お馬さんごっこしてるのよ、上に乗って遊んでもらいなさい」


「やったぁ!」





(さぁ、どうやって、なーーなちゃーーんの欲力を発現させましょうか、あれかしら、いやあれ?でもあれもいいわね、そうだこれにしましょう、必要なものは爽とあなたと咲季と、って、ふふこの村全部使えばいいんだわ、どうせなのだし)


「お母さん嬉しそうだね」


「えぇ、あら?今日はあっ、なるほどね、ふふふ」


途中で何か納得した妻がそう言ったのをみて俺は何か気持ち悪いものを見ているかのような気分になったのも束の間。俺の上に乗った爽と窓の奥で走り回っている子供達を見ながら満足そうにしていた妻を静かに見守った。


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