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黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .04 *** 忍び寄る影、崩れ去る日常
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scene .25 ウェネの提案

「あら、ウェネの所に船なんてあったかしら?」


 ウェネの言葉に、ヴィオレッタが思い出すような仕草をする。


「まぁね。ただずっと昔に使ったきりだから、少しメンテは必要かもしれないけどぬ」


 ウェネは前方を向いたまま、ロルフ達からも見える位置で手をひらひらとさせる。

 グインミッテ貿易港に近づきがたい状況となってしまった今、とてもありがたい提案だ。だが問題は、


「でもわたしたち、船なんて操縦できないんじゃない?」


 その問題点をロロが口にした。そう、船があっても操縦できる者がいないのでは全く意味がない。

 ロルフ達は互いに顔を見あうと首を振りあう。……が、そんなことを心配することはなかったようだ。ウェネは楽しそうに笑うと、「そこはボクにお任せあれ!」そう言い放った。


「ボクはこう見えても村で一番船の操縦が上手くてね。シュヴァールだってランヴァールよりも静かに泳がせられるんだぬ!」


 それほど船の操縦が好きなのだろう、少し興奮気味にウェネは話を続ける。

 そんなウェネの様子に少し目を丸くすると、ヴィオレッタは、


「ウェネが自分から昔の事を話すなんて珍しいわね。そんなのワタシも初耳だわ」


 そう言って前方に見えるウェネの後ろ姿を見つめた。


「おっと、これは失礼したんだぬ」

「そうじゃないわ、もっと話してもいいのよ?」

「……遠慮しておくよ」


 何の間だったのだろうか、ヴィオレッタの言葉に少し遅れて返事をすると、ウェネは急に静かになってしまった。

 そんな空気に耐えかねたのか、二人に代わってロロが口を開く。


「きっと普段の行いが悪いからね! ウェネもヴィオレッタの意地の悪さにはウンザリなのよ!」

「な、何よ。ワタシのどこが意地悪だって言うのかしら!」


 慌てた様子で反論するヴィオレッタの声色にウェネはくすくすと少し笑うと、


「はは! まぁ、そんなところかもしれないね!」


 楽し気にそう言った。その言葉に目を丸くしたヴィオレッタは、隣に座るクロンに抱き着こうとする。


「ウェネまでそんなこと言うなんてっ……クロン! クロンはそんな事言わないわよね?」

「わ、わわっやめてくださいヴィオレッタさん!」


 抵抗虚しく数秒でヴィオレッタの腕の中に収まるクロンを見て笑いながら、シャルロッテが口を開く。


「ねーねーロルフ、じゃぁこのままウェネの船の所まで行くの?」

「あーその話なんだけど」


 その質問に答えたのはロルフではなくウェネだった。


「このままのスピードで走り続けると何日もかかっちゃうから、一旦モクポルトで降りてもらおうと思ってるんだぬ」


 ウェネの話に、騒いでいたヴィオレッタとクロンも視線を前方へと向ける。


「それで、ボクはモクポルトに荷台を置いてプフェアネルでテマタムアへ、キミたちは明明後日の夕方目安に汽車でテマタムア駅に向かってくれるかぬ? あ、テマタムアって言うのがボクの住む村だぬ!」




*****

****

***




「皆さま、いらっしゃい!」

「ウェネ姉から話は聞いてるんだぬ!」

「遠い所ご苦労様だぬ!」


 もう日も落ち切ろうかという時刻、長い時間汽車に揺られウェネの住む村の最寄り駅に一行が辿り着くと、ウェネの使いでやって来たらしいトゥアタラ族の子供……かは分からないが、ウェネよりも更に少し背の低い三人組に歓迎された。前日屋敷に着いたのが遅かったためか、馬車での移動続きで疲れが溜まっていたためか、今朝は屋敷を出るのが遅くなってしまったため約束の時間よりも大分遅れてしまったのだが、この子達は一体どれくらい待っていたのだろうか。


「遅くなってしまってすまな」

「ううん!」


 ロルフが謝罪を伝えようとすると、三人はそう言ってニコニコとしながら首を振る。

 髪型を除けば、背格好から声、動きとまるで一人の人物を複製したかのようにそっくりな三人は、事前に打ち合わせたのかと思う程息ピッタリだ。


「気にしないで!」

「待つのは慣れてるし」

「ぼく達遊んでたからぬ!」


 そう言って各々手に握った薬草や薬花をロルフ達の方へ突き出す。


「わぁ、この辺りには色々な薬草が生えているんですね」


 それを見たモモが思わずそう言葉を漏らすと、三人は目を輝かせて頷いた。


「みんなウェネ姉に教えてもらったんだぬ!」

「ウェネ姉はなんでも知ってるぬ!」

「ぼく達もあんな大人になりたいぬー」


 ウェネはこの子達に相当好かれているらしい。ウェネ姉という呼び名からして、妹かはたまた近所に住む知り合いなのかもしれない。

 と、どこか遠くで小さく鐘の音が三度鳴る。すると、三人の内毎度一番初めに言葉を話す一人がハッとしたような顔をした。それにつられて他の二人も同じような表情をする。


「大変だぬ!」

「ウェネ姉が帰ってきた!」

「早く帰らなきゃ!」


 突然慌てだした三人に、ロルフ達も辺りを見渡した。そう言えば近くには村らしき場所は見当たらなく、そこには一台の馬車があるだけだった。

 彼女達によると、テマタムア駅と言っても村までは歩くと大分距離があるそうだ。使いに出されたのはそのためらしい。


「さぁ乗ってだぬ!」

「馬車ならすぐだから!」

「飛ばすだぬ!」


 ロルフ達が促されるまま荷台に乗り込んだのを確認すると、三人は元気に馬車をテマタムアへと向けて発進した。

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