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第1話 おかしな2人

夕日がまぶしい学校の屋上。御木はまたしても告白をあっさり断ってしまった。


そんな様子をコッソリ見ていた黒瀬がその理由を聞こうとするが、はぐらかされてしまう。


一方、生徒指導室では怒号が鳴り響いていた。その犯人は鶴海だった。


放課後の学校でふと2人はすれ違うが……

 『青春は高校生活の必要十分条件』

 こんな言葉をいつ、どこで、誰から聞いたのであろうか。


 世間では、高校生という言葉を耳にするとすぐに『青春』というワードを連想しがちである。実際、昨今の青春ラブコメのラノベやアニメ、ドラマなどの舞台のほとんどがこの高校生というものに集中するし、3次元でも決して例外では無い。(筈だ。きっと)誰しもがそう思う、いやそう思いたい筈。しかし、ある所にそんな神聖な権利を自ら手放そうとしていた超堅物男が1人――――――――





 

 「すまん、今回はお断りさせて貰う。ありがとうな……。嬉しいよ」


 「そ、そうですか……。そ、それじゃあ失礼しましたぁ……!」


 ここは屋上。しかしある女の子にとっては地獄となった。長い髪をなびかせながら、涙ぐんだ瞳を見せまいと必死になりすたすたと現場から去っていく、そんな午後5時。山の上にそびえる校舎から見える何とも言えぬ美しい夕日が差し込んでいる。


 「おいおい、また断ったのかよー。いつか痛い目見るかも知れないぞぉ?」


 物陰から人が出て来た。さっきの光景を、裏からこっそり見てその様子を心の中でヒソヒソ楽しむ様なクズ人間である。


 「またお前か。あの子に失礼だなんて思わないのか?」


 「そんな事より、これで何人連続? てかあの子結構カワイイじゃんか」


 「少なくともここに来てからは6人目。それに誰であろうと付き合う気は金輪際無いぞ」


 「何だよそれ~。超ハイスペックの無駄遣いじゃん……。何なら俺に少しは分けてくれたってええんやで?」


 「無駄遣いだろうが知ったこっちゃない。それに、お前がそんなにモテたいのならそれ相応の努力をすればいいだけの話じゃないか」


 「だとしてもお前には敵いっこ無いかな~。この学校で成績トップテンに名を連ねるなんて、何回生まれ変われば良いんだか……」


 「そうか……。俺で良ければ勉強見てやろうか? 今日はこの後特に予定無いし」


 「おっ、待ってましたそのお言葉! ぜひともよろしくお願いしますよ~」


 「……相変わらずゴマすりだけは多少上手なんだな」


 「誉めて頂き光栄の極みですっ!」


 「これっぽっちも誉めたつもりは無いぞ」


 「まぁまぁそう言いなさらずにさぁ」


 先程までの話題は、いつの間にやら風に乗ってどこか別の所へと行ってしまった。だが、心の中ではこの堅物男、御木 忠義(みき ただよし)は一応ある程度の罪悪感にはかられてはいた。かなり丁重にお断りをしたつもりではあったが、それでもお相手を多少は傷つけしまったのは事実。そんな思いを今一緒にいる黒瀬 七尾(くろせ ななお)というおちゃらけ男から隠そうと実は奮闘している所だった。






「だーかーらー! 反省文など書きませんよっ! こんな下らない事で!」


「まだ言うか……。いい加減改心しろ。さも無いと謹慎処分に……」


「知りません! そんなもの勝手にすりゃあ良いじゃないですか!」


「……お前、こんな好き勝手暴れても良いとでも思ってるのか? そんな事ばかりしてると男子からの評判が下がってしまうぞ?」


 「……どういう事です?」


 「当たり前だろ、お前だって高校生、そういうの1つや2つくらいあってもおかしくないだろ」


 「……どうでもいいでしょ、そんなくだらない事」


西側の窓から、紅の光が注ぐ生徒指導室。そこから今日もまた、怒鳴り声が響き渡る。それも生徒から。苛立ちのあまりドアを勢い良くバァン!と閉めた。そしてそのまま競歩に引けを取らない早歩きでその場を後にした。ここ3日間はそんな事が続いている。


「……ダメだったみたいだね」


 廊下を早歩きで進んでいる中、ある女子が近づいて、やがてそのハイペース歩行に合わせ歩き始めた。どうやら待ち合わせをしていた様だ。


「あぁ。なぜあんな事で反省文など書かねばならんのだ。私は降伏などせんぞ、決して!」


「でも普通は学校で自作の手榴弾作った挙句、誤作動で爆発させるのはどう考えても生指案件どころか警察沙汰だと思うんだよね……」


「あの時は体育で教室には誰もいなかった。怪我人も当然出てないんだし、特に問題点なんて無かろう」


 「(あぁ、やっぱりダメか……)」

 

 「何か言いたい事でもあるのか?」


 「いいや、何でもないよ」


 「そうか、それなら良い」


 2人はそう言葉を交わしながらも決してペースを緩める事無く廊下、階段を歩き続けた。先程からいらだちを隠せないでいる、鶴海 十江(つるみ ともえ)は、この大鳥居高校屈指の問題児。巷では『馬鹿と天才は紙一重の代表例』と呼ばれているとかいないとか。事実、鶴海の頭脳は相当だ。自宅で未だ人類が到達しえない領域に、すでにずかずかと入り込んでいるのでは無いかとか色々。随分と抽象的な噂話だが、こいつならやりかねないという、ふわふわした根拠により瞬く間に拡散されるに至る。それがしょっちゅうやらかすのだから、そのインパクトは跳ね上がる。ちなみに、今話し相手になっているのが米原 琴奈(まいはら ことな)。鶴海とは1年生の時からの仲で、一見鶴海とは性格が真逆の人物。






 「なんだ、もうこんな時間か」


 ふと腕時計で時間を確認すると、午後5時どころか5時半に差し掛かろうとしていた。そんなあっという間な時の経過に、御木は驚いた。


 「いやぁすまん。喋り過ぎたかな?」


 黒瀬が申し訳なさそうに手を合わせて謝って来る。確かに、屋上を出てから進んでは止まって喋っての繰り返しだった。


 「いいや大丈夫。今日は親の都合悪くてご飯ないみたいだし」


 「まじ? じゃあどこかで飯でも食いに行く?」


 「あぁ、お前が良ければな」


 「光栄の極みです!」


 そう言うと黒瀬が立ち止まり、ビシッと敬礼した。その瞳は輝いていた。


 「……またか」


 「まぁまぁ、そう怒りなさんな~……」


 「これっぽっちも怒って無いぞ……。やれやれ、さっきからお前は……」

 






 「もういいや。今日はとっとと鳥羽まで帰ろうか」


 溜息をついた鶴海は、疲れを感じさせる顔をして斜め上の方を見上げる。


 「鶴海ちゃんがそこまでぶっきらぼうに言うなんて……。珍しいね」


 「最近疲れたんだよな……。中間テストも割と近いし、何よりお前が勧めてくれたあのアニメ、早く乾燥しないといけないしな……!」


 そう言って米原の方へと先程とは異なり笑みを見せた。それに米原は感激する。


 「おっ、覚えててくれてたんだぁ! あの作品はね……」


 ちなみに、鶴海がアニメを多少ながら視聴するようになった詳しい経緯は番外編の『くりーく!』でぜひ確認してほしい(宣伝乙)






――――――――よく俺は、周りの人から「スペック高いのに勿体ないよ」と言われたりする。


 確かに、私が持ちうるモノは周りと比べても高いのかもしれないし、もしかしたら妬まれてるのかもしれない。


 だとしても、俺は俺だ。


 だとしても、私は私。


 どんだけ周りから言われようが、俺は俺が決めたやるべき事だけを完璧にこなす。


 どれだけ周りから言われても、私は私が決めたやりたい事だけをとことん追求する。


 俺の人生は俺のだ。


 私の人生は私のモノ。


 「「俺(私)は恋愛なんて興味無い」」






 昇降口へ繋がる廊下。相も変わらず西日が降り注いでいるそこで、2()()がふとすれ違う。目を合わせることも無く、ただすれ違っただけ。夏が刻一刻と近づいている、穏やかながら温もりを感じる5月のある日の出来事。


 


 


 


 


 


 






 


 

 


 


 


 



 






 


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